大坂なおみが2019年のテニス界で最も注目すべき選手の一人であることは言うまでもない。WTAランキング1位のシモナ・ハレプ、37歳になった元女王セレナ・ウイリアムズが女子ツアーの柱であるのはもちろんだが、男子で言うところの「Next Ge…

 大坂なおみが2019年のテニス界で最も注目すべき選手の一人であることは言うまでもない。WTAランキング1位のシモナ・ハレプ、37歳になった元女王セレナ・ウイリアムズが女子ツアーの柱であるのはもちろんだが、男子で言うところの「Next Gen」、つまり次の女王の座をねらう世代の旗頭として、21歳の大坂に大きな期待と注目が集まる。

 全米の優勝で示したように、潜在能力は申し分ない。今後も常に四大大会の優勝候補に挙がるだろう。ただ、優勝回数を順調に積み上げられるか、現在の5位のランキングから頂点に駆け上がることができるかとなると、別の難しさが出てくる。いかにシーズンを通してコンスタントに結果を出すか、また、期待の重圧をいかに上手く扱うか、という問題だ。

 16年全仏と17年ウィンブルドンを制したガルビネ・ムグルッサは女王候補の一人だが、18年の四大大会は、全仏で4強入りしたものの残る3大会はいずれも2回戦で敗退、18位で新しいシーズンを迎えることになった。17年全仏で四大大会初優勝を飾ったエレナ・オスタペンコも現在22位と、なかなか踊り場を抜け出せない。

 ハレプや世界ランク2位のアンジェリック・ケルバー、3位のキャロライン・ウォズニアッキといった20代後半の実力者が上位を固め、下の世代の壁となっている現状もある。安定した成績という点で、この3人、あるいは4位のエリナ・スビトリーナを含めた4人は一歩抜けている。後続グループとの差がそこにある。

 大坂にとって大きかったのは、全米の優勝以降も好調さと集中力を持続させたことだろう。世界的なファンの注目、メディアやスポンサーへの対応など、もみくちゃにされながら、東レ・パンパシフィックで準優勝など、しっかり結果を残した。

 2017年全米優勝のスローン・スティーブンスは次に出場した中国・武漢の大会では1回戦で敗退、その後、翌18年の全豪オープンまでシングルス8連敗を喫した。これは極端な例だが、大きな目標を達成したあとには、それくらい難しい日々が待っている。その正念場を大坂は見事に乗り切ったのだ。

 これには「多くの選手が偉業を達成したあとに成績が落ち込むのを見てきた。長く夢に見たことが実現し、いくらか満足してしまうんだ」というサーシャ・バジンコーチの経験が生かされた。コーチは全米の優勝直後から、いつもと変わらぬルーティンを大坂に課した。「普通に過ごす」ことがリラックスにつながると考えたからだ。勝って浮かれず、地に足をつけ、やるべきことをやり続けたことが大坂の心を落ち着かせた。これは貴重な成功体験となっただろう。

 時系列では逆になるが、18年3月のインディアンウェルズでツアー初優勝を飾ったあとの数カ月は、重圧との戦いに苦しんだ。しかし、大坂が「インディアンウェルズの優勝で色々な経験をしたから、全米のあと、プレッシャーを感じることはなかった」と振り返るように、これも今となっては、成長につながる経験であったと言える。

 すなわち、大坂はこれまでとは比べものにならないほど大きな経験値を蓄えて19年のシーズンに臨むことになる。このことは、重圧をかわし、安定した成績を残すために大きな助けになるのは間違いない。

 ただ、大坂の行く手を阻む強敵がいることを忘れてはならない。

 同世代で最大のライバルと見られるのが20歳のアーニャ・サバレンカだ。18年の全米オープンでは大坂と4回戦で対戦、大坂が3セットでなんとか振り切ったが、ショットの爆発力と負けん気の強さに苦しめられた。大坂は「精神的に持ちこたえることが必要だった」と振り返った辛勝で、終了の瞬間に目頭を押さえる場面もあった。18年のシーズン途中、コーチについたドミトリー・トゥルスノフは「テニス界に革新をもたらす存在になりうる」と太鼓判を押す。

 このサバレンカ、さらにインディアンウェルズの決勝で戦った21歳のテクニシャン、ダリア・カサキナが同世代では最大のライバルか。

 彼女たちと一団となってトップを追えば、勢力図の大変動もあり得る。いずれにしても、トップを追う若手グループの中心にいるのは、全米の優勝で精神的にも大人のプレーヤーに脱皮した大坂だ。(秋山英宏)

※写真は左からハレプ(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)、大坂(Photo by Julian Finney/Getty Images)、ケルバー(photo by John Patrick Fletcher/Action Plus via Getty Images)