皆さんは、競走部に『寮長』という役職が存在することをご存知だろうか。寮長とはその名の通り、部の寮を取り仕切る長のことである。では、具体的な仕事内容は一体どのようになっているのだろうか。今回は2018年度早大競走部で寮長を務めている髙橋和生…

 皆さんは、競走部に『寮長』という役職が存在することをご存知だろうか。寮長とはその名の通り、部の寮を取り仕切る長のことである。では、具体的な仕事内容は一体どのようになっているのだろうか。今回は2018年度早大競走部で寮長を務めている髙橋和生(社4=岩手・花巻北)に、寮長の実態について様々なお話を伺った。

※この取材は10月14日に行われたものです。


寮の前で写真撮影していただきました

――まず寮長の仕事について、概要を説明してください

 一番大きな部分を占めているのは、毎月各部員の寮費を計算することです。食費や光熱費や水道代とか。各選手大会や遠征で寮にいない日もあるので、そういった日にちを省いて、寮にいた日数分だけエクセルで計算して、請求、徴収しています。お金の管理というのが一番大きな仕事だと思います。

――高橋和選手が寮長に就任した経緯はどのようなものだったのでしょうか

 1年前に主将や駅伝主将などの幹部を学年で決めた際に決まりました。幹部ということで、競技力もそれなりにあって、人間性というものも評価してもらって、結果的に学年のみんなからの推薦というかたちで就任しました。僕自身こういったかたちでチームの力になれるのであればということで、寮長になろうと決心しました。

――寮長になって、競技力の向上など、自分自身に変化があった部分はありましたか

 幹部の1人としてチームの先頭に立ってやっていかなければいけないという責任も意識するようになりましたし、古谷(拓夢主将、スポ4=神奈川・相洋)や井上(翔太マネージャー、スポ4=愛知・千種)からも競技で結果を出してチームを引っ張っていってほしいという言葉を掛けられました。幹部メンバーに加わる以上は、インカレ(日本学生対校選手権)などで結果を残さなければならないという一心で、1年間競技に取り組んできましたし、寮生活においても、自分自身がチームを引っ張っていかなければと思うようになりました。

――寮長の仕事をする上で、気を付けている点は

 この寮に60人弱いるわけなので、それぞれが自分1人の空間だと思ってしまうと秩序が乱れますし、短距離長距離関係なくお互いに気を遣ってもらうことを心掛けています。あと駅伝シーズンになると外部の方もこの寮にたくさんいらっしゃるので、整理整頓なども気にしています。外部の方からも見られているということを常に意識しています。

寮生活でのルール

――寮生活には規律があると思いますが、差し支えない範囲で構わないので、どのようなものがあるか教えてください

 学年関係なく、選手同士ですれ違ったときにはあいさつをしっかりします。あと廊下、ゼミ室、食堂の中など、みんなで使う場所には私物を置かない。自分の物を責任持って管理するということがルールとしてあります。去年までは廊下に靴を置いている選手が多かったんですけど、僕の代から廊下に物を置かないように徹底しています。

――部屋が縦割りになっているという話をお聞きしたのですが

 寮の部屋は寮長が全部決めています。4人部屋がカーテンで4つに仕切られているんですけど、奥から上の学年の選手が入っていくというかたちになっています。あと消灯は夜の10時で、門限は火曜~土曜が10時半で、日曜と月曜はありません。朝食は、6時半~8時半で取れるようになっています。たまに寝坊する選手もいるんですけど、そういうときは1年生と一緒に当番を何日間かやります。夕食は6時半~9時で取れます。整骨院に行くなどで夕食を取らない予定だったのに取った場合は、1年生と一緒に次の日から当番になります。大体ルールを破ったときには、1年生と一緒に当番をやるというのが罰則として決められています。

――今年から増えたルールなどはありますか

 寮監の小島さん(小島久雄氏)とも、去年の時点でいろいろと話して。各学年でのミーティングをこの寮の応接室や事務室でやることが多いんですけど、それを小島さんが知らない間にやっていることがありました。学年全体が特定の時間にいきなり一気に来られると、夕食をつくる小島さんが困るということで。それで、ミーティングを開く時間と場所を僕と小島さんに話して。

――かぶらないようにするということですね

 そうですね。寮の中でどの学年がどのような動きをするのかということを、小島さんと僕で把握しようということで。あと新たなルールとしては、罰則当番の日数を少し変えました。

