短期集中連載・昇格と降格のはざまで戦った男たち(3)~山田大記(湘南ジュビロ磐田)(2)はこちら>> 12月8日、磐田。大久保嘉人がダイレクトで落としたパスを、彼は一度コントロールした。<試合開始から時間が経って、芝生がだいぶ乾いている…
短期集中連載・昇格と降格のはざまで戦った男たち(3)~山田大記(湘南ジュビロ磐田)
(2)はこちら>>
12月8日、磐田。大久保嘉人がダイレクトで落としたパスを、彼は一度コントロールした。
<試合開始から時間が経って、芝生がだいぶ乾いている。あまりボールが滑らない。少し強めに蹴って止まるようなボールを>
刹那で判断し、右足で裏のスペースへボールを転がした。そこに小川航基が走り込むと、同時に相手GKが飛び出し、交錯するような形になった。前方にダイブする小川が見え、審判がPKの笛を吹いた。
<勝っても負けても、人生の節目となる。ヒリヒリとした戦いを楽しもう。終わった後、後悔するような戦い方だけはしない!>
彼はそう腹を括っていた。強気のプレーは吉と出た。
東京ヴェルディとのJ1参入プレーオフを戦った山田大記(ジュビロ磐田)
ジュビロ磐田のMF山田大記は、東京ヴェルディとのJ1参入プレーオフを戦っている。昨シーズン6位だったクラブは、今季はJ1で16位に低迷。2013年にはキャプテンとして降格を経験しており、二度目は許されなかった。
「サッカーは何が起こるかわからない、というのは前提であったんですけど……」
山田はそう断ってから、決戦前の心境を明かしている。
「ヴェルディを軽く見ていたのもないですけど、そこまで緊張はしていなかったです。むしろ、チーム全体が守りに入らないように、と思っていました。だから、みんなで前から行こう、というのは話していましたね。たとえ失点したとしても、早い時間帯ならJ1の自分たちが撃ち合いをして負けはないって」
序盤、磐田はビルドアップを試みる東京Vに積極的なプレスをかけ、勢いを消している。主導権を握りながらも得点はできない時間が続いたが、腰は引けなかった。そして前半41分、冒頭に記したPKを小川が決め、先制した。引き分けでも勝ち上がれる条件だけに、一気に優位に立った。
その後は悪い流れの時間帯もあったが、後半35分に田口泰士がFKを鮮やかに叩き込み、勝負を決した。
「(田口)泰士の2点目が決まって、ようやく勝利を確信しましたね。それまでは押し込まれる時間帯もあったので。でも、自分が試されているようで、状況を楽しんでいるようなところがありました」
山田は饒舌だった。
「自分はドイツ(カールスルーエ)でプレーし、入れ替え戦も経験しています。アウェーに乗り込んだ時、相手サポーターに殺されるんじゃないか、というプレッシャーも受けました。そういう経験を経た自分が、この状況で硬くなってしまうのか、成長を感じられるのか、それを確かめる余裕がありました。結果は大事だけど、プロセスにフォーカスし、悔いのない戦いをしようと」
その余裕のせいか、2-0で勝利して残留が決まっても、涙は出てこなかった。
「泣くかなと思ったんですが、安堵に近くて。それよりも、(第28節に)湘南に勝った後の方が、涙が出てきそうでした。『まだシーズンが残っている』ってどうにか堪えたんですが。湘南戦は守りに入らず、前から行くというプレーができた。その後に広島を相手に0-2からひっくり返し、このチームなら残留できるはず、という確信が生まれた。最終節で川崎に逆転負けしましたけど、周りが言うように失速していたわけではなかったです」
山田は真剣な顔で言った。
彼自身、昨シーズン、ドイツから戻ってきてから「劣化した」と囁かれ、内心傷ついた。「こんなもんじゃない」と反発したい思いはあった。しかし、(3カ月無所属だった)コンディションの悪さやプレーリズムの変化で思うようにならず、もがいていた。
「ジュビロは、メンバー外になった選手も黙々とトレーニングしていて、チームのために戦うという選手ばかりなんです。だから、試合に出る選手は、彼らのためにもという覚悟は持っています。名波(浩)監督も『出ていないベテランの姿勢を見ろ』と言いますし、結果は出なかったかもしれないけど、そういう組織としての強さは感じていました」
東京Vとの決戦を前に、「磐田は危ない」という噂が山田の耳に入ってきた。「チーム内に不和があるんじゃないか」と。しかし、山田には何のことだかわからなかった。チームとして結果が出ていないのは確かで、その理由はあるはずだったが、共闘の絆は固く結ばれていた。
「この仲間で強くなりたい、と思いますね」
そう語る山田は、残留したことに甘んじてはいない。試合を決める。あらためてそういうプレーをしたいと考えているし、できる自信もある。10得点10アシスト。数字の目標も立てている。その先にある日本代表も、あきらめたわけではない。
「J1に残った日に意味があった、と実感したいですね。そのためには、まずは来年落ちたらダメ。組織としての土台はあるから、結果を出したい。名波監督に任せてもらえている分、選手たちでプレーを作っていきたいですね!」
明るく語る山田は、プロに入って初めて、シーズンをケガなしで戦い切っている。
(つづく)