後半アディショナルタイムに入ると、ベンチスタートの武藤嘉紀がウォームアップを切り上げ、静かにベンチに戻ってきた。しばらくすると、ニューカッスル・ユナイテッドvsフラムの一戦は0−0で終了。またしても、武藤の出番はなかった。武藤嘉紀は1…

 後半アディショナルタイムに入ると、ベンチスタートの武藤嘉紀がウォームアップを切り上げ、静かにベンチに戻ってきた。しばらくすると、ニューカッスル・ユナイテッドvsフラムの一戦は0−0で終了。またしても、武藤の出番はなかった。



武藤嘉紀は1カ月半も実戦から離れている

 武藤が最後にピッチに立ったのは、11月3日のワトフォード戦である。この試合で先発した日本代表FWは前半に左ふくらはぎを負傷し、ハーフタイムで途中交代。以降、3試合にわたり戦線を離脱した。さらに復帰後も、4試合連続でベンチスタート+出番がない。つまり、1カ月半もの間、実戦から離れていることになる。

 武藤が置かれている厳しい状況は、この試合の采配からも浮き彫りになった。

 ラファエル・ベニテス監督は、1トップにベネズエラ代表FWサロモン・ロンドンを配した3−4−2−1を採用。攻撃的MFには、スペイン人のアジョセ・ペレスと、ガーナ代表のクリスティアン・アツのふたりを起用した。

 ところが、攻撃がまったく噛み合わない。つなぎの意識こそあるものの、パスがうまく回らないと前方へドカーンと蹴り出す悪癖が顔を出し、決定的なチャンスを作れない苦しい展開が続く。ロングボールやクロスボール主体の大味な攻撃を繰り返した。

 ならば、交代カードで状況を打開したい。しかも、相手はリーグ最下位のフラムである。ニューカッスルのホームゲームなら、勝ち点3を奪いにいくのが当然の流れだ。

 ベニテス監督は72分に攻撃的MFのアツに代え、ブラジル人のケネディを投入。そして、84分に右ウィングバックのハビエル・マンキージョに代え、アメリカ代表DFのデアンドレ・イェドリンを送り出した。だが、試合の流れは変わらず、0−0で終了のホイッスルを聞いた。

 ゴールのほしい展開でありながら交代枠をふたつしか使わず、しかも、FWの武藤をピッチに送り出すこともなかった。指揮官の采配に、日本代表の立ち位置が表れていた。

 試合後、武藤も悔しさをにじませて語った。

「(試合前の練習で)先発メンバーに入ったり、試行錯誤しながらだったので、『先発あるかな』と思ったが、フタを開けてみれば、こうやって出られないので。最後の交代枠も使わなかった。自分としては悔しい」

 一方で、チームは無得点で終わっている。得点力不足はニューカッスルが抱えている継続課題で、FWの武藤としてはけっしてノーチャンスの状況ではない。しかも、プレミアリーグは中2、3日で試合が押し寄せる、年末年始の過密日程に突入した。どこかのタイミングで、武藤にも先発のチャンスがまわってくるだろう。

 ここを転機にできるか。今、置かれている状況は、武藤がプレミア初ゴールを挙げた10月のマンチェスター・ユナイテッド戦直前のそれに似ているという。あの時は、初得点がレギュラーの座を掴むキッカケになった。

「この連戦で試合に絡まないといけない。次のリバプール戦で、自分が出たら『点を決めるしかない』って気持ちでいる。そこで決めたら、評価もガラッと変わるので。

 ウップンを晴らすじゃないですけど、今はメラメラしている。マンチェスター・ユナイテッド戦の前も、10分とか途中出場が続いて、こういう気持ちでいたので。チームの状態も、思っているよりよくない。そういった時にサブで出てチャンスをモノにすれば、必ず序列は変わってくる。(次節の)リバプールは、結果を出すには最高の相手だと思います」

 試合の4日前、武藤はアジアカップを戦う日本代表に追加招集された。

 W杯ロシア大会では日本代表の一員として戦った武藤だが、森保一監督が就任して以降、過去3回の代表戦で招集を受けていない。それだけに、アジアカップで代表の力になりたい思いは強いようだ。

「チームの状況もあって、森保監督になってから最初の1、2回目はチームと話をして、代表に行けなかった。そして、3回目は招集前にケガをしてしまった。だから、今回が初めて。本当にやらないといけない。

 アジアカップは非常に難しく、そのなかで結果を残さないといけない。他の国は日本を止めにくると思う。その相手に対し、強気の姿勢で臨めればいいかなと思っています」

 日本代表では、中島翔哉(ポルティモネンセ)や堂安律(フローニンゲン)、南野拓実(ザルクブルク)といった若手アタッカーが台頭してきた。さらに、CFのポジションには大迫勇也(ブレーメン)が君臨しており、26歳の武藤はバックアッパーからのスタートになる。自身の立ち位置を踏まえたうえで、最大限のアピールをすると誓った。

「森保ジャパンになって、前の選手が固定されている印象なので、そこに食い込んでいかないといけない。アジアカップは総力戦でもあるので、とにかくチャンスをもらえたら、そこで結果を出すことをイメージしています。そして、チームとして優勝を狙いたい。

(記者:若手が台頭しているが?)サッカーに年齢は関係ない。(若くして代表に選ばれた)自分もそうだったので。すべてがうまくいくわけではないので、つらくなった時に自分を含めた経験のある選手が後押ししていかないと」

 ニューカッスルは「1月2日のマンチェスター・U戦を最後に、武藤が日本代表に合流する」と発表した。となると、代表合流まで残り3試合。1カ月半も実戦から離れているだけに、3試合という限られた時間のなかで、どこまでコンディションを高めて試合に絡んでいけるか――。

 アジアカップ後におけるクラブでの立ち位置を考えても、残された3試合の意味は武藤にとって極めて大きい。