鹿島アントラーズは12月27日、MF小笠原満男が今季限りで現役を引退することを発表した。 1998年に鹿島に入団し、在籍21シーズンで公式戦725試合に出場。クラブ20冠目のタイトルとなった2018年のACL優勝を含め、17のタイトル…

 鹿島アントラーズは12月27日、MF小笠原満男が今季限りで現役を引退することを発表した。
 1998年に鹿島に入団し、在籍21シーズンで公式戦725試合に出場。クラブ20冠目のタイトルとなった2018年のACL優勝を含め、17のタイトル獲得に貢献。プレスキックの精度が高く、キープ力とボール奪取力に長けた稀代のゲームメーカーとして日本代表でも活躍した。
 岩手県出身、39歳の小笠原は、2011年3月の東日本大震災後に東北出身者らと「東北人魂を持つJ選手の会」を結成し、被災地の支援活動にも取り組んできた。Sportivaでは、まだ震災の被害が色濃く残っていた2014年に小笠原を直撃し、インタビューを掲載。小笠原は、サッカーを通じて自分たちにできること、そして、復興にかける思いを語ってくれた。

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 2014年1月――東日本大震災から3度目の正月を迎えた今年も、小笠原満男(鹿島アントラーズ)は多くの子どもたちに囲まれて新年をスタートさせた。



東北でがんばっている子どもたちの笑顔を見ると、自然とうれしくなるという小笠原満男。

 岩手県出身の小笠原。震災後、東北地方のサッカー復興のために、東北六県出身のJリーガーを募って、任意団体『東北人魂を持つJ選手の会』を発足した。通称『東北人魂』である。

『東北人魂』の活動は、被災地の子どもたちのJリーグ公式戦への招待、チャリティーオークションの実施などあるが、東北地方で行なわれるサッカーイベントについては、主に選手たちのオフを利用して行なわれてきた。一年の内でも、Jリーガーにとって長いオフとなる1月は、毎年多くの選手が参加。今では被災地のみならず、東北各地で子どもたちとサッカーをするイベントが催されている。小笠原も3年間、年始には欠かさず東北各地に足を運び、被災地の子どもたちと一緒にボールを蹴り、復興のために尽力している。

 一方で、いまだ被災地の復興はなかなか進んでいない。子どもたちが自由に走り回り、思う存分サッカーができる場所もまだまだ少ないのが現状だ。

 はたして、小笠原の目に映る今の”東北の姿”とはどんなものなのか。そして、彼の”復興”にかける率直な思いとは――被災地でイベントに参加する小笠原を直撃した。

――今回、『東北人魂』のイベントだけでなく、岩手県沿岸の被災地を案内していただきました。そこで目の当たりにしたのは、「復興」とはまだまだ言えない景色でした。岩手県沿岸の南から北まで、ほとんどが厳しい状況であることに言葉が出ませんでした。

「瓦礫(がれき)がなくなっただけですからね。目に見える限り、『復興している』とは言えない。でも先日、ある市役所の(復興にかかわる)関係者とお会いする機会があって、復興作業についていろいろとお話をうかがったんです。そうしたら、やはりさまざまな問題があって、そんなに簡単に再開発というのは進むものではないらしくて。住民の方々の声をすべて拾わなければいけないですし。第一、慌てて町を作って『失敗しました』『また被災しました』では、元も子もないですからね。正直、時間がかかるのも仕方のないことなのかな、とも感じています。もちろん、できるだけ早く(町を)戻してほしいし、何とかしてもらいたい気持ちは強いんですけど……。今回、イベントに参加してくれた子どもたちの中にも、まだ仮設住宅から通っている子もいますからね。早く元のとおりになって、みんなが不自由のない生活に戻ってほしいって、すごく思っています」

――さて、『東北人魂』の年始イベントも今年で3回目を迎えました。この3年間、子どもたちとの触れ合いを大切にしながら、東北サッカー復興のために活動されてきて、今回改めて気づいたこと、感じたことなどはありましたか。

「実は今回、触れ合った子どもたちから『来てくれてありがとう』の言葉のあとに、『みなさんみたいなJリーガーを目指してがんばります!』って言われたんです。それを聞いたときは、すごくうれしかったですね。最初の頃は、目の前のことで精一杯で、先のことなんて考えられなかったと思うんです。それが、3年目になってようやく『Jリーガーになりたい』って、子どもたちが将来の夢や希望を語ってくれた。そういう声を何回か聞くことがあって、本当にうれしかったです。僕らの活動の主旨でもある、『東北からJリーガーをもっと輩出させたい』『僕らを追い越してくれる選手がこの活動の中から出てきてほしい』という思いが少しずつでも伝わってきたのかな、って」



今年のオフも、東北の各地で子どもたちと一緒にボールを蹴っていた小笠原。

――子どもたちの気持ちも次第に前向きになってきているんですね。

「震災直後は、サッカーができる場所なんて、ほとんどなかったですからね。子どもたちも当初は、(サッカーを)続けるのか、やめるのか、という感じだったと思うんです。それでも、時が経つに連れて『やっぱり(サッカーを)がんばる』ってことになって、今はさらにそこから、もう一歩前に進んでくれたのかなっていう気がしますね。しかも、僕らJリーガーが出向いて、僕らと触れ合うことによって、子どもたちがJリーガーを目指してもらえるようになったのかな、と思うと余計にうれしいですね。少しずつサッカーの環境も……本当に少しずつだけど、なんとか場所を見つけ出してサッカーをやれるようにもなってきているから、『Jリーガーを目指す』という子どもたちをはじめ、東北のみなさんには本当にがんばってほしいです」

