羽生結弦が不在だった今シーズンのグランプリ(GP)ファイナル男子は、結局、ネイサン・チェン(アメリカ)と宇野昌磨の2強対決という構図が崩れることはなかった。ショートプログラム(SP)では、昨季世界選手権優勝のチェンと、平昌五輪銀メダルの宇…

 羽生結弦が不在だった今シーズンのグランプリ(GP)ファイナル男子は、結局、ネイサン・チェン(アメリカ)と宇野昌磨の2強対決という構図が崩れることはなかった。ショートプログラム(SP)では、昨季世界選手権優勝のチェンと、平昌五輪銀メダルの宇野が、ともに4回転のミスひとつずつで92.99点と91.67点。そのふたりの後に、ミハル・ブレジナ(チェコ)が89.21点で続き、チャ・ジュンファン(韓国)が89.07点で追いかける形になった。



ファイナル優勝はチェン(写真中央)、宇野(左)は2位、チャ(右)が3位だった

 翌日のフリーでは、SP首位のチェンは4回転ルッツが回転不足になって転倒、次の4回転トーループも着氷を乱してステップアウトのミスをしながらも、最後の連続ジャンプは耐えて189.43点を獲得。合計を今季自己最高の282.42点にした。

 チェンを追う宇野は、4回転サルコウがダウングレードで4回転フリップが回転不足に。また、終盤の2本の連続ジャンプでも着氷を乱してGOE(出来栄え点)で減点されたが183.43点を獲得。合計はスケートカナダで出した今季自己最高に2.15点劣る275.10点にした。

 SP3位のブレジナは、最初の4回転サルコウが回転不足になって転倒するミスにとどめたが166.05点。チャは最初の4回転トーループで転倒も、ほかはノーミスで滑り切って174.42点。合計点はチャが263.49点、ブレジナは255.26点。チェンと宇野と、そのほかの選手の力の差がくっきり出た。

 今回の得点差以上に実力差があるのも事実だ。チェンがフリーで4回転ルッツと4回転トーループを成功していれば、GOE加点がないと仮定しても12点ほど増えることになって200点台に乗る。また、宇野も4回転サルコウと4回転フリップに成功すればGOE加点がないとしても12点は増やすことができ、終盤の3連続ジャンプも成功すればさらに3点以上増えるので、200点に迫る得点になる。

 一方、今回3位になったチャは、転倒した4回転トーループが成功していても180点台に乗せられるかどうかで、4位のブレジナも最初の4回転サルコウがプランどおりに4回転サルコウ+3回転トーループ、終盤の3連続ジャンプのセカンドが2回転トーループではなく3回転トーループになっていたとしても、10点ほど増えるだけで176点前後にとどまる。フリーだけでトップのふたりと3位、4位の間には、20点以上の得点能力の差がある。

 また、今回欠場した羽生は、GPシリーズフィンランド大会のフリーで、最初の4回転ループと後半の4回転トーループが回転不足になり、4回転トーループ+トリプルアクセルはGOEで減点されながら、今季世界最高の190.43点を獲得している。こうしたミスがなければ、羽生が200点以上を獲得することは確実だろう。つまり、羽生、チェン、宇野の3人が、圧倒的優位に立っているのは明らかだ。

 ハビエル・フェルナンデス(スペイン)がGPシリーズに出場せず、パトリック・チャン(カナダ)は引退。また、世界選手権2年連続3位の実績を持つボーヤン・ジン(中国)が調子を上げられず絶不調になっていることで、トップとその下の集団の差は以前より拡大したと言っていいだろう。

 注目は、合計300点以上を誰が最初に記録するかだ。それは時間の問題とも言えるが、条件のひとつになるのはSPでの100点台獲得だ。



フリーで今季最高得点を記録している羽生結弦

 羽生はすでにロステレコム杯(ロシア大会)で今季世界最高の110.53点を獲得しており、宇野もロンバルディア杯で今季2位の104.15点を記録している。チェンも、ファイナルのSPでミスをした4回転トーループ+3回転トーループを、GOE加点3.26点をもらったフリー並みに決めれば105点前後になる。

 フリーに関しては、演技時間が30秒短くなった今季、トップ3人はまだノーミスの演技ができていない。ジャンプはひとつ減ったが、GOE加点を稼ぐためにはジャンプの入り方や出方に工夫が必要になっており、つなぎの滑りもさらに高度になった。滑りの技術を詰め込んだプログラムになっているからこそ、余裕がなくなってミスも出やすくなっていると言える。

 それでも宇野は、「やっていることがみんな難しいのでノーミスの完璧な演技はすごく難しくなっている。でも、3回転だけで構成していた頃は、3回転を今の4回転くらい難しいと思ってやっていた。いま難しいと思っている構成も、いずれは当たり前になると思うので、『難しい構成だから失敗は仕方ない』という考えはなるべく捨てたい」と話す。

 女子では紀平梨花がトリプルアクセルで今季を席巻し、ジュニアは4回転を跳び始めている。それと同じように、羽生たちトップ3が300点越えを果たして初めて、男子フィギュアスケートも次の新時代が始まるのだろう。