技術が日々進歩するなかで、テニスにも革新の波が押し寄せている。グランドスラム(全仏オープン除く)でも採用されている自動審判から個人レベルのトレーニングに使えるシステムまで、テクノロジーが試合の質の向上に貢献している。◆プロから好評のホークア…

技術が日々進歩するなかで、テニスにも革新の波が押し寄せている。グランドスラム(全仏オープン除く)でも採用されている自動審判から個人レベルのトレーニングに使えるシステムまで、テクノロジーが試合の質の向上に貢献している。

◆プロから好評のホークアイ

ホークアイとは、補助審判システムのこと。コートを囲むように10台のハイスピード・カメラを設置し、複数の映像を組みわせることで、立体的な弾道を自動算出する。ソニー傘下の英Hawk-Eye Innovations社が手掛けており、イン・アウトの判定を正確に行なえることが特徴だ。グランドスラムでも、3つの大会で採用。ちなみにクレーコートの全仏オープンでは、地面の打球の跡を確認できるという理由で導入されていない。

ホークアイを採用する多くの試合では、選手がチャレンジを宣言し、分析結果を照会する運用になっている。チャレンジから数秒内にシステムの推定する着地点がスクリーンに大きく映し出される。チャレンジが許されるのは、選手一人あたり1セットにつき3回までだ。正確な判定を期待できるとあって、選手たちの反応は概ね良好。ただ、結果が出るまでに数秒かかるため、一部にはゲームのリズムが崩れることを嫌う選手もいるようだ。

より先進的な運用を行うNext Gen ATPファイナルズでは、「ホークアイ・ライブ」を導入。線審を廃止し、微妙なボールに対してはシステムが会場のスピーカーを通じて自動的にコールする形を採っている。

◆プロ選手以外にも自動化の恩恵

自動化の波はプロ以外にも。ホークアイに似たシステムが、一部のテニスクラブでも導入されている。イスラエルのPlaySightが開発したテニス分析システム「SmartCourt」は、6台のカメラを通じてプレー状況を分析・記録する。線審の代わりになるほか、選手たちはラリー数のカウントなどから解放され、試合に集中することができる。ゲーム内容はコート脇のキオスク端末で確認できるほか、個別のスマートフォンやタブレット端末などに配信することも可能だ。個人的なトレーニングに向いたシステムになっている。

これをさらに手軽にしたのが、米In/Out社の自動審判システム「In/Out」。230ドルのコンパクトな装置を1~2台ネット上に設置するだけで、コート判定を安価に自動化できる。プレーデータも記録してくれるなど、自動化の波は身近なところまで来ているようだ。

◆臨場感を届けるビデオ編集

試合の動画制作の現場にも、新しいテクノロジーが導入されている。IBMが開発を進める人工知能Watsonは、Cognitive Highlights(認知的ハイライト)という機能を搭載。試合データと観客の声援の大きさなどを分析し、膨大な映像のなかから自動的にハイライトのシーンを抽出する仕組みだ。現地で観たような躍動感を帯びるよう、候補となるシーンを人工知能がピックアップし、映像の編集を行う。

作成された動画はWatsonによりランク付けされ、全米テニス協会のFacebookページや現地の選手ラウンジなどで配信される。全米オープンでは2017年から採用しており、男女シングルだけで300時間を超えるという動画素材の効率的な編集に役立っている。さらにWatsonは、例年800試合以上が行われるウィンブルドンでも活躍。数百時間にも及ぶ映像を自動で分析し、ウィンブルドンのウェブサイトにハイライト動画を公開することで、テニスファンに会場の熱気を届けている。

リアルタイムでの自動審判から舞台裏の動画編集まで、幅広く活躍している最新のテクノロジー。興奮の名場面の縁の下を先端の技術が支えている。(テニスデイリー編集部)

※写真は試合の判定をより正確にする補助審判システム ホークアイ(Paolo Bona / Shutterstock.com)