ホンダF1 2018年シーズン総括@将来編 2018年シーズンの「ホンダ短期集中連載」最後となる第3弾は、今季の奮戦から見えてきた来季への展望を語ろう。当然、レッドブル・ホンダとしてトップを争うことができるのか、という期待をしてしまう人…

ホンダF1 2018年シーズン総括@将来編

 2018年シーズンの「ホンダ短期集中連載」最後となる第3弾は、今季の奮戦から見えてきた来季への展望を語ろう。当然、レッドブル・ホンダとしてトップを争うことができるのか、という期待をしてしまう人が多いのではないだろうか。

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トロロッソとの1年間でホンダはしっかりとした土台を構築した

 レッドブル側はすでにクリスチャン・ホーナー代表や、レッドブルのモータースポーツ統括者ヘルムート・マルコ、そしてマックス・フェルスタッペンらが来季に向けた期待感の高さをあちこちで語っている。来季は当然のごとく優勝争いを展開し、チャンピオン争いさえも視野に入れるといった口ぶりだ。

 これはホンダに対するプレッシャーでもあるが、今年1年トロロッソを通してもたらされたホンダの情報や実態、そしてHRD Sakuraからレッドブルへと提供されている来季に向けた情報を元にしたもので、けっして現実離れした話ではないとホンダ関係者は明かす。そのくらい2018年のホンダは大幅にパフォーマンスを向上させ、信頼性も向上させてきたということだ。

 今はまだルノーをやや上回る程度だが、それではもちろん今季のレッドブルと同じように3強チームのなかで抜きん出ることはできない。だが、今季のホンダが果たしたのは、成長曲線の角度を大きくすることだ。とくに、スペック3投入による角度の変化は大きかったという。

 その角度を維持できれば、トップとの差はこれまで以上のペースで縮まっていくことになる。レッドブルとホンダが躍進を確信しているのは、それが見えてきたからだという。

 すでに完成間近のRA619Hスペック1は、今季型スペック3をベースに信頼性・耐久性を確保し、シーズン序盤戦を確実に走るためにある程度コンサバティブなものになると見られる。しかし、スペック2に向けては大きな成長曲線でトップとの差を縮めてくるはずだ。

 レッドブルは、2018年後半戦の日本GP以降はすべてのレースで優勝争いに数秒差で絡む速さを見せてきた。予選ではパワー不足により苦労させられたが、決勝ではメルセデスAMGやフェラーリを上回るパフォーマンスを発揮することも多々あった。

 ホーナー代表は、その理由はマシン開発にあったと語る。

「夏休みの後から我々は開発を進め、前に進むことができたんだ。スパで表彰台に乗り、モンツァでも(フェルスタッペンの接触がなければ)表彰台が獲れたはずだった。シンガポールでもロシアでも速かったし、鈴鹿ではもちろん、オースティンでもメキシコでも表彰台に乗った。シーズン後半戦に我々は大幅にマシンを向上させることができた。

 実際のところ、シーズン序盤も我々は速かった。しかし、パワーユニットのアップグレードが投入されたカナダGPあたりからメルセデスAMGやフェラーリとの差が開いてしまった。それを夏休み明けに(車体開発によって)ふたたび詰めることができた」

 ルノーはスペックBとスペックCの開発につまずき、事前に予告していたとおりのパワーアップを果たすことができなかった。そのため、シーズン中盤戦にレッドブルは苦戦を強いられることになった。それを車体開発によってカバーしたのが、シーズン後半戦のレースペースの速さだったというわけだ。

「『たら・れば』を言うのは簡単だが、もし我々にあと40kWあれば、今シーズンはまったく異なるものになっていただろうね。間違いなく、我々のベストシャシーのひとつだ。同じエンジンのユーザーを見れば、異次元の速さであったことは明らかだろう」

 来季も4メーカーの勢力図が今のままなら、レッドブルはホンダにスイッチするだけでも2強との差をさらに縮めることができると、ホーナー代表は明言した。

「大幅に(2強に)近づくことができるだろう。実際に我々が目にしてきた結果や、聞いている話を元に判断すればね。紙の情報は一部に過ぎない。しかし、ストップウォッチは嘘をつかない」

 ただし、レッドブル・ホンダが目指すのは2強に近づくことではなく、2強を追い越すことだ。

 レッドブルとホンダの関係は、マクラーレン時代のそれとはまったく異なるものだと、田辺豊治テクニカルディレクターは語る。

「実際のパワーユニット搭載に向けてインストレーションミーティングをやっていますが、『こうできたらいいな』という言い方から、『こうしたい。なぜなら、こうだから』という言い方になってきています。ただし、『こうしてくれなきゃ困る』という言い方はしないし、そういう付き合い方にはなっていません。

『こうしたいんだけど?』『どうして?』『理由はこう。じゃあパワーユニット側はどうしたいの? どうしたいのか明確に言ってくれ』というような関係で進んでいるので、『ここに入れろ』『この仕様で作ってこい』みたいな無理強いは一切ありません」

