専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第185回 最近、ゴルフ場関連のニュースと言えば、石川遼選手が福島県の棚倉田舎倶楽部というコースを買ったことですかね。 もう少し詳しく言うと、石川選手と父・勝美さんが協議して、…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第185回

 最近、ゴルフ場関連のニュースと言えば、石川遼選手が福島県の棚倉田舎倶楽部というコースを買ったことですかね。

 もう少し詳しく言うと、石川選手と父・勝美さんが協議して、石川選手のマネジメント会社である「ケーアイ企画」が同コースの経営権を取得。勝美さんが同コースを運営する棚倉開発の社長に就いて、石川選手とともに、同コースを活用してジュニアの育成などにも力を注いでいくそうです。

 すでに同倶楽部のホームページでは、石川遼選手の2019年カレンダーの販売を告知。通常2500円のところを、特別価格の2000円で予約を受け付けておりました。予約はお早めに……って、注目するところはそこかぁ~。

 一方、大規模なグループ再編の話では、オリックスグループの一員であるOGM(オリックス・ゴルフ・マネジメント)が運営する39のコースと2箇所の練習場が、MBKパートナーズに譲渡されました。

 MBKパートナーズはアコーディアグループを所有しているので、実質OGMグループがアコーディアグループに入ることになります。これでアコーディアグループは、現在所有の135コースに39コースがプラスされて、一気に174コースを運営することとなり、ゴルフ業界もルノー&日産&三菱のような”巨大ゴルフ場連合”が構築されそうです。

 ところで、なんで日本のゴルフ場は、ここ20年ぐらいで大手の運営会社の傘下に入るようになったのでしょうか。その理由を知るために、少し時間を戻して、平成のはじめあたりからの経過を振り返ってみましょう。

 バブル崩壊後、日本のゴルフ場の多くは”預託金返還”という問題に頭を抱えていました。

 では、その問題はいかなるもので、どうして起こったのか?

 景気のいい頃は、額面1000万円のゴルフ会員権が、市場に流れると3000万円ぐらいで売れたのです。ゆえに、ゴルフ場を造る側は、有名設計家にゴルフ場の設計を依頼し、ひと儲けしようと目論むのでした。

 ひどいと、用地買収費用の何割かを銀行から借りて、あとはまだ完成もしていないゴルフ場の会員権を「特別縁故会員」という名目で、最低1000万円くらいからの価格設定にして、100枚、200枚と販売していたのです。

 ゴルフ場の運営業者には、これだけで10~20億円が入ってくるわけですからね。まるで欲しい分だけのお金を、造幣局に刷ってもらっているようなものです。

 それでも、会員権相場は上昇し、一般に3000万円ぐらいで売り出したときも即完売。ゴルフ場が完成する頃には、市場価格が1億円を超えるコースも現れて、それらは俗に「億カン」と呼ばれるようになったのです。

 ところが、バブル崩壊で景気が急速に後退し始めると、誰もが1億円のゴルフ場会員権を処分しようと思うわけです。おかげで、市場では”売り”が殺到するのですが、そんな泥船化した会員権を買おうという輩などおりません。その結果、相場は下がる一方でした。

 当時、ゴルフ会員権の処理方法、すなわち換金するには、名義の書き換えをして会員権市場に出す方法と、ゴルフ場に返還する方法のふたつがありました。それで、市場ではなかなか売れないとわかると、多くの人たちが「じゃあ、せめて会員証書に記された額面金額だけでも戻してもらおう」と後者を選択し、ゴルフ場に退会届を提出したのです。

 でも、ゴルフ場側は会員権を売って得たお金を、すでに建設費などで使ってしまっているので、そうした返済資金などありません。たとえば、額面1000万円だとしても、100人いれば10億円ですからね。

 そこで、ゴルフ場側が新たな手を打ちます。

 ゴルフ会員権の払い戻しには、通常据え置き期間があって、「名義の書き換え後、10年間の据え置き期間を設けて、その後に額面の金額を支払う」という旨が裏書に添えてあります。ですから、メンバーは我慢して10年待つのです。

