カルロス・ゴーン会長の逮捕で激震が走った2018年。日産は今、非常に苦しい立場に立たされている。また、その逮捕劇とは直接関係のない話ではあるものの、圧倒的な強さを見せていたモータースポーツ界においても、日産はかつてない苦戦を強いられて…

 カルロス・ゴーン会長の逮捕で激震が走った2018年。日産は今、非常に苦しい立場に立たされている。また、その逮捕劇とは直接関係のない話ではあるものの、圧倒的な強さを見せていたモータースポーツ界においても、日産はかつてない苦戦を強いられている。


日産のエースはナンバー23の

「MOTUL AUTECH GT-R」

 日本国内で絶大な集客力を誇るスーパーGTは2014年、ヨーロッパで人気のツーリングカーレース「ドイツツーリングカー選手権(DTM)」と車両の技術規則を統一。その決定により、GT500クラスの車両規定は大幅に変更された。

 新たなレギュレーションでは、マシンの基本骨格であるモノコックや後部についている大きなリアウイングなど、多くのパーツを全社共通で使わなければならない。さらにシーズン中のマシン改良も、原則禁止となった。

 この新ルールにいち早く適応し、強力なマシンを作り上げたのが日産だった。2014年にデビューした「日産GT-R NISMO GT500」は序盤戦から力強い走りを見せ、陣営全体でシーズン4勝をマーク。松田次生/ロニー・クインタレッリ組の23号車がシリーズチャンピオンに輝いた。

 現在の規定では、基本的に3年間はベース車両の変更が認められておらず、シーズンオフに改良できる部分も限られている。つまり、ベース車両の出来の良し悪しによって、その後の3シーズン分の戦績にも大きく影響を及ぼしてくる。

 2014年バージョンの車両で圧倒的なパフォーマンスを引き出せた日産勢は、2015年も陣営同士でチャンピオン争いを展開し、松田/クインタレッリ組が連覇を達成。2016年はチャンピオンこそ獲得できなかったものの、日産勢だけでシーズン5勝を挙げる活躍も見せた。

 ところが、2017年の規定変更に伴うベース車両変更で、日産に傾いていた流れは一変してしまう。市販車のGT-Rを大幅に改良してさらなるパフォーマンス向上を狙ったが、テストからタイムがまったく伸びずに低迷。開幕戦・岡山では4台全車がQ1敗退を喫し、表彰台に上がれない戦いが続いた。

 シーズン後半、日産は大幅なテコ入れを行ない、その結果、最終戦で23号車がポール・トゥ・ウィンを飾る。最後の最後でなんとか勝利を掴み、日産は面目を保った。

 そして迎えた2018年。昨シーズンの反省を踏まえ、日産は改良可能なパーツをすべて見直した2018年モデルのGT-Rを登場させた。規定によって改良範囲が限られているにもかかわらず、それはひと目見ただけで「昨年とは大きく違う」と感じるほどの手の入れようだった。

 だが、いざフタを開けてみれば、参戦した4台の日産GT-Rが表彰台を獲得したのは2回のみ。第2戦・富士でナンバー23のMOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)が優勝したのと、第6戦・スポーツランドSUGOでナンバー12のカルソニックIMPUL GT-R(佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー)が3位に入っただけだ。

 数年前は、シーズンで4、5勝するのが当たり前だった。そのころと比べると、スーパーGTでの日産の立ち位置は大きく変わってしまったのである。

 今季のレースを振り返ると、日産GT-Rが有利かと思われていた夏場の富士ラウンドで、まさかの敗戦を喫したのが痛かった。

 第5戦・富士の予選ではワンツー独占をはじめ、日産勢4台がトップ5に入る速さを披露。決勝レースの前半もライバルをリードする展開を見せていた。

 ところが、レース途中から想定外の展開となる。まず、ミシュランタイヤを装着する23号車とナンバー3のCRAFTSPORTS MOTUL GT-R(本山哲/千代勝正)のペースが一向に上がらない。タイヤの消耗が想定以上に激しかったからだ。さらに3号車はトラブルが発生し、戦線脱落を余儀なくされる。

 さらに、レース後半にトップに立った12号車にも不運が連鎖する。十分なリードを持った状態で最終スティントを迎えたのだが、まさかのマシントラブルに見舞われスローダウン。ピットでの応急処置で復活はできたが、優勝争いから脱落することになった。

 スーパーGTは年間8戦と開催数が多くないため、シーズンを通した”流れ”も重要になる。第6戦以降はホンダ勢やレクサス勢が勢いを増す一方、日産勢は波に乗れずに苦戦。最終戦を待たずにチャンピオン争いから脱落してしまった。

 シーズン終了後に行なわれる日産/ニスモのファン感謝イベント「NISMO FESTIVAL」には今年も多くのファンが集まり、とくに日産/ニスモのモータースポーツ活動を長年支えている「日産応援団」は、最後までドライバーたちに声援を送り続けていた。

 そんな熱心なファンに対して、マシンの製作を手がけるニスモを代表する片桐隆夫社長は、言葉をつまらせながら、このように挨拶した。

「ちょうど1年前、この場で『とにかく来年は雪辱を果たします。そして、ここでみなさんと喜びを分かち合いたい』とお話をさせていただきました。しかし、それが叶わず……本当に申し訳ございませんでした。我々も進化したつもりでおりましたが、ライバルの進化のほうがはるかに勝っていたというのが実態でした」

 昨年と比べて速さは取り戻しつつあるも、ライバルと比べると劣っている部分があることを認めた。しかし、このまま負け続けるわけにはいかない。来季に向けた対策は、すでに考えているという。

「もちろん、このまま終わるわけにはいきません。今はクルマやタイヤといったハード面のみならず、戦略といったソフト面もすべて見直していきます。(来年の開幕まで)時間は限られておりますが、できることをすべてやって、聖域を設けずに、とにかく雪辱を果たしたいと思っております」(片桐社長)

 ここで語られた”ソフト面”というのは、おそらくドライバー体制のことのようだ。これまではドライバー体制を大きく動かさないことが強みだった日産だが、来シーズンはそこにメスを入れて全面的な見直しを考えているのだろう。

 エースチームである23号車をはじめ、大幅なドライバーの入れ替えもありそうだ。ジェームス・ロシターや平手晃平など、他のメーカーから移籍してくるという噂も上がっている。

 来年、日産はどのような姿でトップへの返り咲きを目指してくるのか……。苦しい状況に追い込まれた彼らの反撃が楽しみだ。