2018年、浦和レッズから湘南ベルマーレに移籍した梅崎司は、ルヴァンカップ優勝とチームのJ1残留に貢献。31歳になったいま、チームのためにできること、若い選手たちに伝えられることを考えながら、前進を続けている。前回に続き、いまの想いを聞…
2018年、浦和レッズから湘南ベルマーレに移籍した梅崎司は、ルヴァンカップ優勝とチームのJ1残留に貢献。31歳になったいま、チームのためにできること、若い選手たちに伝えられることを考えながら、前進を続けている。前回に続き、いまの想いを聞いた。
2018シーズン、4ゴールを決めて残留に貢献。
「ホッとした」と語った梅崎司
──2018シーズンは、8月31日の長崎戦で今季J1初得点。ご自身の地元、長崎の本拠地で奪ったゴールはどんな味がしましたか?
「運命めいたものを感じました。実はワールドカップ中断前に比べると、中断明けの自分のパフォーマンスが高くないと思っていたんです。(仙台とのルヴァン杯)プレーオフで2ゴール1アシストと、かなり手応えがあった中断前と比較して、中断後は納得できた試合があまりなかった。ワールドカップのフランス代表と(アントワーヌ・)グリーズマンを見たこともあって、チームの一員として規律ある動きをしなければならないなか、やっぱり攻撃でも輝きたい。そんな葛藤も抱えていました。
そこからチームが勝てなくなっていき、やっぱり自分が(ゴールを)こじ開けようと思い始めて。(23節)神戸戦で痛感して、(24節)FC東京戦でその気持ちを強くして、次の長崎戦でゴールを奪えた。しかも地元で。感慨深かったですね。改装されたので外見はもう、自分が子どもの頃に見慣れたスタジアムではないですけど、小学生の時から聖地と思っていた場所。夢に見ていた場所。そんなスタジアムでベルマーレの一員として(J1で)初めてゴールを決め、チームを勝利に導くことができた。すごくうれしかったですね」
──その後、ルヴァンカップも入れて、セレッソ大阪戦、鹿島アントラーズ戦と3試合連続得点。この頃から明らかにキレが増したような気がしていました。
「自分に与えられたタスクをこなし、いかに個を輝かせるか。その辺りが整理されたことや、ゴールを記録したことで、余裕が生まれたと思います。判断や駆け引きが、もうひとつ深いところでできるようになった。それも大きいですね」
──ルヴァンカップで4強入りした時は、優勝を意識し始めていましたね。その柏との準決勝は合計3−3の撃ち合いのあと、PK戦に。3人目のキッカーとして梅崎選手は失敗してしまいましたが、その後に相手も外して勝利。あの時は感情が溢れていましたね。
「あれはこのシーズンを通して、一番のハイライトかなと、自分では思っていて。チームがすごく成長できた2試合だった。その前にミーティングがあって、曺さんのあとに自分が話す機会があったんですけど、そこで自分の思いを伝えたんです。もっとつなごう。恐れなくていい。クリアするだけでは、先に進めない。劣勢の時こそ、勇気を持とう。そんなことをみんなに言ったら、一気にガラっと変わったんです。
後ろの選手たちが、以前だったら簡単に弾いていたような場面でも、マイボールにしようとする。それもすぐにできたんです。それによって攻撃の回数も増えました。守備をしていても、一瞬の隙を窺うようになりましたね。そんなこともあった対戦の結末が、あのPKですから。自分が外したことによって、仲間との信頼関係がより強くなりました。ホントに、仲間に助けられているんだ、と強く感じられた瞬間でした」
──そしてルヴァンカップ決勝では、見事に1-0で勝利。古巣浦和の本拠地で、同じ神奈川のライバル横浜F・マリノスを破り、湘南ベルマーレとして初の主要タイトル獲得に貢献しました。あの時の心境を聞かせてください。そして湘南がカップ戦で優勝できた要因も。
「こんなチャンスは滅多にないと強く思っていました。プレーオフを勝ち抜いたところから、絶対に優勝するんだと思い続け、決勝への切符をつかんだ。ただ、もしかしたら、僕はチームメイトより緊張していたかもしれない。優勝を義務付けられたクラブ(浦和)でなかなかそれが達成できない経験もあったので、自分のタイトルへのこだわりはひと一倍強いと思います。
けど、周りの、とくに若い選手たちは、この大舞台を楽しもう、自分たちをしっかり表現しようとしていたんです。その意味で、やっぱりここでも仲間に助けられました。(湘南の)若い選手のエネルギーは本当にすごいです。あの決勝でも、もっと成長するんだ、もっと高いところへ行くんだ、というエネルギーに溢れていた。その点が、マリノスよりも強かったかなと思います」
