結果が出た今となっては、両者の間には、決して小さくない実力差があったと言わざるを得ない。 J1参入プレーオフ決定戦。J1で16位のジュビロ磐田が、J2で6位の東京ヴェルディを2-0で下し、来季のJ1残留を決めた。 磐田がヴェルディに許…

 結果が出た今となっては、両者の間には、決して小さくない実力差があったと言わざるを得ない。

 J1参入プレーオフ決定戦。J1で16位のジュビロ磐田が、J2で6位の東京ヴェルディを2-0で下し、来季のJ1残留を決めた。

 磐田がヴェルディに許したシュートは、後半のわずか2本のみ。磐田は相手にほとんど何もさせなかった一方で、自らはPKとFKで効率よく得点を重ね、11年ぶりのJ1復帰を目指すヴェルディをねじ伏せた。



東京ヴェルディを下して、J1残留を決めたジュビロ磐田

 客観的に両チームの実力や立場を見比べれば、磐田優位は明らかだった。

 磐田には、FWの川又堅碁、大久保嘉人、MFの田口泰士、山田大記、中村俊輔といった新旧の日本代表経験者がズラリ。しかも、J1残留、あるいは昇格をかけた最終決戦は、磐田のホームゲームで行なわれ、90分を終えて引き分けの場合でも、規定により磐田の残留が決まるのだ。

 とはいえ、サッカーとは生身の人間が行なうものであり、必ずしも机上の計算どおりには進まないから、面白い。磐田にとって、唯一にして最大の(それも、とてつもなく大きな)懸念材料は、両者の精神状態の違いだった。

 J2で6位となり、ギリギリでプレーオフ圏内に踏みとどまったヴェルディだったが、プレーオフに入ると、同5位の大宮アルディージャ、同3位の横浜FCを立て続けにアウェーで破る快進撃。1週間前の横浜FC戦では、試合終了間際の劇的な”サヨナラゴール”で勝利しているとあって、これ以上ないほど勢いに乗っていた。

 対照的に磐田は、1週間前のJ1最終節で川崎フロンターレに、こちらもまた”サヨナラゴール”で1-2の逆転負け。前節終了時点の13位から、一気に3つも順位を落とし、プレーオフに回らざるを得なくなったのである。

 望む舞台に立ったヴェルディと、望まない舞台に立たされた磐田。どちらが精神的に優位だったかは、考えるまでもないだろう。

 磐田のキャプテン、DF大井健太郎は、自らのオウンゴールが致命傷となって川崎に敗れたとあって、「自分が一番落ち込んだ。全部(リーグ戦全試合に)出させてもらって、この順位。責任を感じていた」。

 名波浩監督も、このプレーオフを「必要ない1試合だった」と表現し、こう語る。

「山岸のヘディングシュートを決められた何十倍、何百倍も(ショックを)引きずった日曜、月曜だった」

 指揮官が引いた「山岸のヘディングシュート」とは、磐田がJ2だった2014年のJ1昇格プレーオフ準決勝、モンテディオ山形戦でのこと。引き分けでも決勝に進める磐田は、1-1で迎えた後半ロスタイム、CKで攻め上がってきた山形のGK山岸範宏にヘディングシュートを決められ、まさかの敗戦を喫している。

 だが、そんな悲劇的な敗戦でさえ比べものにならないほど、今回の”不本意なプレーオフ出場”は大きなショックをチームにもたらしていた。

 しかしながら、「今まで(過去の入れ替え戦やプレーオフで)やられてきたチームは、メンタル(に原因があった)。とにかく、気持ちを切り替えようと思った」と大井。ボランチとしてチームを支え続けたMF上原力也も、「どれだけ前向きにメンタルを持っていけるか。それを、みんなで話した」と振り返る。

 この試合の行方を左右するカギは、磐田がショックを引きずらず、気持ちを切り替えられるかどうか。それがすべてだった、と言っても大袈裟ではない。

 はたして磐田は、「時間はかかったが、いい意味で(川崎戦を)忘れて、気持ちを切り替えられた」(上原)。

 試合は、パスをつないで攻撃を組み立てたいヴェルディに対し、磐田が高い位置からのプレスを敢行。ヴェルディはこれをかいくぐることができず、簡単にボールを失うケースが目立った。

 これで完全に主導権を握った磐田は、41分、山田のスルーパスでDFラインの裏に抜け出したFW小川航基が、自ら倒されて得たPKを決めて先制。後半に入ると、ヴェルディがボールを保持して磐田陣内に攻め入る時間を増やしたが、それも長くは続かず、80分に田口がFKを直接決めて、事実上勝負は決した。

 事前のスカウティングで、「(ヴェルディの)プレーオフの2試合を見て、もちろんリーグ戦も何試合見たかわからない」という名波監督は、しかし、「我々がどう戦うべきか、確固たる答えが出なかったのが事実」だと語る。

 それでも磐田が、「高い位置からボールを奪いにいくのを守備の基本線として」(名波監督)ヴェルディを封じ切ることができたのは、選手たちがプレッシャーから動きを硬くしたり、慎重になり過ぎるあまりプレーが消極的になったりすることがなかったからだろう。

 殊勲の先制点を決めた小川航が語る。

「ヴェルディはGKも含めてつないでくるので、プレスしていけば、ミスも出ると思っていた。このピッチに立ちたくても立てない選手もいる。走らなきゃいけないという使命感があった」

 磐田の選手たちが1週間前の悪夢をしっかりと振り払い、この試合を勝ち抜くことだけに集中できていた以上、結果は妥当なものだったと言うしかない。ヴェルディのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が語る。

「(J1とJ2という)カテゴリーの違いがあるということは、差があるということ。よりレベルの高い選手が1部(J1)にはいる。この試合は、1部で戦っている選手たちの経験や、ホームのアドバンテージが出た試合だった」

 ようやくプレッシャーから解放され、笑みを見せた大井は、大量失点の試合が多かった今季の反省を口にしつつも、「『来年がある』と言えてよかった」と、ホッとしたようにつぶやくと、こう続けた。

「気持ちの切り替えがすべて、というくらい、大きかった。名波さんが自分で『監督が一番切り替えられていない』と言うほど、選手は気持ちを切り替えられた」

 結果は実力どおり、と言ってしまえばそれまでだが、試合を実力どおりの結果に導くことは意外と難しい。

 だが、この日の磐田はそのために必要な準備ができていた。実力上位のチームがその実力を額面どおりに発揮すれば、自ずと勝負は見えていた。名波監督も感服したように、選手を称える。

「今週の(気持ちの)切り替えはすばらしかった」

 試合前にして、すでに勝負は決していたのかもしれない。