「準決勝を突破した喜びよりも、数百倍、数万倍悔しいな、ということを感じさせられました」 試合後、渡邉晋監督は悔しさを隠しきれず、偽らざる心境を吐露した。 4日前にモンテディオ山形を撃破して、ベガルタ仙台はクラブ史上初めて天皇杯の決勝の舞…

「準決勝を突破した喜びよりも、数百倍、数万倍悔しいな、ということを感じさせられました」

 試合後、渡邉晋監督は悔しさを隠しきれず、偽らざる心境を吐露した。

 4日前にモンテディオ山形を撃破して、ベガルタ仙台はクラブ史上初めて天皇杯の決勝の舞台に立った。ひとつの歴史を塗り替えた余韻に浸る間もなく迎えた、この決勝戦。しかし、立ち上がりに失った1点を取り返せずに、浦和レッズの歓喜を目の前で見せつけられた。



天皇杯の決勝で惜敗を喫したベガルタ仙台

 浦和のホームスタジアムで行なわれたファイナルは、仙台にとってまさに完全アウェーの状況だった。試合が始まる前からディスアドバンテージが働いていたと言えるが、仙台の選手たちはその過酷な環境に動じることなく、勇敢に立ち向かった。

 浦和のプレッシャーをモノともせず、最終ラインから正確にパスをつなぐと、両サイドの攻め上がりを有効活用し、相手ゴールに迫っていく。試合の入りは間違いなく、仙台のほうが勝っていた。

 ところが、流れを掴みつつあったなか、浦和のシンプルな攻撃に背後を突かれると、そこで与えたコーナーキックから宇賀神友弥にスーパーボレーを叩き込まれてしまう。めったにお目にかかれないゴラッソを浴び、これで一気に苦しくなった。

 それでも、仙台は渡邉監督のもとで培ってきた、ボールを大事にするスタイルを崩さなかった。

「失点後はしっかり我々がボールを動かして、相手を動かして、意図的に相手のボックスに迫る、ゴールに迫るっていうものを表現できたと思います」

 指揮官が振り返ったように、小気味よくパスをつなぎ、複数が連動して、反撃の糸口を探っていった。

 9月下旬に行なわれたJ1リーグ第28節の横浜F・マリノス戦。仙台は相手のハイプレッシャーに苦しみ、ボールをつなぐことすらままならなかった。ボールを縦に入れる勇気を欠き、パスは横や後ろに動くばかり。結局、ロングフィードを蹴りこんで、簡単に相手にボールを与えてしまう展開を繰り返した。

 スコアは2-5の完敗。試合後に「もっと全員でパスを受ける意識を高める必要がある」と野津田岳人が苦言を呈したように、横浜FM戦の仙台はボールをもらうことを恐れているように感じられた。

 しかし、この日は違った。選手たちが間に顔を出してパスを受け、スペースを見つければ果敢に飛び出していく。縦パスを入れる強気の意識も備わり、タイトル獲得への執念を示し続けた。

「今日のゲームに関して言えば、今まで積み上げてきたものがたくさん表現できたと思う。やはり恐れずに、強気にしっかりポジションを取って、ボールを動かして相手を動かせば、これぐらいのことができるということを、最高の舞台で表現できたと思います」

 渡邉監督も目指すスタイルを体現した選手たちに、最大級の賛辞を贈った。

 ただ、ポゼッションで上回り、浦和の倍以上のシュートを放ちながらも、ゴールはどこまでも遠かった。押し込んでいるようで、最後の場面を切り崩せない。高い集中力を保ち、わずかな隙も見せることがなかった浦和の堅守を上回る術(すべ)を、仙台は持ち合わせていなかったのだ。

 足りなかった部分を問われた仙台の選手たちは、おおむね同じような見解だった。

「やっぱりゴールの部分だと思います。あっちは1点獲って、こっちは1点も獲れなかった。ゴール前でのスキルだったり、チャンスでの落ち着きだったり、そういうところがないとなかなか難しいかな、と感じました」(奥埜博亮)

「ボールを動かせた部分はあったんですけど、そこから点を獲り切るっていうところと、ゴール前に入っていく怖さがまだ足りなかったのかなって思います」(野津田)

 結局、行きつくところは”個人”なのだろう。いくら優れた組織性を備えていても、最終局面で違いを生むのは、やはり個の力に託される。

 今大会でブレイクの予感を漂わせたジャーメイン良は、槙野智章、阿部勇樹ら実力者を前に、ポストプレーこそこなせたものの、ゴールに向かう怖さを示すことができなかった。

 左サイドで果敢な仕掛けを見せた中野嘉大(よしひろ)は、深い位置まで侵入することはできたが、質の高いクロスは供給できなかった。

 最多5本のシュートを放ち、運動量や球際の強さも示した野津田は、この日唯一の決定機と言えた72分の場面で、ヘディングシュートを枠に収めることができなかった。

 前日に観たジュビロ磐田と東京ヴェルディとのJ1参入プレーオフでも感じたことだが、サッカーはチームスポーツである一方で、個々が局面の争いでしのぎを削り、技術やアイデアを発揮する個人のスポーツでもあるだろう。仙台と東京V――両チームが目的を達成できなかったのは、極論すれば個人の力量によるところが大きかった。

 もちろん、たしかな組織を築いた東京Vのロティーナ監督、そして渡邉監督の手腕は称賛されるもので、そのスタイルを体現した選手たちも同じく称えられるべきだろう。一方で、いい戦いを実現しながら結果につなげられなかった両指揮官のジレンマも浮かび上がる。

「伸びています、間違いなく。選手も、チームも、すごく成長しているし、やれることは増えてきている。とくに今日のゲームは、やっている選手も楽しかったと思います」

 就任から5年、渡邉監督はチームの成長にたしかな手ごたえを掴んでいる。しかし、タイトルには届かなかった。では、仙台がタイトルを獲るためには何が必要か。

 それは、もはや監督力の範疇には収まらないものなのかもしれない。悲願のタイトル獲得へ――。クラブの本気度が試されている。