──杉岡大暉選手のゴールは、まさにそれが表れていました。
「本当にそうです。怖いもの知らずで(笑)。でもそれでいいと思うんです。(20歳ぐらいの)あの時期って、無敵感があるじゃないですか。ミスしたり、負けたりすることもあるんですけど、コンチクショウ、もっとやってやるぞ、となる。それが続く限りは、突き詰めて勝負していったらいいと思う。自分もそれぐらいの(年齢)の頃はそうでした。このチームに入って、自分の言葉がどれぐらい響いたかはわからないですけど、若手がのびのびやれる空間をつくろうとしてきました」
──今の湘南の若手は、精神的にタフで、向こう意気の強い選手が多いみたいですね。
「とは言いつつも、やっぱりベルマーレの一員なので、(彼らは)まったく自分勝手ではないんです。自分を出すことを優先せず、まずはチーム。それがベースにありますね」
──チームを束ねる曺貴裁(チョウ・キジェ)監督との関係について聞かせてください。あの33節浦和戦後の監督会見で梅崎選手について訊かれ、「あきらめないこと。それに尽きる。10代の頃に初めて見て、負けん気の強い面白い選手というイメージだったが、浦和でどこか表情が暗くなっていた。それが湘南でここまでのパフォーマンスをするようになった。しかも本来の攻撃的な選手として」と言っていました。監督自身もちょっと言葉を詰まらせながら。
「あきらめない。本当にその言葉に尽きますね。悲しいこと、悔しいこと、厳しく苦しい瞬間を、何度も経験してきました。それが長期にわたることもありました。けど、このままで終わりたくない。あきらめたくない。陽の目をもう一度浴びたい。そんな思いしかなかったんです。自分の根底には常にそれがあります。今季も自分に納得できないことは何度もありました。だからこそ考えて、もう一度トライする。僕のベースはそれなんですよね。負けたくないと思い続けて、ダメだったら思考して、自分なりの答えを見つけてそれに挑む。今季はあらためて、そう思いました」
──その「あきらめない」ことを体現して、周りの仲間、ファンを含む多くの人を勇気づけていると思います。
「ちょっと偉そうに聞こえるかもしれないですけど、やっぱり僕は見られている側として、そういったことを表現していかないとダメだと本気で思っています。お客さんに伝える義務がある、というか。苦しい日々でも、自分で光を探して、もう一度その光を浴びようとする。僕はそういうことを繰り返してきたんです。僕らは幸いにも、ピッチでそれを見せることができる。そういった姿を見せるのがプロフェッショナルの役割でもあると思います。自分がすごい選手だとはまったく思わないですけど、そういったところは今季、少し見せられたのかもしれません」
──曺監督に言われたアドバイスや言葉で、とくに印象に残っているものがあれば、教えてください。
「たくさんありすぎるんですけど、自分なりにまとめると、僕の若い頃、一番アグレッシブだった頃と常に比較してくれること。そこに目線を向けるようにしてくれました。そんな監督には会ったことがないです。あの頃とは身体も考え方も違うし、なによりフィジカルが違う。それでも自分のいいところを信じる。その重要さをあらためて感じました。そうでなければ、レッズ戦のゴールも、名古屋戦のゴールも生まれなかったはずです」
──では最後に、ちょっと気が早いかもしれないですが、今後の目標を教えてください。
「2018年は、自分がベルマーレに呼ばれた価値を、最後に見せることができたような気がしています。とくに最後の2試合では目に見える結果で貢献できました。それは自分が強い意志を持っていたからだと感じています。ただそれが十分ではない時もあって、それゆえに最後まで残留争いをしてしまったので、今後はその気持ちや姿勢を完全に自分のものにしたいですね」
プロフィール
梅崎司 Umesaki Tsukasa
1987年2月23日 長崎県生まれ
大分トリニータU-18から2005年に大分トリニータのトップに昇格してJリーグデビュー。その後07年にフランスのグルノーブルへ移籍。08年に浦和レッズへ加入。ケガに苦しむシーズンもあったが、16年のルヴァンカップなど、タイトル獲得に貢献した。18年に湘南ベルマーレへ移籍。チームの中心としてルヴァンカップ優勝、J1残留を果たした。