チャンピオンズリーグ(CL)第6週。一番の注目は激戦区C組の行方だった。リバプール(勝ち点6)対ナポリ(9)、パリ・サンジェルマン(PSG、8)対レッドスター・ベオグラード(4)。 アンフィールドで行なわれたリバプール対ナポリは、最後の最…
チャンピオンズリーグ(CL)第6週。一番の注目は激戦区C組の行方だった。リバプール(勝ち点6)対ナポリ(9)、パリ・サンジェルマン(PSG、8)対レッドスター・ベオグラード(4)。
アンフィールドで行なわれたリバプール対ナポリは、最後の最後まで目が離せない、痺れるような展開となった。試合は90分を終了して1-0。ホームのリバプールがリードしていた。同じ時刻にベオグラードで行なわれていた一戦はPSGリードで推移していたので、このまま終われば、PSGとリバプールがベスト16進出の切符を得ることになる。
だが後半のロスタイム、ナポリにこの日、最大の好機が訪れた。ゴール前でアルカディウシュ・ミリクが、右から送られてきたホセ・カジェホンのクロスに反応。トラップを鮮やかに決め、同点ゴールを叩き込んだかに見えた。
この日のMVPに推したいのは、決勝ゴールを決めたモハメド・サラーではなく、ポーランド代表ミリクが放った至近距離からのシュートを、身を挺してセーブしたブラジル代表GKアリソン・ベッカーだ。このゴールが決まっていれば、もう数センチずれていれば、現在プレミアで首位をいく昨季の準優勝チームは、この日でCLの舞台から消えるところだった。
ナポリ戦で決勝ゴールを奪ったモハメド・サラー(リバプール)
サラーがリバプールに決勝ゴールをもたらしたのは前半34分。ペナルティエリア右サイドでナポリのDFカリドゥ・クリバリと1対1の勝負を挑むサラーに与えられた選択肢は。大きく分けて2つあった。縦に行くか、内へ切れ込むか。
たとえばアリエン・ロッベン(バイエルン)なら、こうした状況では、8割方内へ切れ込み左足でシュートを狙おうとする。身体を傾け、懐深く保ちながら、まさに半身の体勢で、シュートポイントを探るようにジワジワと侵入する。リオネル・メッシ(バルセロナ)が右サイドでボールを受けた場合も、たいていこれだ。内への切れ込みこそが左利き選手の定番アクションになる。
だが、サラーはドリブルが得意な左利きとはいえ、ロッベン、メッシとは少し違う。内へも切れ込むが縦にも行く。可能性はほぼ50対50。瞬間、身体をヒラヒラさせながら、どちらに行くかわからない雰囲気を醸し出す。
縦に進むと、プレーの選択肢は限られる。シュートではなく、折り返しがメインになる。使用する足も利き足の左ではなく右になる。キックの威力、精度は半減する。ロッベンやメッシが8割方内へ切れ込もうとする理由でもあるが、リバプールは3トップで、他の2人(ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ)にも決定力がある。サラーがアシスト役に回ってもマイナス要素にはならない。
なによりサラー自身が、内への切れ込みより、縦に抜くことに快感を覚えている様子だ。ゴール前の様子をうかがいながら走るので、先行するのは右足になる。ボールとそれを操作する左足を、後方に残しながら前進する。
相手との間合いを縦にずらすそのステップワークに、対峙したクリバリは幻惑された。どちらの足にタイミングを合わせるべきか、迷っている間に縦方向にあっさりかわされた。
もっとも、並のウインガーなら、ここから先のプレーは大雑把になる。得意ではない右足で雑なプレーに及ぶものだが、サラーは右足でも芸を発揮した。マイナスの折り返しを装う視線を中央に送る目のフェイントをかけながら、右足のインサイドでGKダビド・オスピナの股間を狙ったのだ。
リバプールの決勝ゴールは、まさにサラーの個人技で奪ったゴールだった。ナポリは再三のピンチも、徳俵に足を掛けながら二枚腰で残す力士のような粘りを発揮したが、このゴールだけは止められなかった。
スコアは1-0。ナポリは惜敗でリバプールは辛勝だったが、リバプールにとっては、昨季の準優勝がフロックではなかったことを証明した一戦でもあった。サラーの先制点が決まったのは前半34分。評価したいのは、ホーム戦とはいえ、そこから守勢に回らなかったことだ。
攻め続ければ、背後は危なくなる。同点ゴールを浴びればグループリーグ敗退という状況で、高い位置から積極的にプレスを掛けにいくのは勇気がいる。多くのチームは結果を欲しするあまり気弱になり、受けに回り、引いて構えがちだ。
ホームであることが災いする場合もある。スタンドが満員に埋まれば、観客の反応はピッチにまで伝播する。スタンドが固まれば、選手の動きに悪い影響が及ぶ。1-0というスコアは、勝ち慣れていないチームほど危ういスコアになる。そこでリバプールはほぼ完璧なプレーを見せた。危うかったのは、先述のロスタイムのプレーを含め、わずか数回だった。
同じ時刻にベオグラードで行なわれたレッドスター対PSG。この試合はエディンソン・カバーニとネイマールのゴールでPSGが2-0とリードした後、流れが変わった。ホームのレッドスターがスタンドの声援に奮い立ったこともあるが、PSGが守勢に回ったことも事実だった。
そして後半11分、レッドスターがマルコ・ゴベリッチのゴールで2-1とすると、試合は斬るか斬られるかの撃ち合いになった。PSGに3点目のゴールが生まれたのはそれから18分後の後半28分だが、格上であるPSGは、その間、好ましくない展開を強いられたことになる。
PSGとリバプール。ナポリの健闘で大混戦になったC組だが、終わってみれば当初の予想どおり、この両チームがベスト16に駒を進めることになった。優勝を狙う力があると言われる両チームだが、グループリーグ最終戦の戦いぶりを見る限り、リバプールの方が戦い方に安定感があるように見える。
リバプールは2004-05シーズンのチャンピオンチームで、2006-07シーズンにも準優勝を飾っているが、当時は典型的なチャレンジャーだった。強チームというより好チーム。優勝候補というよりダークホースだった。対して2018-19のリバプールは、好チームではあるけれど、それ以上に強チームだ。1-0でリードしても、精神的に弱気にならない強さがある。
4度優勝を飾っているチャンピオンズカップ時代のリバプールがどうだったかは知る由もないが、CL時代になってからはいま現在が最強だ。
最終的な結果は、決勝トーナメントに入る2月後半以降の調子で決まる。そこでリバプールは、このナポリ戦のような試合を繰り広げることができるか。レアル・マドリード、バルセロナ、バイエルン、ユベントス等々、少々名前負けする相手に、もし1-0でリードしたとき、どんなサッカーができるか。
サラーの突破も見ものだ。縦なのか内なのか。メッシとクリスティアーノ・ロナウドがバロンドールの絶対的な候補でなくなったいま、こちらも混戦模様だが、サラーはネイマールらとともに有力な候補者のひとりだ。それがCLでの成績と深い関係にあることは言うまでもない。
リバプールとサラーの行方に、とくと目を凝らしたい。