鎌田大地インタビュー(前編) シント・トロイデンの鎌田大地(22)が、ベルギー1部リーグ第19節までに出場13試合で10ゴールと得点を量産している。 昨シーズンはドイツのフランクフルトで出場3試合のみ。オフに戦力外に近い形で新天地を求め…
鎌田大地インタビュー(前編)
シント・トロイデンの鎌田大地(22)が、ベルギー1部リーグ第19節までに出場13試合で10ゴールと得点を量産している。
昨シーズンはドイツのフランクフルトで出場3試合のみ。オフに戦力外に近い形で新天地を求めることになったが、シント・トロイデン加入後は、本人が希望する中盤よりやや高めの1トップ下で起用されたことで得点感覚が開花。現在リーグ5位と躍進するチームを牽引する働きを見せている。
冨安健洋(20)、遠藤航(25)、関根貴大(23)、小池裕太(22)に続いて、チーム5人目の日本人選手となった鎌田に、ゴール量産の理由について訊いた。
今季ここまで13試合出場、10得点の鎌田大地(シント・トロイデン)
――加入以来、得点を量産しています。
「ここに来て最初の試合をスタンドから観たときに、15点は取りたいと監督にも言いました。それができなければ、ただの口だけの選手になってしまうので……。シーズンの約半分を終えてこの結果は悪くないと思っています。もちろん欲を言えば、チャンスはあっただけに、もっと取れていたという気持ちもあります。ここでは結果を残さないと上には行けませんから」
――ドイツからベルギーに来て、ここなら点を取れる、取らないといけないと思ったということですか?
「はい、そうです」
――ドイツとベルギーでは、やっぱりレベルが違いますか?
「リーグのレベルについて、どちらが上とか下というわけではないんですが、やっぱりスピード感やフィジカルの強さ、戦術面といったところはドイツの方が上だなとは感じます。もちろん、ベルギーにも個々に優れた選手がいるのは間違いないのですが……」
今季の序盤、4分け1敗と出遅れたシント・トロイデンだが、移籍期限ギリギリの8月末にフランクフルトからのレンタルで鎌田が加入すると、時を同じくして勝ち星を重ね始めた。現在は5位とプレーオフ出場圏内(上位6チーム)をキープしている。これは2015年にクラブ史上5度目の1部昇格を果たして以降、13位、12位、10位と低迷してきたチームにとっては予想以上の結果ともいえる。その呼び水となったのが、まさに鎌田のゴールだった。
――手応えや充実感についてはどう感じていますか。
「僕が移籍してきた時は、チームとしてなかなか点が取れずに1勝もしていない状況だったので、チームの力になれていることは単純に選手としてうれしいです。昨季はフランクフルトでまったくチームに貢献することができなかったので、いまはピッチに立てているだけでもすごく幸せにも感じます。
ただ、充実感があるかと言われると、僕はかなりの危機感を持ってここに来たわけで、10ゴールしたといっても、これを続けなきゃいけないですし、どちらかといえば、この流れが止まったらどうしようという考えの方が大きいですね。僕はドイツからベルギーに来て、ここで活躍できなかったら戻るところがないわけですから。気持ち的には活躍しているなんて考えてもいないですし、最低限の結果を出せてホッとしているような感じです」
――フランクフルトで思うようにプレーできず、シント・トロイデンに来てから何かを変えたということはありますか。
「サッカー面ではないです。正直、このチームに来た時に、『やれるな』と思いましたから。ゴールへの意識も、急に何かを変えたということはないです。鳥栖時代は、トップ下といっても戦術的には特殊で、サイドに流れる動きが多く、なかなか中央でゴール前に入っていくような形はなかったですし、それこそドイツに行ってからは、練習から得点はかなり意識していて、練習ではそれなりに点を取れていたんですけどね」
――ドイツでは何が難しくて、ベルギーでは何がよかったのでしょうか。
