試合に敗れはしたが、サウサンプトンの本拠地セント・メアリーズ・スタジアムに駆けつけたサポーターの多くは、一定の満足感とともに帰路についたのではないか。 12月27日に行なわれたプレミアリーグ第19節のサウサンプトンvsウェストハム・ユ…
試合に敗れはしたが、サウサンプトンの本拠地セント・メアリーズ・スタジアムに駆けつけたサポーターの多くは、一定の満足感とともに帰路についたのではないか。
12月27日に行なわれたプレミアリーグ第19節のサウサンプトンvsウェストハム・ユナイテッド戦。ラルフ・ハーゼンヒュットル新監督になって2連勝中のサウサンプトンは、先制点を挙げることに成功した。しかし、先制の3分後から立て続けにゴールを被弾。結局、1−2の逆転負けを喫した。
アジアカップにキャプテンとして臨む吉田麻也
だが、試合内容とパフォーマンスには、たしかな成長の跡が見えた。「アルプスのクロップ」の異名を持つオーストリア人指揮官のもと、最前線から積極的にプレスをかけるサッカーで、幾度となく相手ゴールに迫った。インテンシティと運動量が求められるスタイルのせいか、直近2試合に比べるとアグレッシブさは低下していたが、それでもチームの「狙い」と「方向性」はピッチ上で体現できていた。
振り返れば、ウェールズ人のマーク・ヒューズ前監督は、守備的なのか攻撃的なのか、よくわからない迷采配を続けた。だが、ハーゼンヒュットル監督の就任を機に、選手ひとりひとりのやるべきことが明確になった。RBライプツィヒをブンデスリーガの2位に導いた新指揮官の哲学は、着実に浸透している――。そんなポジティブな印象を抱いた。
そして、日本代表DFの吉田麻也も、3バックのCB中央の位置で3試合連続となる先発出場を果たした。チームの復調と進歩を肌で感じながら、まだまだクリアすべき課題は多いと力を込める。
「確実にいいサッカーができていると思う。ただ、いろんなこと、新しいことにトライし始めている段階なので、まだまだ学ぶことはたくさんある。だから、2勝しただけで満足してはいけない。貪欲さを失わずに、大事なのは、ここ(この1敗)からどうリアクションしていくか。
次のマンチェスター・シティ戦(12月30日)と、チェルシー戦(1月2日)で負けが続くんじゃなくて、ここからまた這い上がるような、そんな精神的な強さというのを身につけていかないといけない。それが今の監督、今のスカッドならできると僕は思っているので。だから、まだまだ満足できないです。
(指揮官の目指すサッカーを習得するには)時間はかかると思う。フィジカル的にもフィットしていないといけないし、(選手ひとりひとりが)賢くなければいけない。少しずつ学びながらかなと思います」
ハーゼンヒュットル監督は、吉田を含むDF陣への要求も多いという。そのひとつが「縦パス」。実際、最終ラインから前方にパスをつけるシーンが増えた。
「『ボールを奪った後に前につけろ』と指示がある。今までは負けが続いていて、みんなのパスの選択肢が『後ろ』や『横』になっていた。そうなると、やっぱり攻撃できない。とにかく、ハーゼンヒュットル監督は『奪ったら前へ』と。そこは細かく言われていますね」
吉田が言うように、まだまだチームは発展途上にある。しかし、新監督の就任から4試合のパフォーマンスを見た限りで言えば、少なくとも残留争いに巻き込まれそうな悲壮感はない。むしろ、ここからどこまで成長していけるかという期待感のほうがずっと強い。
次節のマンチェスター・C戦とチェルシー戦では苦戦が予想されるが、長い目で見れば、サウサンプトン、そして吉田にとっても、ハーゼンヒュットル監督の就任は大きな転機になるのではないか。
さて、12月26日からアジアカップを戦う日本代表の合宿が始まった。
ウィンターブレイクのないプレミア勢は、年末年始の過密日程の真っ只中にあり、吉田もイングランドでフル稼働中だ。サウサンプトンで監督交代があったこともあり、アジアカップのことは「まだ考えていない」(吉田)という。
その代表で、吉田はキャプテンバンドを託されることになった。日本代表を束ねる主将として初めて国際主要大会を戦うことになるが、本人は「気負うことはない」と言う。その真意を次のように説明した。
「今までやってきたことの結果として、キャプテンをやることになったと思っているので。キャプテンになったから『じゃあ、何かしましょう』ということはないです。
今までやってきたとおりのことをやって、それを積み重ねていく。その結果として、ここまでキャリアを築いてきたと思っているので。何かを変える必要はまったくない。それよりも、常に成長していかないといけない、ということです。
長谷部(誠)さんがいたときに、(長谷部の)ケガで急にキャプテンを任されたときもあった。そういう時は気負ったりしましたけど、(今は)何かを変える必要もないし、長谷部さんのマネをする必要もない。
もちろん、いいところはピックアップしていきます。長谷部さんのいいところ、(サウサンプトンで主将を務めたジョゼ・)フォンテ(現リール)のいいところなど、いろんな選手のいいところをピックアップして、自分が信じる道でリードしていけばいいと思っています」
吉田はサウサンプトンで在籍7シーズン目に入り、「古株」と呼ばれるようになった。気がつけば、吉田も30歳。2シーズン前から、サウサンプトンでゲームキャプテンを務める試合も増えた。
ウェストハム戦で主将を務めることはなかったが、それでもDFラインを統率し、必要とあらば大声を出して味方を鼓舞した。19歳のフランス人DFヤン・ヴァレリーを奮い立たせようと、激しく檄(げき)を飛ばすシーンもあった。
日本代表の主将として、吉田は「今までやってきたとおりのことをやる」と言う。実は、この言葉はかなり深いのではないか。
サウサンプトンではリーグカップの決勝を経験しながら、昨シーズンは胃が痛くなるような残留争いをチームメイトと戦い抜いた。過去にはマウリシオ・ポチェッティーノ(現トッテナム・ホットスパー)やロナルド・クーマン(現オランダ代表監督)といった前監督たちの薫陶を受け、欧州リーグにも身を置いた。そして、2度のW杯を経験──。もちろん、今もなおプレミアリーグの精鋭たちとしのぎを削っている。
吉田が培ってきた経験は、アジアカップを戦う日本代表にとって間違いなく大きな力になるはずだ。