Jリーグは毎年、各クラブの経営情報を開示している。資金潤沢なクラブ、そうではないクラブは、これに目をやれば一目瞭然。18のクラブが横一線に並んで戦っているわけではないことがわかる。 昨季J2で2位に入り、今季初めてJ1を戦ったV・ファ…

 Jリーグは毎年、各クラブの経営情報を開示している。資金潤沢なクラブ、そうではないクラブは、これに目をやれば一目瞭然。18のクラブが横一線に並んで戦っているわけではないことがわかる。

 昨季J2で2位に入り、今季初めてJ1を戦ったV・ファーレン長崎。2017年の営業収入は11億2000万円だった。今季のJ1リーグを戦った18チームの平均は40億8200万円で、17番目の湘南ベルマーレは15億6600万円だった。長崎の営業収入は際だって低い。

 今季、勝ち点30で最下位に終わり、J2に転落したが、コストパフォーマンスに照らせば悪い話ではない。J2にも営業収入で長崎を上回るクラブは多く、その額はJクラブ全体で30位になる。J1で勝ち点30はむしろ大健闘と称賛されていい。

 だが、監督を務めた高木琢也氏は解任の憂き目に遭った。契約満了に基づく退任という説明だが、これは監督のクビをすげ変えれば解決する問題ではない。「数年でJ1優勝を狙うチームに」と、長崎の髙田明社長は述べたそうだが、そのためには予算規模を示す営業収入を、せめてJ1の平均レベルまで上昇させる必要があるだろう。



前年の営業収入は16位だったにもかかわらず、4位に入ったコンサドーレ札幌

 Jリーグの戦いには、成績とは別の視点がある。それぞれの組織の大小と、それに基づくコスパである。こちらの方が重要に思える場面にも多々、遭遇する。だが、視点の9割は成績に頼る現実がある。ひと言でいえば表面的だ。

 余談だが、日本代表の報道もそうだ。テレビから聞こえてくる「森保ジャパンの通算成績はここまで5戦して4勝1分けと好調です」というニュース原稿に対戦相手の情報はない。キルギス、ベネズエラ、ウルグアイ、パナマ、コスタリカ。この5カ国と日本との潜在的な力関係は置き去りにされている。しかもすべてホーム戦だ。負けが許されるのはウルグアイのみだが、そのウルグアイとて人口350万人の小国である。

 2018年のJ1リーグに話を戻せば、最終順位は以下のとおりだった。

1)川崎フロンターレ、2)サンフレッチェ広島、3)鹿島アントラーズ、4)コンサドーレ札幌、5)浦和レッズ、6)FC東京、7)セレッソ大阪、8)清水エスパルス、9)ガンバ大阪、10)ヴィッセル神戸、11)ベガルタ仙台、12)横浜F・マリノス、13)湘南ベルマーレ、14)サガン鳥栖、15)名古屋グランパス、16)ジュビロ磐田、17)柏レイソル、18)V・ファーレン長崎

 一方、前年の営業収入の順に18チームを並べると以下のようになる。必ずしも前年の営業収入=今年の年間予算というわけではないが、ある程度、クラブの予算規模を類推できる順位と言っていいだろう。

1)浦和(79.71億円)、2)神戸(52.37億円)、3)鹿島(52.28億円)、4)川崎F(51.23億円)、5)G大阪(49.66億円)、6)横浜FM(47.65億円)、7)名古屋(45.94億円)、8)東京(45.88億円)、9)清水(40.10億円)、10)C大阪(39.76億円)、11)磐田(38.28億円)、12)柏(34.54億円)、13)広島(34.24億円)、14)鳥栖(33.50億円)、15)仙台(27.09億円)、16)札幌(26.76億円)、17)湘南(15.66億円)、18)長崎(11.20億円)

 この2つの順位を合わせてみることで、浮き彫りになるのはコスパだ。営業収入と成績の関係を順位化してみると、以下のようになる(カッコ内は成績の順位と営業収入の順位との差)。

