暴力、政治、敵愾心、情熱、そして奇妙で残酷なエンディング──。フィクション映画のような筋書きを経て、最終的にマドリードで開催されることになったコパ・リベルタドーレス決勝は、ピッチ上でもドラマが続いた。 ボカ・ジュニオルスとリーベル・プ…
暴力、政治、敵愾心、情熱、そして奇妙で残酷なエンディング──。フィクション映画のような筋書きを経て、最終的にマドリードで開催されることになったコパ・リベルタドーレス決勝は、ピッチ上でもドラマが続いた。
ボカ・ジュニオルスとリーベル・プレート。アルゼンチンの2大クラブの本拠地ブエノスアイレスから1万キロ以上離れたサンティアゴ・ベルナベウでの一戦は、スペイン首都の寒空のもと、”ついに”キックオフの笛が吹かれた──。
本来、この第2戦はリーベルの本拠地モニュメンタルで11月24日に予定されていたが、リーベルのファンがボカの選手たちを乗せたバスを襲撃し(ブロックが投げられて窓が割れ、負傷した選手も)、延期され、別の大陸で開催されることになり、両チームとファン、そして優勝トロフィーが海を渡ったのだ。
来季から一発勝負となるため、2試合制の決勝はこれで最後。しかも史上初のスーペルクラシコのファイナルだ。パウロ・ディバラ(ユベントス)やハメス・ロドリゲス(バイエルン)、ディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリード監督)ら、欧州のトップクラブに所属するビッグネームたちも駆けつけた世紀の一戦で、先手を取ったのは青と黄色のアウェーチーム、ボカだった。
襲撃により目を負傷した主将のパブロ・ペレスがゴールに迫るも、リーベルのGKフランコ・アルマーニに阻まれる。だが44分のダリオ・ベネデットの見事なフィニッシュには、名手アルマーニも成す術がなかった。それ以前から、7万2000人超の大観衆は凄まじいノイズを生み出していたが、先制点が決まった瞬間、スタジアムは文字どおりに揺れた。
後半に入ると、リーベルのコーチ陣が動く。ベンチ入り禁止処分を受けていたマルセロ・ガジャルド監督の代役マティアス・ビスカイは、チームの象徴的な選手のひとり、レオナルド・ポンシオをあきらめる決断を下す。ガジャルド監督が全幅の信頼を置く36歳のMFは、前半に警告を受けていたため、極めてテンションの高いこの試合でプレーを続行させるのはたしかに危険と言えた。
結果的に、この交代策が大いなる実りをもたらすことになる。フアン・キンテーロを投入し、それまでの4-4-1-1から4-3-2-1にシステムを変更。切り札の投入と中盤の構成を変えたことで、リーベルに勢いが生まれ始める。
左利きのコロンビア代表アタッカーはブラジル、ロシアのW杯両大会で活躍し、日本戦でもゴールを決めているように大舞台に強い。しかしながら、欧州のクラブでは真価を発揮できず、今年1月にあまり騒がれることなく、リーベルにやってきていた。
途中交代でピッチに入ったキンテーロが勝負を決めた
25歳のレフティはピッチに立てば、たいていの機会でいい仕事をし、ガジャルド監督も彼を好んでいる。だが、エンゾ・ペレスやゴンサロ・マルティネスらのポジションを奪うところまではいかず、主にジョーカーとして起用されてきた。あるいは、そのスピードと技術は途中投入の方が威力を発揮すると考えられていたのかもしれない。ちょうど、この決勝のように。
キンテーロが攻撃を円滑にし、主導権は完全にリーベルのものとなる。そして68分、右サイドを3人のコンビネーションで崩し、そこからの折り返しをルーカス・プラットが決めて同点に。
90分までに両者の決着はつかず、歴史的なファイナルは延長に突入(アウェーゴールルールはない)。すると延長前半2分に、ボカのウィルマー・バリオスが二度目の警告を受けて退場となり、流れはさらにリーベルへ傾いていく。心身ともにとてつもないプレッシャーがのしかかる一戦だ。選手の消耗は激しく、ひとり少ないボカは明らかに後退していき、その隙をキンテーロがうまく突いた。
延長後半4分、相手GKが弾いたボールをリーベルが拾い、再びショートパスを小気味よくつなぎ、ボックスの際(きわ)でキンテーロがボールを受ける。ファーストタッチでシュートコースをつくり、瞬時に左足を振り抜くと、鋭いシュートがバーの内側を叩いてネットを揺らした。
優勝を決めて喜ぶリーベルの選手たち
photo by Nakashima Daisuke
「シュートを打った瞬間、僕は何も考えていなかった」とキンテーロはこの時のことを試合後に語った。「トラップの練習は普段から徹底しているので、ファーストタッチからフィニッシュまでは自然に体が動いたんだ。このゴールは23年前にコロンビア軍の任務中に行方不明になった父に捧げたい。僕の家族は何年も父を探している」
ボカは直後にカルロス・テベスを投入したものの、34歳のアタッカーは見るからに体が重く、ほとんど何もできなかった。そして、延長後半のロスタイムにはボカのCKの際にGKエステバン・アンドラーダも相手ボックスに上がったが、ボールはクリアされ、それをキンテーロが巧みなトラップで持ち出し、駆け出したマルティネスへスルーパス。その前方にはゴール以外に何もなく、マルティネスはそのまま独走して駄目押しの3点目を決めた。第2戦は3-1、2試合合計5-3でコパ・リベルタドーレス決勝に決着がつき、今季の南米王者はリーベルに決まった。
ボカの立場からすれば、リーベルのファンに襲われ、延期された決戦で敗れたのだから、納得できないかもしれない。しかしフットボールに勝敗は必要であり、いずれにせよ、これで決着を見たのである。ただし、このファイナルが未来永劫にフットボールファンに語り続けられることは間違いないだろう。