 ところが、その10年でゴルフ場の経営はますます悪化。とても返金などできませんから、ゴルフ場としては「さらに10年の据え置き期間を設ける」ことにしますが、そうなると、さらなる迷宮へと入り込んでいくわけです。

 おおよそ、こうした経緯で”預託金返還”問題は起こりました。

 そして最終的に、ゴルフ場側による会員権の払い戻しが不可能になると、もはやゲームセット。ゴルフ場は会社更生法の適用を受けて破綻し、管財人がメンバー相手に説明会を開き、そこでメンバーはとんでもない案を提示され、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図が展開されます……。

 なかでも当時、管財人が提示したもっとも恐ろしいプランは、会員権の額面97%カットですかね。つまり、1000万円の会員権なら、プレー権は与えるものの、返金については30万円しか保証しない、という厳しいものでした。

 これは、「ほとんど詐欺でしょ」と思いますが、そもそも潰れた会社の残務処理ですから、「仕方がない」と諦める人も結構いました。



バブル崩壊後、ゴルフ界もそのあおりをかなり受けました...

 そんなこんなで、会員権の”預託金返還”問題をクリアしたとしても、破綻してしまったゴルフ場は意気消沈しています。そこに、大手のゴルフ場運営会社が手を差し伸べて「やり直そう」と提案するのです。

 わかりやすい例で言うと、とあるゴルフ場が会社更生法を仕掛ける前から、大手運営会社がそのゴルフ場をコンサルティングして、”出来レース”かのように買収劇を仕掛ける場合もあります。

 一方、こんな質実剛健なゴルフ場もあります。

 かつて、私が会員だった南総カントリークラブです。会員権証書の額面1000万円を戻してくれたのです。私は1450万円で購入したので、450万円は損をしましたけど、ぼぼ返金されないご時勢にあって、その対応は素晴らしかったと思います。

 その後、同コースも紆余曲折あって、大手資本が入ったりしましたが、結局『南総CCを守る会』が独立して運営することに。現在、会員権は200万円ぐらいの相場で動いています。以前、会員権の多くを2枚に分割したことがあり、そう考えると、400万円くらいの価値はありますか。

 何にしても、かなりがんばっているゴルフ場だと思います。今でも行きたいコースのひとつになっています。

 というわけで、ゴルフ場は会員に対して、預託金の返還や保証をしなければ、それなりに運営できるのです。南総CCのように、都心から近く、設計や運営、メンテナンスもしっかりしていれば、独自運営でも十分に潤います。

 けど、遠隔地だったり、集客能力がなかったりするコースだと、「寄らば大樹の陰」とも言われるように、大手の傘下に入っているほうが、何かと楽なのです。

 大手の集客は、巨大なホームページや提携予約サイトで大々的に行なわれています。単独経営のゴルフ場に比べると、そうしたサイトを見る人の数が圧倒的に多いのです。加えて、プレー前日でも値下げをしたりして、至れり尽くせりの営業を行なって、たくさんのお客さんを呼び込みます。

 また、多くの場合、大手に運営会社が代わっても、ゴルフ場の従業員はそのまま残っているケースが多いです。おかげで、人材確保に苦労することはありません。しかも、肥料や器具、食材などはグループ一括購入なのでコストが削減でき、マニュアル化されたレストランの料理は、むしろ美味しくなっています。

 以前からのメンバーは、「こんなに客を詰め込みやがって、ハーフで3時間もかかるよ」なんてボヤきますが、生き残っているコースは皆、そんなものです。逆にスカスカのほうが、怖いくらいです。

 ただ気になるのは、プライベートジムを運営する『R』社のように、さまざまな分野に手を出しすぎると、非採算部分が必ず現れて、足を引っ張ります。大手のゴルフ場運営会社にしても、これまでは”護送船団方式”のようにコースをごっそり抱えて、まんべんなく運営していましたが、今後はどうなるのか、ちょっと予想できませんね。

 今のところ、人気コースや高級コースをプレミアム化して、上のほうにグレードアップさせていますが、今後の営業次第では、非採算コースはどこかへ追いやられてしまう危険性も、なきにしもあらず、ですね。