今季からオフェンスコーディネーターを務める坂本智信コーチ(平19教卒=東京・早大学院)と、早大で指導を始めてから16年目のシーズンを迎える山田広将コーチ(平5人卒=東京・早実)のお二人に甲子園ボウルへの意気込みを伺った。 ※この取材は12…

 今季からオフェンスコーディネーターを務める坂本智信コーチ(平19教卒=東京・早大学院)と、早大で指導を始めてから16年目のシーズンを迎える山田広将コーチ(平5人卒=東京・早実)のお二人に甲子園ボウルへの意気込みを伺った。

※この取材は12月上旬に行われたものです。

「しっかりと遂行できるようになるまでやる」(坂本コーチ)


今季オフェンスユニットの指揮を執る坂本コーチ

――今年は全勝で関東を制覇しました。リーグ戦を振り返っていかがですか

山田  厳しい試合が多かったです。うちのチームがまだ成長しきれていないというのが1つと、2つ目は他のチームが早大を狙って照準を絞ってきた印象があるので、楽に勝てる試合は1試合もなかったですね。

坂本  自分は初めてのシーズンだったので、大学生の指導も初めてでした。感想を持つほどの余裕はなかったというのが本音のところですが、学生は本当によく取り組んでくれましたし、まだまだ伸び代はあるとは思いますが成長した部分も大きかったと思います。

――優勝の大きな要因はありましたか

山田  私の立場的にはコーディネーターなのでその観点からいうと、ディフェンスでは後半戦に入ってきてターンオーバーを多くできたのが一つの収穫というか、勝ち上がれた要因かなと思います。特に最終戦は5つターンオーバーを取れたので、獲得ヤードと被獲得ヤードでいうと法大には負けていましたが、ターンオーバーを5つ取れたということで勝機はこちらに回ってきたと思っています。普段からターンオーバーにはこだわろうとディフェンスを展開しているので、狙ったときに取れるようなディフェンスが尻上がりにできたのは収穫と思っています。

坂本  オフェンスはどのポジションにも得点力のある選手がいることが我々にとっての強みです。パスでもランでもある程度相手に対して脅威を与えられたのが一番大きかったと思います。優れた選手が要所要所にいてくれるというのが一番の要因です。

――リーグ戦で見つかった課題や修正すべき点は

山田  細かいところまで挙げれば切りがないくらい、まだまだ成長してほしいという気持ちがあります。ディフェンスでいうとタックリングですね。あとはシステム理解という点です。その理解をいかにグラウンドでプレーとして出すかを改善していかないといけないと思います。

坂本  大きな問題点はあまりオフェンスにはありません。しかしながら勝つということは選手の力が相手を上回ることだと思っているので、そういった意味では彼らの伸び代をどれだけ伸ばせるか、その点だけをこのシーズン中ずっとやってきました。もちろん試合中に出たダメな部分を改善していくことも勝利につながっていきますし、1プレー1プレーを通して彼らが成長していくことが一番大事なことかなと思っています。

――今季練習の中で重点的に取り組まれたことは

山田  チーム全体的なところで言いますと、去年の秋シーズンはどちらかというと選手のコンディションを重視する練習スケジュールを組んでいましたが、今年の4年生は学生の意見を聞いて練習のスケジュールを組んでいます。今年はとにかく練習をしたい、練習をしたいという学年だったので、去年に比べるとかなり全体の練習量や強度というのは春の段階から上げてきた感じですね。今年のチームは勝ちたいという意識が強いと思っています。走り込みやウエイトトレーニングでも若干やり方を変えていましたし、スプリント系のドリルも夏以降にもやっていましたし、特に象徴されるのは合宿ですかね。今年の合宿はかなりキツかったと思います。選手たちはやり切ったので、それが秋勝ち上がれた一つの要因なのかなと思います。

坂本  学生が頑張ったんですよ。我々コーチもフルタイムでグランドにいられない環境の中で、4年生たちがそういった道を選択して取り組んだことが大きいと思います。オフェンスに関しては早大は元来、戦術面でよく考えて分析をすることが強みですが、その反面一つ一つのプレーの精度が低かったり練習量が足りていなかったりしたので、彼らの能力からするとベースのプレーを練習してものにできれば十分勝負していけると。彼らの意識を変えることを重点的に今年は取り組んできました。

