クラブW杯準決勝、レアル・マドリード対鹿島。試合の行方は、鹿島が得意な展開に持ち込めるか否かにかかっていた。レアル・マドリードがそれにハマってくれればしめたものだった。 それは、3-2で逆転勝利を飾った準々決勝のグアダラハラ戦で見せた…

 クラブW杯準決勝、レアル・マドリード対鹿島。試合の行方は、鹿島が得意な展開に持ち込めるか否かにかかっていた。レアル・マドリードがそれにハマってくれればしめたものだった。

 それは、3-2で逆転勝利を飾った準々決勝のグアダラハラ戦で見せた、後半追い込み型のサッカーだ。



クラブW杯準決勝でレアル・マドリードに完敗した鹿島アントラーズ

 想起するのは2年前。鹿島が決勝でレアル・マドリードと対戦した2016年のクラブW杯だ。鹿島はそこで決勝戦を含めて計4試合を戦っている。奪ったゴールは計9点で、そのうち後半に挙げたゴールは7。前半に挙げた2ゴールも30分以降だった。

 翌2017年シーズン。鹿島は最終戦で川崎に逆転され、J1リーグ2位に終わった。だが、強さを発揮したリーグ中盤戦では、0-0で推移すれば、あるいは1点ビハインドでも、試合は鹿島のものというムードが漂っていた。

 今季も成績をグッと上げてきたリーグ終盤の戦い、さらに言えばアジアチャンピオンズリーグ(ACL)でも、同様の傾向を示した。水原三星と争った準決勝第2戦はそれを象徴する試合で、鹿島の真髄は、1-3(通算3-4)の状況から終盤に追いつき、そして逆転した。

 慎重に入り、前半は耐え、後半まくる。この展開に持ち込むためには、試合がレアル・マドリードのペースで推移する必要があった。そうではない展開になったことを読んだ人は、誰もいなかったのではないか。

 実力上位にもかかわらず、レアル・マドリードはスロースターターを装った。鹿島という弱者の立ち位置を奪ってしまったのである。

「さあどうぞ」と先を譲られた鹿島。競馬で言えば、後方に待機していなければならない追い込み馬が先頭を走らされているような、居心地の悪さを味わうことになった。鹿島にとってはチャンスだったにもかかわらず、そこで行けなかった。キャラと異なるサッカーになることを避けた。

 キャラと試合展開の不一致。この準決勝で鹿島が善戦できなかった原因をひと言でいうならこれになる。

 それが端的に表れていたのが、鹿島側から見て右サイドの攻防だ。

 鹿島には選択肢が常に2つあった。内田篤人か西大伍か。右サイドバック(SB)の人選だ。グアダラハラ戦で先発したのは内田で、このレアル・マドリード戦は西だった。攻撃センスが高いのは西。だが、対峙するレアル・マドリードの左ウイングはガレス・ベイルで、クリスティアーノ・ロナウドがいなくなったいま、チームでもっとも推進力の高い選手である。

 だが、レアル・マドリードは、チームとして「さあどうぞ」と鹿島に攻撃を促してきた。西はそうした意味で、攻撃参加しやすい状況にあった。

 そのとおりに前に出れば、その後ろはベイルに狙われやすくなる。しかし一方で、対峙するベイルが西の動きに反応すれば、その位置取りはおのずと下がる。西の攻撃参加には、ベイルの攻撃力を抑える効果があるのだ。馬力のあるベイルといえども、行動の始点が下がれば、威力は半減する。

 行くべきか、待機すべきか。西(というか鹿島)が選択したのは後者だった。

 攻撃的なのか守備的なのかが端的に表れるのは両SBの位置取りと言われる。前半の鹿島の姿は、西が自重し、低いポジションを取る右SBに象徴されていた。

 だが、西が自重すれば彼を起用した意味は半減する。内田の方がよかったという話になる。

 西は攻撃力があるのに行かなかった。結果として、ベイルのポジションは下がらなかった。その結果、前半44分、ベイルに先制点を許した。高い位置でマルセロとのワンツーを決められ、西の背後に決定的なラストパスを送られた。

 とはいえ、だ。0-1で後半に突入する展開は、追い込み型の鹿島にとって悪い話ではない。本領を発揮しやすい展開になったことも事実だった。

 鹿島はメンバーチェンジを敢行した。永木亮太と内田の交代だ。内田を西に代えて右SBに置き、西を永木が務めていた守備的MFにコンバートする戦術的交代だ。

 ところがその交代は、開始早々、空転する。内田の裏をベイルに突かれたのだ。ゴールライン際から深々と折り返され、逆サイドで待ち構えていたカリム・ベンゼマに強シュートを浴びた。ライン上で左SB山本脩人が間一髪クリアしたが、右SBを西から内田に代える交代に効果が出なかったことを示したシーンだった。

 試合展開的には、むしろ、西→内田より、内田→西の方が適していたと言いたくなる。だが、事前に、レアル・マドリードがスロースターターになることを読めというのは無理な話で、自在なサッカーができなかったことを責める気にはなれない。これはあくまでも結果論である。

 鹿島にとって痛かったのは後半8分にベイルに奪われた失点だ。原因はその直前、自軍ライン上でベンゼマのシュートを跳ね返した山本のバックパスだった。GKに戻したパスが中途半端になり、それをかっさらわれた格好だが、これで試合の大勢はほぼ決した。

 試合の興味は、追い込み型の鹿島がその片鱗をどこまで見せられるかに絞られた。交代エリアには安西幸輝の姿があった。グアダラハラ戦で安部裕葵が決めた3点目をお膳立てしたサイドアタッカーだ。

 しかし、鹿島はこちらが半分淡い期待を抱いている間に致命的なゴールを浴びた。後半10分、ベイルにハットトリックを許したのだ。

 クラブW杯のような一発勝負は、勝って当然の格上の方が戦いにくいとされる。横浜で行なわれた2年前の決勝はその代表的な試合になるが、今回の一戦ではその気配は一切なかった。鹿島に追い風はまるで吹かなかった。実力どおりの結果とはいえ、2年前を引きずるストーリー性を抱えた期待感の高い試合だっただけに、いまは空振りを喫した気分である。

 もし鹿島がこの試合に勝っていたら、サッカー界にとって大事件になっていたことも事実なのだ。決勝のカードがアル・アイン対鹿島では、クラブW杯は存亡の危機に瀕するはずだ。

 決勝進出を逃したことを残念がるより、ここは3位決定戦でリーベル・プレートと戦えることを喜ぶべきだろう。南米王者に勝利しても金星であることに変わりはない。

 この試合の見どころも、リバープレートが鹿島の得意な展開にはまるってくれるか否かになる。グアダラハラ戦的になるか、レアル・マドリード戦的になるか。前者ならば面白い。

 レアル・マドリードに0-3とされた後、土居聖真が1点を返したこともプラス材料である。現実的に考えて、こちらの方がレアル・マドリード戦より接戦になる確率ははるかに高い。期待したい。