正直言って、ビンス・カーター(SF)が20代のころに、彼が40代になってもまだ現役を続けているとは思ってもいなかった。※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワ…

 正直言って、ビンス・カーター(SF)が20代のころに、彼が40代になってもまだ現役を続けているとは思ってもいなかった。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。



若いころは豪快なダンクで名を馳せたビンス・カーターも来年1月で42歳

 高い運動能力が持ち味だったカーターが、身体的に衰えが出る年齢になってもNBA選手を続けるような息の長い選手になるとは思えなかったことがひとつ。さらに、若いころに取材したとき、彼がバスケットボールをそこまで楽しんでいるように見えなかったことも印象に残っていた。

 今から思えば、あれはダンクにばかり注目される周囲の期待と、自分のなかでの選手像に折り合いがついていなかっただけだったのかもしれない。

 何にしても、そんな予想に反して、来年1月末に42歳になるカーターは、NBA21シーズン目の今季もまだNBAのユニフォームを着ている。単にユニフォームを着ているだけでなく、アトランタ・ホークスでローテーションプレイヤーとして毎試合20分前後出場し、チームに貢献している。また時に、若いころを思い出すようなダンクを見せることすらある。

 今季のホークスは、ルーキーのトレイ・ヤング(PG)ら若手選手を中心とした再建中のチームだ。優勝どころか、プレーオフにもほど遠い。昨季所属していたサクラメント・キングスもそうだった。引退する前に一度優勝したいと強豪との契約を希望するベテラン選手も多いなかで、カーターは別の基準を持っているようだ。

 本人にその疑問をぶつけてみたところ、明快な答えが返ってきた。

「僕はただ、プレーしたいんだ」

 優勝を狙えるような強豪チームでは、ユニフォームを着たコーチ扱いで、試合にはほとんど出られない可能性もある。夏にFAになったとき、カーターは契約するチームを選ぶ前に、プレータイムをもらえるかを尋ねたという。なかには「シーズン前に約束はできない」と言ってくるチームもあったが、「それはそれで、正直に言ってもらってありがたい」と感謝して、丁重にお断りしたという。

「ベンチの端で座っているだけで、プレーする機会は与えられないのでは楽しくない」とカーター。ただ、ホークスでの状況は違った。

「彼ら(ホークス)は僕にプレーして競う機会を与えてくれた。それだけでなく、若手選手にとってお手本になるような機会も与えてくれた」

 若手選手たちとの関わり合いにも、充実感があった。一緒にプレーし、言葉だけでなく、プレーを通して、彼らに自分が学んできたことを伝えるのが楽しいという。

「彼らの成長を見ることで、僕自身も若返った気分になれる。彼らと競うことで、モチベーションを感じるし、僕をやる気にさせてくれる。大勢の年取った選手たちと一緒にプレーすると、みんなで一緒に年寄りになったような気がするけれど」と笑い、過去に所属したチームの悪口だと受け取られないように配慮したのか、後半部分はジョークなのだと付け加えた。

 もちろん、すべて若いときと同じようにとはいかない。

「彼ら(若手)は朝起きてすぐに何でもできるけれど、僕は『ちょっと待って。ストレッチをしてからすぐに行くから』となるんだ(笑)。それでも、バスケットボールに対する愛が、まだ僕のなかにある。彼らと一緒にいて、僕の知識を分け合い、彼らの成長を助けることができるのは、僕にとって楽しいことだ」

 話していると、何度も「楽しい」という言葉がでてくる。充実したシーズンを送っている証だ。

 もちろん、試合に出られる状態を保つために、それだけの努力はしている。朝起きたあとのストレッチだけでなく、オフシーズンも含め、1年通しての大仕事だ。

「今の時点でこれができるのかと、常に自分自身に問いかけている。夏の間にそのための準備もしている。21歳のように……とはいかないかもしれないけれど、31歳のようには準備している。

 あとは全力で努力し、自分の時間を待つ。試合に出て、見せることができる。まだこんなことができるのかと言われることもある。それが楽しい」

 年を取ってからも、全盛期と同じ役割にこだわるスター選手も多いが、カーターは脇役だろうが構わないという。試合に出るためなら、どんなことでも受け入れる。ベテランの域に入ってきたときに、自分で決めたことだった。

「僕は、どんな役割でもプレーしたい。そう数年前に決めた。新しい役割のなかで、自分の持てる力をいかに発揮することができるか。そのためには、努力が必要だったし、謙虚になることも必要だった。プレーできるのなら何でもやる、という姿勢だった。今もプレーすることを楽しんでいる。

 どうやってできているのかわからない、と言われることもある。いとこ(トレイシー・マグレディ)とそういうことを話したりもする。でも、僕はただバスケットボールが大好きなんだ。バスケットボールへの愛情のためなら、この世界に残るためには何でもやる意思がある。それが僕のあり方だ」