――コミュニケーションの面で意識されていることは

山田  坂本はグラウンドから自宅までが近いので、ほぼ毎日グラウンドに来てもらっていて、それは非常にチームとしては助かりますし、オフェンスの選手にとってもすごく嬉しい存在ではないかと思います。今年からコーチに就任して、これまでとは違った目線から発言をしてくれるので、チームとして新たな発見もありますし、我々コーチとしてもいい刺激になっていますね。

坂本  自分は山田さんがコーチをやられた時の最初の代なので、元々は選手とコーチだったんですよ。選手のときから見ていても山田さんはコミュニケーションを取りやすいコーチだと思います。そういった意味ではディフェンスの選手たちは気兼ねなく話すことができているのではないかと思いますね。

山田  元々ディフェンスのシステムはパッケージのあるものを上からトップダウンで落とす形のものではなくて、学生のAS(アナライジング・スタッフ)が時間をかけてスカウティングしたデータを基に、社会人コーチを入れて戦術やゲームプランをつくり上げているので、お互いに会話や意見を交換しないとそのシステムを築けません。これがベストのやり方なのかは分かりませんが、今のところはこのやり方が上手く機能しているのかなと思います。

――試合前の準備で大事にされているポイントは

山田  僕はディフェンスなのでしっかりと相手を知って、キーなるプレーを止めにいくことがまず1つあります。それからキープレーヤーに活躍をさせないところですね。例えば法大の11番でWR高津佐(隼矢)くんですね。最終戦では結果的に高津佐くんにはやられてしまいましたが、彼をいかに止めるかということは考えました。日体大戦ではQBに走られないようにするといった、これだけは相手にやられてはならないということを軸にして、それの派生形でプランを立てていきます。そこで学生と意見が一致しないとシステムを組めませんしサインも組めないので、そこは時間がない中でもミーティングでしっかりとやっています。 キッキングも同じようにコーチが学生と話し合って取り組んでいるので、ゲームごとのコンセプトというのは意識を統一してできていると思います。私が見るオフェンスの坂本コーチは、ちゃんと学生に理解をさせられる力があって、今年はオフェンスが頑張って得点力がかなり上がっているのは、選手たちに迷いがなく坂本の意見をしっかり腹落として、練習をしているからなのではと思います。あとはQB柴崎(哲平、政経3=東京・早大学院)やオフェンスリーダーのRB元山(伊織、商4=大阪・豊中)が坂本を信用しきって理解して練習ができているからオフェンスユニットが上手く回っていると思いますね。

坂本  こんなに褒められるのは初めてですね(笑)。

山田  あんまり人のことを褒めるのが得意じゃないんですよね(笑)。あんまり言わないんですよ(笑)。

坂本  調子が狂う感じがします(笑)。オフェンスは学生が良くも悪くも準備をし過ぎる部分があります。戦術の部分で分析も周到ですし、プレーの構築も過剰な部分があるので、必要な部分を見極めさせるということに一番労力を割きました。過剰に準備をさせないというか、頭の部分の準備よりも、やはりフィールドで遂行できるかどうかが一番のポイントになるので、絞ったことをしっかりと遂行できるようになるまでやるというところです。ディフェンスですごく感じるのは、学生が自分たちでしっかりと考えたことを実行しているので、非常に生き生きしているなと思います。ターンオーバーの部分はそれが大きいじゃないですか。学生が自分たちの意志で動けているからこそ、起きるプレ-で特に法大戦はそういった部分が大きかったのではないかと感じます。

「ディフェンスで点を取られなければ負けない」(山田コーチ)


ディフェンスユニットを支える山田コーチ

――コーチご自身のフットボールの経歴は

山田  僕は中学生までは運動が嫌いでしたが、たまたまお正月にテレビで見たローズボウル(毎年元旦に米国で行われるカレッジフットボールの試合)にUSC(南カリフォルニア大学)のマーカス・アレンというRBの選手が当時出ていまして、その選手を見てカッコいいと思ってアメフトをやりたくなって、早実高に入学してフットボールを始めました。当時の早実高は弱小で20人ぐらいしかいない小さなチームでしたが、頑張ってキャプテンをやって創部初の東京都ベスト8になりました。