「昨季、フランクフルトで出た試合でインパクトを残せなかったのは事実ですが、だからといって、ドイツでまったく通用しなかったかといえば、全然そんな風には考えていません。ドイツはやはりフィジカルが強いですし、ボールを収める部分などは弱かったなとは思いますけど、ゴール前でボールを持てれば、いまと変わらないくらいできていたという感覚はありますから。
ただひとつ言えば、フランクフルトではどうしてもサイドMFと見られていたので、ポジションの難しさがありました。たとえば今季、15点、もしくは20点を取って来年フランクフルトに戻っても、またサイドハーフで考えられたら絶対無理だと思いますし。ポジションの問題は結構大きいかなと思います。
もちろん、昨季のフランクフルトは本当によかったですし、僕とかぶるポジションにはいい選手が揃っていて、単純に彼らとの比較で僕が負けたことは否めません。中盤なら、ケビン=プリンス・ボアテング(ガーナ代表)は、もう圧倒的でした。彼には100%勝てないと思いましたし、誰が監督だろうと、彼と僕を比べたら彼を使うと思います。それに前線ではクロアチアのアンテ・レビッチとかもいましたから。
ベルギーでは、最初に出た試合(第7節のヘント戦)でゴールを決めて勝利に貢献できたことで、気持ち的に楽に入れた部分はあります。正直、フランクフルトでは、ほとんど試合に出ていなかったので、僕的には試合勘も心配でしたし、やはりサッカー選手は試合に出られないとメンタル的にも下に落ちるというか、パスひとつでも自信がなくなるものです。フランクフルトでは最初に躓き、その後は『ミスをしないように、ミスをしないにように』とプレーが消極的になっていた部分もあったと思いますし、ここで新たな気持ちでスタートできたことがよかったのかもしれません」
――いまは自信を持ってプレーできている?
「僕が目指している方向性とは、ちょっと違うんですけどね(笑)。いまは5-3-2の1トップ下みたいな感じでやっていますが、理想はもうひとつ後ろの中盤の”8番”。でも、このチームは中盤の『3』にいい選手が多く、前に人が少ないので、FW的に使われているんです。だからゴールを取っているからといって、ストライカーとして見られるのは僕としてはちょっと違うかなと感じています」
――てっきり前目のポジションで起用されたことで、得点力という新たな魅力が引き出されたのかなと見ていたのですが、そうじゃない。
「いや、全然(苦笑)。最近は報道陣にも『得点王を狙っていますか?』とか言われますが、そこは狙ってないし、なれるとも思っていません。正直、さらに上のレベルに自分が行ってストライカーで勝負できるとはまったく思わないし。僕がドイツに戻って、FWで前線に張れるかと言ったら、無理だと思いません? 僕としては、MFなのに年間二桁得点できる、みたいなのが理想です」
――ただ、これだけゴールを決めれば、ドイツに戻ってストライカーとして勝負できる可能性もあるのでは?
「まだ来季はどうなるか、わからないですけどね。そういう話になるかもしれないですが、僕はあくまで中盤の選手だと主張はしますし、前の選手として『欲しい』と言われても、たぶん行かないと思います(笑)。もちろん、今年はほかに選択肢がなくここに来ることになったので、自分で選択肢を増やせる状況には持っていきたいですが」
――どうなるにしろ、結果を出すことが次につながるということですね。
「そうですね。今年の夏なんて、昨季結果を出せなかったことで、日本に帰りたいとか、帰るつもりだなんてひと言も言ってないのに、『鎌田、帰国』とかメディアにも勝手に書かれましたから。まあ、うまくいかなかったら帰るものだと思われるのでしょうが、僕は欧州でプロのサッカー選手としてプレーすることが小さい頃からの夢だったのに、なんで1年うまくいかないからって帰らなきゃいけないんですかね。両親や身内にもひどく心配されましたし、僕自身も腹が立ちましたね(笑)。そう言われないためにも、今季は結果を出すしかないと思っています」
(つづく)