――ご自身としては、早大に入学した下級生の頃このような寮のルールをどのように感じていましたか

 下級生のときは、いかに当番をこなすかということに頭がいってしまっていました。僕らの学年は人数が少なくて、当番をやる日数も結構多くて。朝4時に起きて、掃除して、僕自身は早稲田キャンパスに通う時間も取られて、授業から帰ってきてみんなから遅れて練習して、そのまま夕方の仕事があって…。きついなと思うこともあったんですけど、これがこの組織におけるこの学年の役割なんだな、という思いで僕らの学年はやっていました。苦ではあったんですけど、こういう仕組みなんだなということで、そんなに気にはしなかったです。上の学年になるにつれて今度は指導していく立場になっていくので、下積みを経験したからこそ今下級生に指導できているのではないかと思います。

――現在下級生を指導するときに気を付けていることはありますか

 1年生は、春先は気を張って慎重になっていると思うんですけど、どうしても夏を越えたあたりから緩み始めるというか。1年生を指導するのは2年生なんですけど、その2年生を指導するのは3年生で、結局最後全体を指導しなければならないのは僕ら4年生で。自分の競技にだけ目を取られるのではなくて、全体を見て下級生がどういう状況なのかというのをしっかり把握して、思ったところはすぐ言わないと、今度新しく入ってくる高校3年生の選手たちが困ることになるので、そういったところを意識しています。

――寮のルールがあることの意義は、ご自身としてどのように考えていますか

 1年生のときは、「この掃除になんの意味があるのか」と疑問に思ってしまっていて。結局、朝掃除しても夕方にすぐ汚くなってしまうので、どうしても自分の中で解釈しきれない部分もありました。結局チームを指揮するのは僕たち4年生なんですけど、下級生の当番や下級生を指導する3年生の役割がないと、寮も運営が回らないですし、寮以外の部分でもチームとして回っていかないな、と今となってはすごく思います。下の学年のときはなかなか余裕を持てないんですけど、余裕が持てるようになった今では、そういった学年の役割が理解できるようになってきたと思います。

「他の人たちには経験できない、人間的にすごく成長できる寮生活だった」

――ご自身が寮生活をしていて、学んだことや得たものはありますか

 一部の選手を除いて、多くの選手が高校時代実家暮らしで。こうした集団生活というのは僕自身も経験がなかったことでした。ですので、一番は家族という気が知れた間柄との生活、悪く言えば甘えた生活をしていたのが、こうした気を遣いながら生活をするということで、精神的に鍛えられたことと思います。あと朝練習やご飯の時間など、時間に左右される生活ができたというのは、今後社会人になるにあたってすごくいい経験ができたと思います。他の人たちには経験できない、人間的にすごく成長できる寮生活だったと今となっては思います。

――嫌なことやつらかったこともありましたでしょうか

 どの選手に聞いても、口をそろえて当番というと思います。あの1年間は何があっても戻りたくないなと。上の先輩から「ここが汚かったから、次の日やり直し」と言われたり、先輩に迷惑を掛けないように朝4時にバイブレーションで起きなきゃいけなかったり。常に気を張った生活をしなければいけなかったので、大学に入ってこれよりきつい経験はなかったかなと。みんなそう言うと思います。

――ご自身にとって、寮とはどのような思いを抱いていますか

 たくさん方々の支援によって、練習に行きやすいグラウンドの近くにきれいな寮を建てていただいたということで、すごくいい環境で学業や競技に取り組ませてもらっているなと思います。よく磯先生(礒繁雄監督、昭58教卒=栃木・大田原)がこの寮が建てられた経緯をお話してくださるんですけど、自分たちが思っている以上に大学やOB、地域住民の方々が想像以上に支援していただいていて。この恵まれた環境で競技に取り組めているのは、感謝してもし切れない思いです。

――退寮の時期が迫っていますが、今はどのような思いですか

 今年卒業された先輩から、いきなり1人暮らしになると寂しいという声をよく聞きます。多くの部員がいる共同生活が当たり前になっていて、下級生に助けられていた部分が多くあると思うので、いきなり1人になったときに、この寮生活がどれだけありがたかったのかということを思い知らされると思います。僕自身今後も競技を続けていくつもりなので、自己管理を一層しっかりやっていきたいなと思います。

――東京箱根間往復大学駅伝(箱根)の特集の一環での寮特集というかたちになりますので、箱根に出走予定の選手に向けてエールをお願いします

 他の大学にはない早大競走部の寮の特徴として、短距離と長距離が同じ寮に住んで、同じご飯を食べて、同じ空間に生活していることがあると思います。去年に関してはインフルエンザがすごく流行して、短距離と長距離が同じ部屋で過ごしていたので、短距離選手も迷惑を掛けないように予防に努めました。そうしたチームのまとまりというのは、他の大学に比べて強いと思っています。箱根に向けてより一層チームのまとまりを強くして、競走部全体として応援していきます!

――ありがとうございました!

(取材・編集 藤岡小雪)

◆高橋和生(たかはし・かずき)

1996(平8)年6月17日生まれ。177センチ。62キロ。岩手・花巻北高出身。社会科学部4年。