坂本  すごいじゃないですか。

山田  トップボーイ(雑誌タッチダウンに掲載された高校注目選手)だもん(笑)。それで、大学に入った時にサイズがなくて小さかったのですが、とことんフットボールでできるところまでやろうと思い大学でもプレーを続けました。高校の時はRBとLBをやっていましたが、大学からはLBに専念して高学年になった時にはDBもやりました。社会人でも6年くらいXリーグでプレーをして、とある時にコーチをやってくれないかということで2003年に呼ばれて来たという感じですね。これまではLBやDBのコーチをしてきましたが、一つのターニングポイントになったのは、USCにコーチクリニックキャンプがあり、そこに2回行かせていただきました。知識的な面や本場のアメフトを教えているコーチの姿を生で見させていただく機会をもらえたことが、長くコーチを続けられた要因だと思っています。そのチャンスを下さった学校やOB会の方々に感謝をしています。

――坂本コーチはいかがですか

坂本  僕は早大学院高でアメフトを始めて大学でもプレーを続けました。ちょうど山田さんがコーチを始めて、新人監督をされていた2003年の新入部員です。4年間大学でプレーをした後に、母校の早大学院高で4年半ほどオフェンスのアシスタントという立場でコーチをしてきました。2012年から6年間は大阪にある追手門学院高で教員もやりながらヘッドコーチを務めて、今年早大に戻って来きました。

――これまでの長いフットボール人生で印象深い場面はありましたか

山田  2007年のブロック最終戦で法大とタイブレークを5回やり合って負けたことがありました。あの試合は印象深いですね。歴然とした力の差があれば諦めもつくのですが、力が拮抗しているチーム同士の戦いだったので、勝負事なので勝ちたいじゃないですか。あの試合を勝たせてあげられなかったという申し訳なさで印象に残っています。

坂本  印象深いという意味では多くありますが、自分が追手門高に行った時に、ご縁があって京都大の水野弥一元監督と一緒に指導する機会がありまして、自分がずっとワセダの中で教わったことや自分で見てきたことが自分のスタンダードでしたが、初めてワセダ以外の指導者の方と一緒にやらせていただいて、自分にはなかった視点ができたと思います。一番感じたのは今でもよく覚えているんですけど、試合の当日に選手をフィールドに「行ってこい」と送り出せるような気持ちでいかなかったら、コーチは務まらないと言われたことがありました。それまでは自分が上手いプレーコールをして勝たせてやるんだとか、俺が上手いことやってやるという気持ちが強くありましたが、そうじゃないんだなと。選手がフィールドに立って活躍できるように育ててあげて、送り出してあげることがコーチの一番の仕事で、どんなプレーコールをしても何とかしてくれるというように、選手との関わり方が変わったと思います。

――コーチとしての心得や大事にしていることはありますか

山田  技術的なところで言うと基本ですよね。僕らはファンダメンタルという言葉を使っていますけども、しっかり一歩が踏み出せているのか。軽く出す一歩と力強く出す一歩とでは、やはりプレーのパフォーマンスが変わってきますし、しっかり理想となる姿を思い描いて、それを体現しようと毎回毎回できているかどうか。それから少しでも上手くなろうと思って、細かいところまで手を抜かずにできるかをコーチとして意識づけや動機づけ、時にはチアーアップをしながらやるというのを気にしながら指導しています。全部が全部できているとは言えませんが、気にしているところはそういったところですね。基本の形や動きをどんな状況でもできるようにはして欲しいと思っています。

坂本  オフェンスも一緒ですよね。山田さんはヘッドコーチの上司なので(笑)。山田さんの言うとおりに僕は動きます(笑)。でも本当に山田さんがおっしゃったように基本的なことが大事だと思います。応用の部分は選手自身でつくり出せればいいかなと思っていて、応用ができるためには基本ができていないといけないので、そういった部分を分かりやすく教えてあげることを大事にしています。基本的な部分をちゃんとやらせると。指導中に意識していることは「分かりやすく」です。自分が思っていることは、自分の経験の上に成り立っていることなので、アメフト経験の浅い選手に対して、ちゃんと分かるように伝えてあげることが一番大事かなと思います。