――『東北人魂』の活動がいい形で芽生え始めているようですね。ところで、シーズン中はもちろん、大事なオフを削ってでも、小笠原選手が『東北人魂』の活動に励む原動力はどこからきているのでしょうか。

「ひとつはっきり言えるのは、地元だから、です。正直に言えば、他の地域、例えば、九州や四国で同じような活動はできなかったと思います。阪神淡路大震災(1995年)のあとも、中越地震(2004年)のあとも、自分は何もできなかったですから。やはり今回は地元で起こったことだし、お世話になった人たちが困っていたり、大変な思いをしたりしている。毎回(地元に)帰ってくる度に、そうした苦労をしている姿を間近で見てきていますし。そうしたら、何か力になりたい、恩返しをしたいっていうのは当たり前というか。地元だから、そういう気持ちが自然と沸いたんだと思います」

――『東北人魂』の活動を通して、小笠原選手自身、何か変わったことはありますか。

「何かが変わったというより、なんていうか……(自分は)今までいろいろな人に支えてもらってサッカーをやっていたんだなぁ、ということを改めて実感しています。震災直後から、いろいろな方にサポートをしてもらったり、さまざまなことを多くの人たちにやってもらったりしていますからね。だからその分、今は(自分が)みんなに恩返しをしていかなきゃいけないな、と思っています。いつも、助けてもらってばかりではよくないですからね。どこで、誰が、何をしてくれたのかはわからないので、僕のことを必要としてくれて、声をかけていただいたら、できる限りいろいろなところに出向いて行くつもりです。恩返しというか、感謝というか……、やはり助けてもらったり、協力してもらったりしたことに対して、お礼をしていかなければいけないな、と思っています」

――今後の『東北人魂』の活動については、どういったことを考えていますか。

「『支援の継続性が大事』ということがよく言われていますけど、個人的な考えでは、一日でも早く復興して、支援なんてなくなるのが、いちばんの復興だと思っているんです。だから、そういう日が早く来てほしい。だけど、そうなるまでは、まだまだ時間がかかりそうですけどね……。『東北人魂』の今後については、自分がどうしたい、こうしたい、というのではなく、この会の選手みんなの意見を聞いて、みんなで話し合っていきながら、いろいろなことを展開していきたいと思っています。今回も、イベントの前日とかにみんなでご飯を食べていたときに、たくさんのアイデアが出てきたりしたんです。なかでも『面白いな』って思ったのが、秋田と盛岡と福島のチームがJ3に加入することになったので、『東北人魂』とそれらのチームとで、東北で試合をしたいね、という話。東北出身の選手たちが、東北のチームと試合をするっていうのは、すごくやる意味があるんじゃないかって、盛り上がったんです。自分もそう思うし、やはり『東北』っていうのを大事にしたい。『東北人魂』が日本代表と試合をするっていう案も出ていたけど、東北のクラブと試合をするほうが『東北人魂』らしいかなっていうのはあるし、地味なオレらっぽい(笑)。実現できたらいいなぁ」

――『東北人魂』の活動も大切ですが、小笠原選手をはじめ、みなさんの本業はプロのサッカー選手。そこでの活躍も不可欠だと思います。

「まずは、そこですよね。選手ですからね。それぞれの選手が、各チームで活躍することがいちばんだと思っています。例えば、昨年は福島県出身で『東北人魂』のメンバーである、高萩洋次郎の所属するサンフレッチェ広島がリーグ優勝して、彼自身、東アジアカップ(7月)で日本代表に選ばれた。そうした洋次郎の活躍を見て、彼の地元のファンの人たちは、かなり喜んでくれたと思うんですよ。また、競技は違いますけど、プロ野球では楽天が優勝して、東北全体がすごく盛り上がったじゃないですか。だからこそ、自分たちもまずは所属チームでがんばって、活躍しなければいけない。それが、大前提。アントラーズも東北出身の選手が多いですから、がんばらないといけないですね。それぞれの地元の人たちに、喜んでもらいたいですから。そうやって喜んでもらったり、盛り上がってもらったりする話題を、プロのサッカー選手である自分たちはたくさん作っていかなければいけないと思っています」

――最後に、アントラーズの選手として、今季にかける思いを聞かせてください。

「今季から、岩手県出身で『東北人魂』メンバーの山本脩斗(ジュビロ磐田→アントラーズ)が加入します。ますます東北の選手が多くなるので、一層がんばらないといけないですね。目標というか、アントラーズが目指すのは優勝しかないですから。2位でも、3位でもダメですから、常に頂点を目指してやるだけです。そうやって目指すべきこと、やるべきことがはっきりしているので、やりがいはすごくありますよ。だから、しっかりサッカーをがんばっていきますが……、自分はサッカーだけをやっていればいいっていうのは違うな、と思っているんです。その思いっていうのは、うまく説明できないけど、とにかくあの大地震で自分の地元は大変なことになりましたから。その地元のために、(自分が)何かできることを見つけて、これからもやっていきたいと思っています」

 被災地の復興に向けて、自らができることにまい進していく彼の”戦い”はまだまだ続く。