選手、監督の投票をベースに選出されるJリーグ発表のベスト11。これ以外に広く認知されているベスト11はない。1年間に計306試合も戦いながら、提供されるベスト11の定義はこれひとつ。それが、Jリーグ当局から発表されたものとなると、より…
選手、監督の投票をベースに選出されるJリーグ発表のベスト11。これ以外に広く認知されているベスト11はない。1年間に計306試合も戦いながら、提供されるベスト11の定義はこれひとつ。それが、Jリーグ当局から発表されたものとなると、より息苦しさを覚えずにはいられない。エンターテインメントのスケールは小さくなる。
Jリーグ発表のベスト11は毎年、時の日本代表選手が居並ぶ傾向がある。代表監督が選んだかのような顔ぶれになりがちな点も、面白みを欠く原因となっている。
というわけで、ここで選ぶベスト11からは、日本代表選手を選考の対象から外してみた。11月に行なわれたベネズエラ戦、キルギス戦で代表メンバー入りしなかった選手に絞ることにした。さらに。有力な候補が優に10数人は存在する外国人選手も外してみた。価値観が少し変われば表舞台に立ちそうな日本人選手を、今季のJリーグの戦いの中から探ってみた。
川崎フロンターレの連覇に大きく貢献したMF家長昭博
FWは鈴木優磨(鹿島アントラーズ)を一番に推したい。11月の代表戦に選出されたものの、ケガで辞退。ライバルは、その代役に選ばれた杉本健勇(セレッソ大阪)や、進境著しい北川航也(清水エスパルス)になるが、今季、鈴木が目に見えて成長したことは間違いない。昨季は鹿島で準レギュラー的な存在だったが、今季は攻撃の柱に成長。飛躍を遂げている。
一番の魅力は幅の広さだ。キープ力もあれば、ドリブルもいける。サイドアタッカーとしての芸もある。荒っぽそうな見た目とは裏腹に、多機能さも売りにする。ポジションワーク、ディフェンス能力も高く、教育レベルの高い環境で育った選手であることが見て取れる。
もうひとりは得点ランキングで日本人選手最高タイとなる4位(15点)に入った興梠慎三(浦和レッズ)。ひと言でいえば実力者だ。ライバルは、同じく15点で4位に並ぶ小林悠(川崎フロンターレ)になるが、こちらはケガが多く、年間を通した活躍という点で、軍配は興梠に挙げる。
中盤は優勝チーム、川崎Fから2人選びたい。まず中村憲剛。38歳のベテランだが33試合に出場。プレーも2、3年前より余計な力が抜けて、よりクレバーになったという印象だ。
もうひとりは4-2-3-1の3の右を担当する家長昭博。この選手も32歳のベテランだが、安定感に加え、怖さも備えている。昨季より右SBエウシーニョとのコンビネーションがよく、プレーも濃くなりすぎることなく、スッキリとして見えた。川崎Fの2連覇と2年前に加入した家長の関係は、実にわかりやすい。川崎Fでは大島僚太も外せない選手になるが、今季はケガが多かったので次点としたい。
MF3人目は土居聖真(鹿島)だ。鹿島はJリーグでもっとも選手層が厚いチーム。ACLを制し、クラブW杯出場を果たしたのも、実力的に遜色ない選手がメンバーにひしめいているからだ。よってスタメンは流動的になるが、土居はそこで29試合に出場。中心選手としての地位を築くことができた。
土居の一番の魅力は多機能型であること。そしてプレーにけれんみがないことだ。スピーディなのに滑らか。そのレベルは年々着実に上がっている。A代表に定着するためにはパンチ力、決定力がほしいが、同系の選手は他に見当たらず、貴重な存在であることは確かだ。
そしてMFの最後の1枠は金子翔太(清水)を抜擢する。身長162cm。中島翔哉(ポルティモネンセ)よりさらに小さい。言ってみれば今日的な選手だ。今季34試合に出場。初めて1シーズン、不動のレギュラーとしてプレーした。4-4-2の右サイドハーフながら、チーム3位に当たる10ゴールをマーク。大きく伸びた若手のひとりで、代表も見えている。
ちなみに清水には、この金子に加え、すでに代表入りをはたした北川航也、さらには左SBの松原后やU?21の主力でもある立田悠悟など、期待の若手が数多くおり、目の離せない勢いを感じさせるチームになっている。
SBは左が激戦だ。車屋紳太郎(川崎F)、丸橋祐介(C大阪)、太田宏介(FC東京)、さらには、先述の松原后、湘南ベルマーレでウイングバックを務める杉岡大暉、サイドハーフも務めるユーティリティプレーヤーの安西幸輝(鹿島)、同じく鹿島の山本脩斗など、僅差で競った状態にあるが、ここでは優勝チームである川崎Fの車屋を推すことにしたい。
一方の右は鹿島の西大伍で決まりだ。今季から内田篤人がチームに復帰。彼にスタメンを譲る機会がしばしばあったが、西の実力が上であることは明らかだった。
そのハイライトと言うべきプレーは、ACL準決勝、水原三星(韓国)とのアウェー戦(第2戦)で、通算スコアを5-5にしたシュートになる。技ありだった。左から安西がクロスを送り込むと、中央で構えるセルジーニョがヘッドで擦らして後方へ流す。そこに現れたのが西だ。
なによりその浮き球の処理方法が秀逸だった。トラップしたのは右足のつま先寄りの甲。しかし地面に落とさず、リフティングのようなアクションから、ノーステップのまま即、右足アウトでシュートに持ち込んだのだ。トラップからシュートまでわずか2タッチで。技巧的かつ芸術的な、まさしくスーパーゴールそのものだった。こんな真似ができる選手は、日本代表にも見当たらない。
CBはまず、優勝した川崎Fの谷口彰悟だ。川崎Fといえばリーグ最多の得点に目が向くが、今季は失点もリーグ最少だった。圧勝劇を演じたわけだが、そこで谷口は守備の要としてチームでただひとり、34試合すべてにスタメン出場を果たした。ゴールも3点奪っている。これまで日本代表出場試合数は3。もっと出場機会が与えられるべき選手だろう。
もうひとりは森重真人(FC東京)。代表から外れているが、いつ復帰してもいい、それなりのレベルにある選手だ。とはいえ、CBの駒不足は否めない。代表レベルにあるのは、谷口、森重、それにケガで欠場した期間が長かった昌子源(鹿島)ぐらいで、若手が育ってきている感じがしない。
GKも同様だ。今回のベスト11には元代表の西川周作(浦和)を推すが、チョン・ソンリョン(川崎F)、クォン・スンテ(鹿島)ら、韓国人GKとの差は大きい。
ベスト11をまとめると、以下のようになる。
GK西川周作、DF車屋紳太郎、森重真人、谷口彰悟、西大伍、MF中村憲剛、家長昭博、土居聖真、金子翔太、FW鈴木優磨、興梠慎三。
印象に残るのは、全体的にベテランが多いということだ。森保ジャパンは好スタートを切ったかに見えるが、たとえば、2002年日韓共催W杯前後のような”順風”を感じることはできない。独自のベスト11を選びながらも、層の薄さがあらためて心配になるのだった。