専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第183回 今さらながら、ゴルフ会員権の話をしたいと思います。それはなぜかというと、今年に入って会員権相場は底を打ち、わずかながら上昇してきたのです。 そんなゴルフ会員権相場を…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第183回

 今さらながら、ゴルフ会員権の話をしたいと思います。それはなぜかというと、今年に入って会員権相場は底を打ち、わずかながら上昇してきたのです。

 そんなゴルフ会員権相場を引っ張るのは、『法人会員権』です。大企業の役員クラスが偉くなった”ご褒美”にいただける、ステイタスみたいなものです。

 その法人会員権ですが、個人の会員権と何が違うのか。

 法人会員権はその名前のとおり、会社名義でゴルフ会員権を購入したものです。昔は”無記名式”というのが多く、幹部社員は誰でも、その会員権を使ってプレーできました。

 ただそうなると、どこぞの会社の社員が毎週入れ替わりやって来て、メンバー料金でプレーしていくわけです。コース側としては、「そりゃ、かなわん」ということで、現在は”記名式”というスタイルを取っています。

 記名式だと、名前の書いてある役員しかメンバー扱いされません。結果、他の平社員とは差別化されることになり、それを目指して、会社のみなさんはがんばるわけですね。

 大きな会社では、社長になることはなかなかできません。創業者一族が牛耳っている場合もありますから。

 となると、確率的に平社員から最高出世できるのは、常務や専務などの取締役がマックスです。でも、従業員100人ぐらいの会社でも、専務や常務はいますから、肩書きだけではそのすごさや、ステイタスの高さが差別化できなかったりします。

 そこで、大きな会社だと「うちは、そこらへんの会社とは違うから」と、高級コースの法人会員権を、専務や常務などの役員に”プレゼント”するのです。

 そうやって法人会員となったメンバーは、接待や打ち合わせなどを高級コースでできるようになり、その経費も会社で落とせることが多いですから、精神的なステイタスは大いに得られます。なかには、コースに行くのもハイヤー付きという会社もあって、うらやましい限りです。

 というわけで、法人ゴルフ会員権は、サラリーマンのやる気を起こさせる”カンフル剤”なのです。

 会社側としても、その会員権については”役員の遊び”というより、接待や福利厚生施設の延長線上にあるものと考えています。会員権は1度買っておけば、その後は名義だけ変えて使い回しができるので、会社としても便利このうえないのです。



名門クラブの法人会員権を手にできれば、確かにステイタスを得られると思いますが...

 昔は、大きな会社のステイタスの象徴と言えば、温泉地に保養所を作り、自分の会社のゴルフ場を持つことでした。けど、バブル崩壊後、リーマンショックを経て、そうした余分なものは、すべてそぎ落とす風潮となりました。

 そうして、今ではサラリーマンの多くが、会員制のリゾートクラブを保養所として利用しています。会社が法人会員になっており、社員はそうした施設を格安で利用しているのです。だから、会員制のリゾートクラブは潰れないのです。

 あれ、個人で会員になったら、結構な出費になります。最初に300万円くらい払って、年10泊ほどの施設利用権が届きますけど、食事代やリネン代は別ですから。しかも、年10泊もしない方が多く、おかげで、施設利用券がネットオークションなどに出回ることとなるんですね。

 半年前くらいにゴルフをしたとき、そんな大手リゾート施設の割引券をネットで購入して使ってみたのですが、すごくお得でした。3000円くらいで落札したチケットで、ひとり3000円割引でしたから、4人で9000円も得した計算になります。

 それでいて、誰も損をしていない。みんなが得をしたんですから、素晴らしいじゃないですか。

 保養所と同様、ゴルフ人口が減り、少子化の世の中になっている昨今、自らゴルフ場を維持して、運営していくのは大変です。会社としては、負の財産化しており、なかなか頭の痛い問題となっています。

