福田正博フォーメーション進化論 川崎フロンターレの連覇で2018シーズンのJリーグは幕を閉じたが、優勝した川崎の最終的な勝ち点に、”Jリーグらしさ”が実によく表れていた。 J1リーグは18チームが2回戦総当たりで…
福田正博フォーメーション進化論
川崎フロンターレの連覇で2018シーズンのJリーグは幕を閉じたが、優勝した川崎の最終的な勝ち点に、”Jリーグらしさ”が実によく表れていた。
J1リーグは18チームが2回戦総当たりで争い、34試合に全勝すれば勝ち点は『102』になる。今季の川崎が手にした勝ち点は、21勝6分7敗の『69』。各国リーグの優勝チームは、勝ち点をだいたい70点台中盤から80点台に乗せて優勝を決めるが、それと比べると川崎が稼いだ勝ち点は多くはない。
連覇を達成した川崎は、獲得賞金をどのように活用していくのか
34試合のうち13試合で6分7敗を喫し、勝ち点3をつかみ切れずに取りこぼした。ここにこそ”Jリーグらしさ”、すなわち、『上位から下位まで力の差がないリーグ』というのが見てとれた。
川崎と優勝を争った2位サンフレッチェ広島の勝ち点『57』や、3位鹿島アントラーズの勝ち点『56』と4位コンサドーレ札幌の勝ち点『55』からも、上位から下位までの力が拮抗していたことがわかる。だからこそ、川崎はシーズン最終節を待たず、しかも、優勝を決めたその日の試合で敗れたにもかかわらずに連覇が決まった。リーグ戦の佳境でこうした状況が起きたのも、優勝に向けて逃げるチームも、それを追いかけるチームにも”取りこぼし”が多かったからだ。
降格争いにも”力の差のないリーグ”ということが如実に反映されていた。柏レイソルは今季17位に終わって降格になったが、昨季のリーグ戦順位は4位。そのチームが来季はJ2を戦うのだ。しかも、柏の勝ち点『39』は、例年なら残留ボーダーラインを超えている。にもかかわらず、降格になったことも混戦模様を象徴していた。
熾烈を極めたのが、J1参入プレーオフを戦う16位をめぐる争いだった。最終節までもつれこんだ結果、横浜F・マリノス、湘南ベルマーレ、サガン鳥栖、名古屋グランパス、ジュビロ磐田が勝ち点『41』で並んだが、得失点差で磐田が16位になった。昇格プレーオフで東京ヴェルディに勝利して残留を果たしたものの、昨年はリーグ6位と躍進したチームが、降格の危機に瀕するとは予想もしなかった。
また、8月末の時点で最下位だったガンバ大阪は、9月からの10試合を9勝1敗と一気に盛り返した。もちろん、チームを立て直した宮本恒靖監督の手腕は見逃せないが、ガンバ大阪が驚異的な成績で駆け抜けて最終的に9位になれたのは、降格圏組と上位陣に大きな力の差がなかったからでもある。
歯車がひとつ噛み合えば連勝し、ズレると連敗街道というのも今季のJリーグの特徴のひとつだった。前半戦に8連敗するなど最下位だった名古屋は、W杯ロシア大会の中断期間に大型補強をし、リーグが再開した夏場には7連勝をマークして持ち直した。ただ、その後終盤10試合は3勝1分6敗と苦戦が続いたことで、最後まで残留争いに巻き込まれることになった。
しかし、Jリーグがこうした”力の差のないリーグ”であるのも、あと数年のことかもしれない。Jリーグは誕生から2016年までは『護送船団方式』とも言えるような全クラブをほぼ均等に保護するような方策だったが、昨シーズンからDAZNと大型放映権契約を結んだことで、その流れに変化が出てきそうだ。
現状は転換点であるため上位と下位との間に大きな隔たりはないが、上位クラブは巨額の賞金を手にできるシステムに変わったため、今後は埋めがたい差があるリーグに変貌していく可能性は十分ある。
実際、川崎は昨季の獲得賞金を将来への投資に使い、今季の優勝でさらなる投資が行なえる。来シーズンだけではなく、中長期的な展望に立った強化・育成を進められるメリットは非常に大きい。そして、ここでの差が、将来的に資金力のある少数のビッグクラブと中堅以下のクラブという構図を作り上げる。
その点において目立った動きをしているのが、ヴィッセル神戸だ。昨季の元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキに続いて、今夏には元スペイン代表のアンドレス・イニエスタを獲得した。さらに、来季からは元スペイン代表のダビド・ビジャの加入も決定している。ACL出場権獲得を目指したリーグ戦では10位とふるわなかったものの、彼らが”バルセロナ化”を進めるのは、目先の結果だけではなく、遠い未来を見据えたときに国内で揺るぎない存在になることを目指しているからだ。
さらに、指揮官にはスペイン人の名将、フアン・マヌエル・リージョ監督をシーズン途中から招聘。そうしたブレないビジョンでチーム作りを進めており、補強にも余念がない。神戸が来季以降のJリーグの中心的存在になっていくはずだ。
Jリーグ26年の歴史を振り返ると、最初に”クラブとしての哲学”を持ってチーム運営をしてきたのは鹿島アントラーズだった。Jリーグ元年に向けてジーコさんを招聘して以来、彼らは”勝利”に貪欲なチームを作ってきた。そして、川崎や広島も、鹿島とは違う哲学を持ち、それを貫いてきた。だからこそ、この数年間で何度も好成績を残せていると言える。
もちろん、浦和レッズのように、そのスタイルを様々に変えながら結果を追い求めるのも、クラブとしてのひとつの在り方だろう。ただ、クラブ哲学を持って長期ビジョンを描き、そのうえでそれを実現するための短期・中期の課題にも取り組むアプローチで、資金面も強化していくクラブの方が、安定した成績を残せるはずだ。
だからこそ、ヴィッセル神戸は新たな哲学を持って補強を進めているのだろうし、元Jリーガーの野々村芳和氏が社長をつとめるコンサドーレ札幌もミハイロ・ペトロヴィッチ監督を招いて、先を見据えた強化に取り組んでいる。
すべてのクラブが同じ哲学である必要はない。だが、欧州の主要リーグのようにヒエラルキーが明確なものへとJリーグも変貌しつつあるなかで、生き残っていくためには各クラブがそれぞれのカラーを鮮明に打ち出すことは必要不可欠になってくるだろう。来季からは外国人枠が大幅に見直されるなど、各クラブが特色を打ち出せるルールに変更される追い風もある。
来季もまだJリーグの順位争いは混戦模様になる可能性は高い。だが、5年後、あるいは10年後の”その先”を見据えたチーム作りとクラブ運営という点においては、今季以上にクラブ間に大きな差をもたらすシーズンになるのではないか。