レッドブルはいまや、F1界に欠かせない名門チームのひとつである。ただし彼らの活躍の場は、F1を中心とするヨーロッパの主要レースだけではない。近年、日本最高峰のフォーミュラカーレース「全日本スーパーフォーミュラ選手権」にも進出し始めてい…

 レッドブルはいまや、F1界に欠かせない名門チームのひとつである。ただし彼らの活躍の場は、F1を中心とするヨーロッパの主要レースだけではない。近年、日本最高峰のフォーミュラカーレース「全日本スーパーフォーミュラ選手権」にも進出し始めているのだ。



マカオグランプリを2年連続で制したダニエル・ティクトゥム

 レッドブルがスーパーフォーミュラに注目し始めたのは、2017年のこと。現在F1で活躍中のピエール・ガスリーがフル参戦を決めたからだ。前年にGP2シリーズ(現FIA F2)でチャンピオンを獲得したガスリーだが、残念ながらF1にステップアップすることができず、日本にやってきた。

 その前年(2016年)にも同じくGP2王者のストフェル・バンドーンがフル参戦したことで、ヨーロッパでもスーパーフォーミュラの存在は徐々に話題になっていた。そんな背景もあり、参戦を決意したガスリーはシーズン序盤こそ苦しんだものの、第4戦・もてぎと第5戦・オートポリスで2連勝。台風の影響で最終戦・鈴鹿がキャンセルとなり、チャンピオンの可能性は絶たれてしまったが、ランキング2位という堂々たる結果でシーズンを終えた。

 シーズンを終えた後、ガスリーは日本で戦った1年間で得られたものを、このように語っていた。

「スーパーフォーミュラはテストがほとんどなく、予選までに走れる時間も少ない。短時間でコースを覚えて、レースで戦えるようにしないといけないんだ。それが結果的に、自分のスキルを上げるキッカケとなった。最高の結果(チャンピオン獲得)は残せなかったけど、いい経験ができた。ヨーロッパにいる若いドライバーたちにも、ぜひ勧めたい」

 もともと高い能力を持っていたガスリーだが、スーパーフォーミュラを経験したことで、速さと強さに磨きがかかった。そんな彼の成長を見逃さなかったのが、レッドブル・ジュニアチームだ。

 2011年、レッドブルは未来のF1チャンピオンを育成するべく、「レッドブル・ジュニアチーム」を設立。これまで数多くの優秀なドライバーを輩出してきた。F1王者に4度輝いているセバスチャン・ベッテルや、史上最年少優勝記録を持つマックス・フェルスタッペンなどが出身者だ。

 今年8月に行なわれたスーパーフォーミュラ第5戦・もてぎには、レッドブル・ジュニアチームの責任者を務めるヘルムート・マルコが視察に訪れ、「来季も育成ドライバーを日本に送り込む」と語っていた。そしてシーズンを終えた12月、レッドブルはふたりの育成ドライバーをスーパーフォーミュラに参戦させることを発表した。

 ひとり目は、F3マカオグランプリを2年連続で制したダニエル・ティクトゥム(19歳/イギリス)。彼はすでに今年のスーパーフォーミュラで2レースにスポット参戦を果たしている。

 とくにデビューレースとなった第3戦・SUGOでは、テスト経験もなく、さらに初体験のコースにもかかわらず、予選9番手に入る速さを披露。決勝はリタイアとなってしまったが、彼を走らせたTEAM MUGENの手塚長孝監督は「短時間での吸収力と成長スピードはすごかった」と、彼のパフォーマンスに驚いていた。

 そのティクトゥムが2019年シーズン、満を持してフル参戦を果たす。関係者の間では「2017年のガスリーに匹敵する活躍をするのではないか」と、早くも注目を集めている。

 ふたり目は、ヨーロッパの有名レース「ドイツツーリングカー選手権(DTM)」で活躍していたルーカス・アウアー(24歳/オーストリア)だ。元F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーの甥でもある。

 DTMでは3年間で6勝をマークしてきたが、アウアーの所属するメルセデスが2018年シーズンかぎりでの撤退が決まり、それを機にスーパーフォーミュラを新たな主戦場に選んだ。すでにスーパーフォーミュラのルーキーテスト、さらにはコース習熟のために全日本F3のテストにも参加し、積極的に走り込みを行なっている。

 また、鈴鹿でのテストには、レッドブルのF1マシンのデザインを手がけるエイドリアン・ニューウェイの息子、ハリソン・ニューウェイ(20歳/イギリス)も参加していた。ニューウェイはレッドブル・ジュニアチーム所属ではないが、彼も来年スーパーフォーミュラへの参戦が噂されている。

 ティクトゥムやアウアーにスーパーフォーミュラの印象や、ヨーロッパでの評判について聞いてみた。

「以前から僕のドライビングコーチや多くの関係者から、『スーパーフォーミュラのクルマはとても速くて、世界的に見てもすばらしいカテゴリーだ』と聞いていたから、いつか走りたいなと思っていた。だから、今年スポット参戦できることが決まった時はすごくうれしかったし、レースを楽しみにしていた」(ティクトゥム)

「WECやル・マンで活躍しているアンドレ・ロッテラー(2003年から2017年までフォーミュラ・ニッポン/スーパーフォーミュラに参戦)が僕にとってのヒーローのひとりで、彼のレースをずっと追いかけて観ていた。そのひとつにスーパーフォーミュラがあったので、何年も前から参戦したいなと思っていた」(アウアー)

 また、スーパーフォーミュラに注目しているのは、レッドブル・ジュニアチームだけではない。ヨーロッパを中心に活躍している名門チーム「モトパーク」も2019年からスーパーフォーミュラに参戦。2017年からエントリーしているB-Max Racing teamとタッグを組み、日本のトップカテゴリーに乗り込んでくる。先日のテストでもヨーロッパからメカニックやエンジニアが来日し、作業に加わっていた。

 このように、スーパーフォーミュラはここ数年で一気に注目を集めるカテゴリーへと成長した。以前はレース中の追い抜きがほとんどなく、「観ていてつまらない」という不評もあった。だが、2018年から全戦で異なる2種類のスリックタイヤを使用しなければいけないルールが導入されたことでバトルが多くなったことも、世界が注目するようになった理由のひとつだろう。

 海外の有力チームが本腰を入れて参戦してくることで、2019年は間違いなく例年以上に熱いレースが繰り広げられるはずだ。海外のチームやドライバーから「F1への新たな登竜門のひとつ」として注目されるスーパーフォーミュラから、次は誰がステップアップするだろうか。