 だったら、ゴルフ場を売って、法人会員権を10枚ぐらい買えばいい、となるのです。そのほうが、10のコースを使い分けてプレーできるし、より有効に活用できます。

 それに、ゴルフ会員権は換金性があって、よんどころない事情ができたら、3月の年度末に売ってしまえば、即現金化できます。メンテナンス代はナシだし、予算縮小の折、高級コースの会員権を売って、大衆コースの会員権を買い直す手もあります。

 そんなわけで、法人のゴルフ会員権は、資産価値、換金性、使い手があることで、相場をリードし、市場が活況になるのです。

 そして日本には、エクスクルーシブ(閉鎖的)な法人会員専用のゴルフ場が結構あります。個人のメンバーはほとんどおらず、そういうコースはメンバー同士の交流もさほどありません。

 法人メンバーは、たいがい数年で記名者の名義が変わることが多いですからね。ゆえに、月例競技もナシだし、クラブチャンピオンなども存在しないのです。

 ただし、法人専用のコースでは、運転手の控え室がデカくて立派です。ハイヤーで来るVIP客の運転手さん用に大きな座敷があって、そこで運転手さん同士が将棋や囲碁などをさして、日がな一日過ごすのです。

 こういう”ハイヤーゴルフ”も、無駄と言えば無駄ですが、さらなる上の人はヘリコプターに乗ってコースへやって来ますからね。どうやら、お金持ちは”無駄”が好きなようです。

 安部政権になってから、企業の接待交際費枠をかなり認める方針となっています。つまり、お金をジャブジャブ使わせて、経済を回そうという魂胆です。

 ですから、法人会員権を使ってゴルフをしても、経費で落としやすいのです。もちろん、金額には限度がありますが、常識の範囲内であれば、ゴルフは接待交際費として扱われます。

 ゴルフは、本当に不思議な”スポーツ”ですよね。これが、取引先の人とスキーをやったとか、サッカーや野球をやったとか言っても、なかなか接待交際費では落とせません。経理の方に、「早朝、取引先の●●会社と草野球をやったので、グラウンドの使用料を経費で落として」とは、なかなか言えないですからね。

 最近、日本の企業の半分ぐらいが、社員の多くが派遣労働者になっていて、「社員」と言っても名ばかりであると、社会問題になっています。つまり、正社員ではないから、厚生年金の補助はないし、さまざまな優遇措置が適用されないというのです。

 そう考えますと、大企業の正社員、それも幹部クラスは、給料以上に恵まれた環境にいる、と言えます。

 ゴルフの会員権にはじまり、リゾート施設、福利厚生施設の使用料がタダ。接待交際費も使えて、積立金も会社が運用して利回りがいいし、住宅ローンも会社の低利融資が利くし……。

 さらに、会社がデベロッパーになって、ひとつの団地を開発して、そこに社員を住まわせる、そういう企業も昔は結構ありました。会社でも、家に帰っても、同じ人に会う弊害はありますが、まあそこは「ゆりかごから墓場まで」会社が全部面倒を見た、古き良き時代と解釈してください。

 そうそう、ちなみに法人会員権の名義変更ですが、実はこれがなかなか難儀で……。というのも、会社をやめても、会員権を返さない人が結構いるんですよ。とぼけちゃって、「もう少し持っていてもいいかな」とか言って、返却を先延ばしにするようです。

 役員の定年は62歳や65歳など、会社で役職ごとに取り決めがありますが、みなさん、できるだけ役員のまま、長く会社にいたいんですよね。でも、後ろからは、どんどん若い連中がやってくるわけです。

 で、「そろそろ引退か」と思うのですが、役員定年を迎えて、すべての権利を失うのは寂しい……。そこで、法人会員権の名義だけでも、2年ぐらい延長して「持っていてもいいかな」となるのです。

 そうなると、あとからやってきた役員はたまったものではありませんが、そういうときは、ややランクが劣るコースの法人会員権をあてがって、しばらく我慢してもらうのです。

 高級接待コースに行けなくなることが、会社に行けなくなることより「寂しい」……とは、エリートサラリーマンの哀愁を感じますなぁ。