1)札幌(+12位)、2)広島(+11)、3)仙台、湘南(+4)、5)川崎F、C大阪(+3)、7)東京(+2)、8)清水(+1)、9)鹿島、鳥栖、長崎(±0)、12)浦和、G大阪(-4)、14)磐田、柏(-5)、16)横浜FM(-6)、17)神戸、名古屋(-8)

 この順位が高ければ高いほど、コストパフォーマンスがいいことを意味する。

 たとえば、スペインリーグでレアル・マドリードとバルセロナは、年間予算的に1、2を争う関係にある。3位アトレティコ・マドリードとの差は大きい。したがって、両チームは3位以下に沈むわけにはいかない。欧州内でも予算的に同様に1、2を争う関係にあるので、チャンピオンズリーグ(CL)でも常に優勝争いに絡むことが求められる。評価の分かれ目は、予算に基づく適正なポジションに収まっているか否かになる。

 予算的に優位に立つ金満クラブといえば、Jリーグでは浦和だ。営業収入で首位の座を守り続けて10数年。しかしJ1のリーグ戦に限って言えば、優勝を飾ったのは過去に1度きり(2006年)だ。今季の順位も5位だった。コスパの悪いクラブと指摘されても仕方がないが、浦和に対してそうした指摘は、外国のようには聞こえてこない。評価の基準は成績のみだ。

 浦和と双璧を成すのが名古屋だ。昨季の予算規模は7位ながら成績は15位。だが、2017年はJ2暮らしだったので、営業収入は通常より少なめになる。本来は3位以内にいて不思議はない金満クラブだ。しかし優勝したのは浦和同様一度きり(2010年)。J2転落や降格争いをする姿は、正直言って、あまり格好よくない。コスパの悪さを曝け出している状態だ。

 その名古屋と今季、コスパの悪さで最下位を争ったのは神戸だった。ルーカス・ポドルスキ、アンドレス・イニエスタを獲得。そして終盤、フアン・マヌエル・リージョを新監督に迎えながら、J2降格の危機から脱したのはラスト1週を残した33節という有様だった。

 2014年はJ1の営業収入で14位だった神戸だが、15年、16年は8位。そして2017年、一気に2位へと急上昇した。首位浦和とは27億円強の差。近い将来、浦和を脅かす存在になるのか。営業収入より先に成績で浦和を上回らないと、コスパの悪い、格好のよくない金満クラブになる。

 近年のJリーグで”2強時代”を形成しつつある川崎Fと鹿島は、コスパ的に見ても問題ない。J1リーグで2連覇を達成した川崎Fはこの結果、賞金を総額37億円(18.5億円×2年)得た。3年の分割払いなので、すでに全額を手にしたわけではないが、資金はどのクラブより潤沢だ。17年2位、18年3位の鹿島も賞金を総額12億円以上、手にした計算になる。

 ちなみにこの12億円強という金額は、先述のように長崎の2017年1年分の営業収入を上回る。そう考えれば大金だ。その使い道は明示されるべきだろう。こちらは試合で得た賞金でもある。スタンドを埋めたファンとともに勝ち取ったものだ。できれば彼らに見える形で返したい。内部留保は避け、大物選手の獲得資金に回すべきではないか。

 だが両クラブは特段、大物を獲得していない。鹿島がテクニカルディレクターのジーコにどれほど支払っているか定かではないが、地元のメディアが、獲得賞金の使い道に迫る報道をしたという話は聞かない。このあたりについてうるさい欧州の地元メディアとの大きな違いを見る気がする。

 名古屋のメディアは、グランパスの成績はもちろん、コスパについても、もっと厳しい目を向けるべきだろう。それがサッカー的な視点というものだ。

 真の優良クラブはどこなのか。駄目クラブはどこなのか。名古屋は15位で残留し、長崎は18位で降格した。だが、これが逆になっていた方が、そうした視点の広がりには貢献した気がする。