ポルトガル南部のビーチタウン、ポルティマン。中島翔哉の所属するポルティモネンセが本拠を置く街には、ゆるやかな時間が静かに流れている。歴史を感じさせる石畳の通りと浜辺は美しいが、冬ということもあって、人通りは多くない。 金曜日(現地時間…
ポルトガル南部のビーチタウン、ポルティマン。中島翔哉の所属するポルティモネンセが本拠を置く街には、ゆるやかな時間が静かに流れている。歴史を感じさせる石畳の通りと浜辺は美しいが、冬ということもあって、人通りは多くない。
金曜日(現地時間12月14日)の夜に開催されたビトーリアFCとのホームゲームにも、スタンドの客席は半分も埋まっていなかった。大きな声援を送るサポーターの数は、アウェーからやってきた人の方が多いくらいだ。この日の観客数は2000人を超えるくらいだった。
けれど、のどかなスタジアムが湧く瞬間はもちろんある。その多くは背番号10をまとった日本代表がボールを持った時だ。
ポルティモネンセの攻撃の中心となっている中島翔哉
19時にキックオフの笛が鳴ると、序盤に左ウイングを任された中島がさっそく巧みなスキルを見せる。相手に囲まれながらも軽快に両足のタッチで密集をかいくぐり、攻撃を活性化。10分にCKからジャクソン・マルティネスがヘディングを放ち、こぼれたところをキャプテンのジャジソンが押し込んで、ポルティモネンセが早々に先制した。
中島はその後、ボールを触る機会が減ったものの、時には下がってパスを引き出し、キックフェイントやクライフターンを交えて、徐々にリズムを取り戻していく。またディフェンスに戻って、絶好のタイミングで相手のパスをカットするなどして、積極的に試合に関与しようとした。その度に、スタンドからは「ショーヤ!」の声が上がった。
試合後にその点を問われると、「去年からそういう時間はありましたし、それは自分のポジショニングの部分の問題でもあります。いい場所にいれば、チームメイトがボールをくれるので、そこはどんどん改善していきたいと思います」と語っている。ボールを触ることは彼の喜びであり、その姿を見るのがファンの喜びでもあるのだ。
この日は空席があったポルティモネンセのホームスタジアムphoto by Igawa Yoichi
仲間からの信頼も確実に得ているようだ。35分にはGKからのフィードに抜け出し、左サイドから高精度のクロスを送り、走り込んだエベルトンがダイレクトで合わせ、バーを直撃。その3分後には、CBルーベン・フェルナンデスからの鋭い縦パスにも走ったが、これは微妙な判定のオフサイドに。その後、もうひとりの攻撃の核、ジャクソン・マルティネスが左SBウィルソン・マナファの折り返しを丁寧に合わせ、ポルティモネンセが2-0のリードを奪って前半を終えた。
ハーフタイムに、記者席の隣に座っていた『InPLay Sports Data』のジョゼ・マラン記者に声をかけて、中島の印象を訊いてみた。すると、彼は「自分はポルティモネンセのファンではないけどね」と前置きをしたうえで、次のように話してくれた。
「テクニックとスピード、そして何より知性のある選手だよね。ファンタスティックなアタッカーだと思う。私はポルティモネンセでの彼の最初の試合を観ている。カップ戦(2017年9月2日のチャバス戦)で、前半はあまり見どころのない試合だったけれど、後半から中島が投入されて、一気に華やかになった。実際、同点で迎えた後半に、ポルティモネンセは2点を加えて逆転勝利を収めたんだ。中島の1年半を見続けることができて、私は本当にラッキーだよ。ここの多くのファンが私と同じ気持ちだと思う」
試合が再開するとともに、ポルティモネンセは中盤のアンカーを務めていたペドロ・サーに代えて攻撃的MFルーカス・フェルナンデスを投入し、中盤の構成を逆三角形から正三角形に変更して仕上げにかかる。すると58分には、そのフェルナンデスから中島にボールが渡り、再び絶好のクロスを上げて、マルティネスの2点目をお膳立てした。
その2分後に1点を返されたものの、試合はそのまま3-1で終了。中島も「前回(ポルト戦)は先制しながらも逆転負けしてしまったんですけど、今回は先制してしっかり勝ちきれてすごくよかったと思います」と振り返っている。「急いでいる」ということで報道陣への対応を早々に切り上げ、夜のとばりが下りたのどかな街に去っていった。
ウルバーハンプトンへの移籍報道が過熱したあと、ロブソン・ポンテ副会長が「具体的なものはない」と現地紙に発言し、去就は不透明になった感がある。一部メディアはサウサンプトン入りの可能性も報じている。
いずれにせよ、ポルティモネンセのファンや関係者は、クラブのエースの未来を案じているようだ。ピッチサイドにいたブラジル出身のグラウンドキーパー、キーファーさんは、「ジャクソンもすごいけど、うちのスターは中島だ。ここのみんなは彼を心から愛している。だから、彼がいなくなるかもしれない現実を案じているんだ」と話してくれた。
小さな街のクラブを牽引する小柄な日本人アタッカーの未来を気にかけているのは、日本のサッカーファンだけではないようだ。