後半28分。フアン・キンテーロの右からの折り返しを、フリアン・アルバレスが中央でコントロール。くるりとターンして逆サイドに視界を広げれば、その先にはフリーの状態でゴンサロ・マルティネスが構えていた。0-1が0-2になった瞬間である。数…

 後半28分。フアン・キンテーロの右からの折り返しを、フリアン・アルバレスが中央でコントロール。くるりとターンして逆サイドに視界を広げれば、その先にはフリーの状態でゴンサロ・マルティネスが構えていた。0-1が0-2になった瞬間である。数分前に交代で入ったアルゼンチン代表が左足で難なくゲットした瞬間、試合の大勢はあらかた判明した。

 クラブW杯3位決定戦。リーベル・プレートにダメ押しゴールを奪われ、落胆しながらも前に出るしか手段がなくなった鹿島アントラーズ。斬るか斬られるか戦いのなかで、終了間際にはさらに2点追加され、0-4でフィニッシュを迎えた。



リーベル・プレートに2点目を奪われ、肩を落とす鹿島アントラーズの選手たち

 完敗。力の差を痛感させられた大敗。見出し的にはそうなるが、0-1のスコアで推移した後半28分まで、あるいは3点目を浴びた後半43分まで、十分試合になっていたことも事実。もしあそこでこうなっていれば……と、タラレバ話をしても負け惜しみには聞こえない。むしろ善戦と評価したくなる試合だった。

 鹿島にとって痛かったのは前半24分、名GKクォン・スンテの負傷退場劇だ。リーベル・プレートの先制ゴールは、彼がピッチを去ったその直後に生まれた。

 そもそもこの試合、昌子源が故障でスタメンを外れていた。通常の鹿島から、三竿健斗、鈴木優磨に続き、日本代表級がもうひとり不在になるなかでの戦いだった。そして、再三のビッグセーブでチームを支えてきたクォン・スンテがピッチを去るや、先制点を被弾したわけだ。

 いの一番にタラレバ話に加えたくなるが、その前にも惜しいシーンはあった。

 開始10分。CKを得た鹿島は、遠藤康のキックに犬飼智也がニアに飛び込み、ファーサイドで待ち受けるチョン・スンヒョンがこれをプッシュ。ゴールは決まったかに見えた。相手GKヘルマン・ルクスがダメもとで伸ばした手に当たり、ボールはラインを割らなかったが、これなどは偶然の産物と言いたくなるセーブ。運のなさを嘆きたくなるシーンだった。

 しかし、追い込み型の鹿島にとって、0-1はけっして悪いスコアではない。もっとも強さを発揮する状況かもしれない。押され気味な状況を好むというか、居心地のよさを感じながらペースを回復していく、珍しい気質が鹿島にはある。実際、試合の流れは、徐々に鹿島に傾いていった。

 最大の見せ場が訪れたのは前半44分だった。左サイドでボールを受けた19歳の小兵、安部裕葵が細かいステップで密集を縫うようにドリブルを開始。4人目をかわしたところで放ったシュートは、DFハビエル・ピノラの必死のブロックにあったが、そのこぼれ球に反応した安西幸輝のシュートはそれ以上に惜しかった。

 クロスバー直撃弾。前半終了間際にこれが決まり1-1で後半に突入していれば、試合は大接戦になっていたに違いない。

 もうひとつのビッグチャンスは後半18分、セルジーニョのパスを受けDFの背後に飛び出した土居聖真のプレーだ。対峙するDFを、深々とした切り返しで置き去りにした状態で放った右足のシュートだ。GKヘルマン・ルクスのセーブに屈したが、鹿島がまだまだ行ける状態にあることを示すゴールだった。

 しかし、サッカーには流れがある。リーベル・プレートが後半28分に決めた2点目は、鹿島がこの2本のシュートを決め損ねたために生まれたゴールと言ってもいい。勝負の”あや”はここにあった。

 0-2とされた後も、鹿島は意気消沈せずに攻めた。可能性を感じさせるプレーを随所に発揮し、試合を盛り上げた。後半33分にはセルジーニョと、広いエリアでワンツーを交わした安部の鼻先にボールが戻ってきた。深くトラップすればGKと1対1の状態でシュートに持ち込めたが、それは浅くなり、最後は相手DFに潰されてしまった。

 その3分後の36分にもチャンスがあった。安部の浮き球パスを受けた土居が、ボレーシュートを放つも、ボールは浮いてしまう。39分に土居が放ったシュートはクロスバー直撃。そして42分、永木亮太が放ったFKも、またもやクロスバー直撃弾だった。

 鹿島は3分に1回、決定的、あるいはそれに準ずるチャンスを掴んでいた。

 追い込み型という鹿島の本領は、いかんなく発揮されていた。最終スコアは0-4ながら、逆転勝利を収めたACL準決勝・水原三星戦や、今大会の初戦、グアダラハラ戦を彷彿とさせた。1点奪えば試合の行方はまだわからないという望みを、3点目のゴールを浴びた後半43分まで、つなぎながらプレーすることができた。

 普通の0-4というスコアから連想する内容とは一線を画す、世界のファンに向けてそう恥ずかしくないサッカーを展開した。1-3で敗れた準決勝のレアル・マドリード戦より、内容ははるかによかった。

 レオ・シルバとチョン・スンヒョン。選手では、この外国人選手2人の活躍が断然光ったが、安部、安西、土居も、今後に可能性を感じさせるプレーをした。なかでも3度、決定機で惜しいシュートを放ちながら決めきれなかった土居が、来季は面白そうな気がする。不足気味の決定力、パンチ力がこれを機に備われば、日本代表という視点で見ても面白い存在になりそうだ。

 19歳の安部は、後半33分のようなシーンで、シュートに持って行けるスケールの大きな動きが備われば、アンダーカテゴリーを飛び越えて、代表レベルでも通用しそうな選手だ。

 安部は身長171cmで、安西は172cm、そして土居も172cmだ。土居の場合は体重が63kgしかない軽量級だ。こうした小柄な選手が活躍する姿は、最近の日本代表とも共通する。日本サッカーは長年、どちらかといえば高さ、大きさを求める傾向にあった。ハリル時代には、デュエルが声高に叫ばれたものだが、いま注目すべきは、小さな選手の持つ魅力ではないか。

 要はバランスの問題だが、鹿島の170cmそこそこの選手が、クラブW杯で躍動する姿に日本サッカーが追求すべきコンセプトを見た気がした。とりあえず2019年は、小さくて巧い選手に目を凝らしたい。