――関学大との決戦を前に埋めなければならないポイントは

坂本  ここが足りないというよりも僕の印象では総合力の部分で劣っていることは否めないと思います。それは選手の能力だけではなく、フットボールの文化もそうですし、組織の力もそうだと思います。どの面においても我々は後塵を拝している現状だと思うので、一歩ずつ色々な部分で詰めていかないといけないですし、自分も関西に行ってみて感じました。今の関学大に自分が教えていた選手もいるんですけど、そういう選手は中学や小学校からフットボールを始めていて、あのユニフォームを着てプレーすることを夢見ている子たちです。一般で入って来た子たちを勧誘して限られた時間で成長していく我々とでは大きく違います。そこを埋めるための具体的な策があれば、今までの甲子園でもいい勝負ができていたはずなので、そういった意味では一つ一つ詰めて行くしかないのかなと自分は思います。

山田  限られた環境の中でしっかりと選手が理解をして、勝ちたいという思いを継続して行動につなげられる文化をつくり出していかなければ、関西には勝てないのかなという気はします。もちろんそれだけではありません。色々な面で劣っている部分もありますが、全ての面で追い越せないほどに劣っているかとも思っていないので、勝つチャンスはあると思います。

――甲子園で戦う上で早大のカギになるポイントは

坂本  ディフェンスです。

山田  確かにオフェンスも点を取らないとダメなんですけど、ディフェンスで点を相手に取られなければ負けないんですよ。いかに失点を抑えるかがカギになると思います。しかしながら、相手のプレーの完成度は高いと思いますし、力強いと思います。そのプレーをいかに止めて、ディフェンスが失点を少なくしてターンオーバーを取り、オフェンスが得点を取ってくれたらと思います。甲子園で勝つための秘策なんてなくて、グラウンドでどれだけ汗をかいて努力をしたか。気持ちの面で折れない。負けたくないという気持ちをいかに出せるか。最後はそこかなと思います。

――甲子園ボウルの準備を進めているチームの状態はいかがですか

山田  明確な目標に向かって一定の緊張感を持って、ちゃんとやっているとは思います。しかしながら、まだまだ改善の余地はあります。我々には明確な目標がありますので、団結して準備を進めている感じはあります。

――甲子園ボウルに向けて意気込みをお願いします

坂本  現役時代は甲子園と一切縁がありませんでしたが、今指導している学生が持っている力を最大限引き出すことが勝つための唯一の方法だと思うので、彼らの力を引き出せるように最後まで準備したいと思っています。

山田  オフェンス、ディフェンス、キッキングの全ての面で楽に勝てる相手ではありませんし、数段階上のチームであると思っています。ワセダの歴史を変えようと取り組みの中で、かなりキツい練習もしてきたという自信と、勝って歴史を変えるんだという気概を持って練習をしているので、それをいかにプレーに出させてあげるか。ということがコーチとして気をつけないといけないことですし、それを実際の甲子園でプレーとして出してあげるように色々とコントロールをしていければ勝機はあるかなと思っていますので、選手を信じて、選手はコーチを信じて、お互いの信頼関係の中でプレーができるような環境をつくっていけたらいいかなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 成瀬允)


コーディネーターを務めるお二人

◆山田広将(※写真左)

東京・早実高出身。1993(平5)年人間科学部卒。昨季からディフェンスコーディネーターに就任。テレビで見たRBに憧れてフットボールの世界に飛び込んだ山田コーチ。現役時代は早実高WARRIERSを初の東京都ベスト8に導かれたそうです!

◆坂本智信(※写真右)

東京・早大学院高出身。2007年(平19)年教育学部卒。今季からオフェンスコーディネーターに就任。大学時代には山田コーチの指導を受けていたという坂本コーチ。京都大の水野弥一元監督との出会いが大きな転機となったそうです!