 レッドブルとホンダの関係は、ひと言で言えるほどシンプルなものではない。2者の関係ではなく、実際には2組に分けられる「4者の関係」だからだ。

「レッドブルとトロロッソ」が「レッドブルテクノロジー」を通じて共通認識でホンダに接し、ホンダ側も「HRD Sakura」と「HRD MK(ミルトンキーンズ)」が共通認識を持ってレッドブル側に接する。レッドブルとホンダのコミュニケーションだけでなく、レッドブルとホンダのそれぞれの内部でのコミュニケーションも重要になる。その見直しも、しっかりと進めている。

「HRD SakuraとHRD MKのコミュニケーションも見直していく必要があると思っています。我々ホンダとしては、彼らにどうしてほしいのか、何をホンダに求めているのか。

 レッドブルとトロロッソとホンダというだけでなく、彼らとHRD Sakura、彼らとHRD MKと、コミュニケーションも多岐にわたってきます。レッドブルとトロロッソのコミュニケーション、ホンダのHRD SakuraとHRD MKのコミュニケーションもきちんと整理されてひとつになっていなければいけないので、もう一度あらためて考え直そうということです」(田辺テクニカルディレクター)

 ホンダとしても、レース現場の運営部隊は2倍になるため、最終戦アブダビGPには来季から加わるスタッフが視察に訪れ、レース翌週のテストではより深いレベルで実務に携わって知見を深めた。

「HRD Sakuraやミルトンキーンズで基本的な技術習得は済ませていますから、そのうえでサーキットという現場で実際に働くためのトレーニングです。トラックサイドエンジニアとメカニックの領域に関して、今回ここ(アブダビGP)に来ているメンバーは、来年に向けたスタートを切ったということになります。

 彼らはずっとファクトリー側でやってきた人間ですが、そういう人が現場に来ると、『現場ではこんなことをやっているのか』ということを見つけ、『こんなことをやっているんだったら、ここはこういう設計にしたほうがいいんじゃないか』と気づいたり、『ファクトリー側ではこうしてほしいと思っていたけど、現場ではそうはできないんだ』ということが理解できたりするんです。

 ですから、彼らの新しい目で見たときに、HRD SakuraとHRD MKと現場がうまく仕事を進めていくためにはどこを改善すればいいのかということを、フレッシュな目で見られるうちに気づいたことを私にどんどん言ってくれと伝えました」

 最終戦ではトラブルが相次ぎ、「あらためて課題が見え、いい鞭(むち)が入った」と田辺テクニカルディレクターは語る。

 2019年、ホンダはレッドブルとタッグを組み、「レッドブル・ホンダ」としてスタートを切る。ホンダにとっては第2期のマクラーレン・ホンダ以来、本当の意味でトップチームとタッグを組む。トロロッソとは次元の違う、技術力、精神力、戦いが要求されることになる。

 今のF1におけるトップの世界がどういうものなのか、ホンダは手探りで歩み出そうとしている。そんな船出に不安はないかと問うと、田辺テクニカルディレクターはこう答えた。

「全部不安ですね。今年は大きな取りこぼしも、小さな取りこぼしもありましたけど、来年はそういうものを全部クリアにしていかなければなりません。パフォーマンス面についても、最新スペックで上がったにしてもまだ全然追いついていなくてトップではないし、ライバルメーカーも止まっているわけではありませんから、楽観視できる状況でもありません。できるかぎり性能も信頼性も上げて2チームにパワーユニットを供給することが、パワーユニットマニュファクチャラーの使命だと思っています」

 山本雅史モータースポーツ部長も、レッドブルと組むことの意義を噛み締めている。

 2018年のホンダは「第5期」と言っていいほどガラリと体制を変え、実際に大きく生まれ変わった。まだ飛躍には至っていないが、その土台はできた。その土壌の上に大きく花を咲かせるのが2019年だ。

「レースって、いい車体といいパワーユニット、いいドライバー、そしてそれを総合的にマネジメントするチーム力が揃わないとダメで、ひとつでも欠ければチャンピオン争いはできないんです。レッドブルのマネジメント力や車体性能は申し分ないし、ドライバーも申し分ない。ということは、あとはどれだけパワーユニットが彼らの要求に応えられるか。それをやり切るだけなんです。

 もちろん、我々も過去3年間に苦労したことから学んだことも多いし、今年は来年へのステップを踏むためのいい成熟期だったと思うんです。失敗から学んで、いろんなことを構築し始めて、それを成熟させて、初めて方向性が明確になってきた。そういう意味で、来年の飛躍に向けて本当の意味の準備ができた1年だったと言っていいんじゃないかと思います」

 2018年はトロロッソ・ホンダとして、コンストラクターズランキング9位という無残な結果に終わった。しかし、目には見えないところで、ホンダの土台はしっかりと固まった。今季ホンダが注いできた努力の真価は、来季にこそ表れる。飛躍のシーズンを、楽しみに待ちたい。