試合終了のホイッスルが鳴ると、サウサンプトンの選手たちは一斉に歓喜の雄叫びを上げた。 12月16日に行なわれたサウサンプトンvsアーセナル戦。成績不振を理由にマーク・ヒューズ監督を解任し、オーストリア人のラルフ・ハッセンヒュッテル監督…
試合終了のホイッスルが鳴ると、サウサンプトンの選手たちは一斉に歓喜の雄叫びを上げた。
12月16日に行なわれたサウサンプトンvsアーセナル戦。成績不振を理由にマーク・ヒューズ監督を解任し、オーストリア人のラルフ・ハッセンヒュッテル監督を新たに招聘したサウサンプトンが、再スタート2試合目で強豪アーセナルを3-2で下した。
3カ月半ぶりのリーグ戦勝利に笑顔を見せる吉田麻也
ただし、ここまでの道のりは苦難の連続だった。ヒューズ前監督のもと、9月1日のクリスタル・パレス戦を最後に呪われたように勝てなくなり、11戦未勝利という不名誉な記録を打ち立てた。
プレミアリーグ第15節まで奪った勝利はわずか「1」で、順位も降格圏の18位──。「無策」としか言いようのない采配があまりに多かったヒューズ監督の解任は、至極当然の決断だった。
そして、ハッセンヒュッテル監督の初陣となった前節のカーディフ戦も、就任発表から3日しか時間がなかったこともあり0-1で敗れた。未勝利を12試合に延ばし、暗いムードを払拭することができなかった。
こうして迎えたアーセナル戦。サウサンプトンは2度にわたりリードを奪うも、その度にアーセナルに追いつかれるという苦しい状況に陥った。しかし、残り時間5分のところで劇的な決勝ゴールを奪取。このまま3-2で逃げ切り、約3カ月半ぶりに国内リーグ戦で勝利を掴んだ。
出口の見えないトンネルをようやく抜け出した選手たちは試合後、まるでタイトルを獲得したかのように飛び上がって勝利を祝福。輪になって健闘を称え合うと、走り寄ってきたハッセンヒュッテル監督もその輪に加わり、選手ひとりひとりと抱擁を交わしていった。
この勝利で、サウサンプトンは降格圏を脱出。ヒューズ前監督時代には見えなかった一体感が、サウサンプトン一行から伝わってきた。
3バックの中央センターバックとして先発フル出場した吉田麻也も、勝利の意義は大きいと話す。
「新しい監督で、新しいことにチャレンジした。前半は雑なプレーもあって、ミスも多かったけど、いいところも出せた。改善点はたくさんあるけど、とりあえずは勝利できてよかったと思います」
「新しいことにチャレンジした」と吉田が語るように、ハッセンヒュッテル新体制のアプローチは、ヒューズ前監督のそれと大きく違った。
真っ先に目についたのが、前線からの積極的なプレッシング。3-4-2-1で挑んだサウサンプトンは、前線3人が相手DFのパス回しを執拗に追いかけた。そして、連動するように中盤以下の選手もプレスに参加。プレスがハマらず危険な場面もあったが、とにかく前から敵をしつこく捕まえにいくアグレッシブな守備を見せた。
「アルプスのクロップ」の異名どおり、ハッセンヒュッテル監督のサッカーはインテンシティ(強度)が高く、運動量も多い。吉田は言う。
「前監督との違い? 運動量とプレスです。新しい監督が就任してから、とにかくプレスの練習ばかりしています。今まで、そういうサッカーをしてこなかったし、練習もしてこなかった。監督のサッカーに適応していかないといけない。
そのためには、フィジカル的にインテンシティの高いサッカーに慣れないといけないし、頭でも理解して、身体が自動的に動くようにならないといけない。カギを握るのは、この高いインテンシティを続けられるかどうか。これから始まる連戦のなかで、強度に耐えられるようにしないといけない。
『これからかな』と思うけど、とりあえず新しいことを始めた。タフな練習もして、すぐに結果が出たのは大きいかなと思う」
その吉田も、最終ラインで奮闘した。中央センターバックとしてポジション取りに注意しながらラインを統率し、要所要所で敵の攻撃を潰した。
25分にはナイジェリア代表MFアレックス・イウォビについていき、相手のドリブルが大きくなったところで身体を寄せてマイボールに。対峙した相手1トップのガボン代表FWピエール=エメリク・オーバメヤンにはスピードを警戒し、うかつには飛び込まず、自身の背後を取られないよう気をつけた。
3バック中央での役割も、ヒューズ前監督時代とは異なるという。
「3バックはスライドする動きをかなり求められていて、運動量が必要になります。僕のとなりでプレーするCBも運動量を求められているけど、彼らよりも予測や読み、カバーする動きを自分は求められている。常にアンテナを張り続けてプレーをしなければならないので難しいが、やりがいはすごくあります」
前節カーディフ戦では4バックが採用されたため、吉田はベンチスタートにまわった。しかし、試合前の1週間でトレーニングを積んだ3バックシステムのなかで先発に復帰。吉田としても、このアーセナル戦は新監督にアピールする大きなチャンスだった。それだけに、アーセナルを撃破した意味は非常に大きい。
「新しい監督のもと、前回のカーディフ戦は試合まで時間が短かったが、新しいスタート、いいスタートを切らないといけなかった。初めが何事も肝心で、(自分としても)いいパフォーマンスで監督にアピールしないといけなかった。前回の試合はサブで出られなかったので、このチャンスを絶対に生かさないといけないと思っていた。何とか結果が出てよかった」
そう言うと、吉田は「また試合のビデオを見直して、自分のプレーを改善したい。チームとしても、必ずよくなると思う」と力を込めた。
新しい監督のもと、新たなスタートを切ったサウサンプトン。そのなかで吉田も、チームとともに前進していこうと決意を固めていた。