DMM.comが経営し、日本人選手を5人も獲得したことで飛躍的に知名度を高めたシント・トロイデンは、選手が14ヵ国から集まる多国籍軍団という側面も持つ。一見、一筋縄ではいかない集団のように思えるが、実際にはチームスピリッツに満ちたすば…
DMM.comが経営し、日本人選手を5人も獲得したことで飛躍的に知名度を高めたシント・トロイデンは、選手が14ヵ国から集まる多国籍軍団という側面も持つ。一見、一筋縄ではいかない集団のように思えるが、実際にはチームスピリッツに満ちたすばらしい試合を演じている。ベルギーリーグ第17節を終えて、5位という成績は立派なものだ。
アントワープ戦で激しいチャージを見せる遠藤航
チームのコアメンバーはある程度固まりつつあるが、出場停止や負傷、不振によってメンバーを代える必要がある場合、マーク・ブライス監督は代役のメンバーと戦術のチョイスをいくつも持っている。
「多様性がSTVV(シント・トロイデン)の秘密。選手たちは4大陸にまたがり、異なる文化、異なる宗教、異なる言語が混ざっている。だが、彼らは非常に仲がよく、お互いに助け合ったり、かばったりしている。戦術的にも柔軟。それが化学反応を生んでいる」(ブライス監督)
第16節のアンデルレヒト戦でストライカーのヨアン・ボリがイエローカードを受け、次節のアントワープ戦に出られなくなってしまった。そこでブライス監督は中盤を厚くする布陣を採用し、遠藤航を3試合ぶりに抜擢した。
それは開始20秒の出来事だった。アントワープのMFオマル・ゴベアのボールタッチが少し大きくなった。すると遠藤は、ゴベアを吹き飛ばすぐらいの勢いで猛然とアプローチし、身体を入れてボールを見事に奪い返した。
「彼を抑えるように(監督から)言われていました。(ゴベアが負傷退場したため)彼のケガの具合が心配ではあるのですが、試合の最初はあれくらい行く姿勢を見せたかった。ああいうひとつのプレーで、チームの士気は上がります。チーム全体として前から行ってやる、というのが表れたシーンだったと思います」
アントワープはインテンシティの高いプレーをすることで知られている。だが、シント・トロイデン戦では強度の高さに加えてラフプレーも目立ち、遠藤には中盤で激しく対抗すること、ゲームを落ち着かせることが要求された。
「こういうインテンシティの高いゲームをいかにこなせるか。そこが自分自身の成長において大事なことなので、(プレーの強度を)落とさずに90分間行けるところまでやれるか、それを求めている。きつくなってくる時間帯でも、前に出ていくことを意識していました」
74分にシント・トロイデンが3-1と2点リードしてからは、「チームとして『ブロックを敷いて守る』という戦術を取りました」と振り返った遠藤だが、「きつくなってくる時間帯でも前に行く」という姿勢は崩さず、83分には右サイドのオープンスペースへ攻め上がってクロスを入れた。
さらに後半のアディショナルタイムには、6人がかりのカウンターに遠藤も加わっている。そう、きつくなった時間帯(しかもシント・トロイデンの勝利は確定していた)でも前に行こうとしたのは、遠藤だけではなかった。それを私は、ひと言で「チームスピリッツ」と呼ぶのだと思う。
第2節ゲンク戦で途中出場した2分後にゴールを決めるという派手なデビューを飾った遠藤は、それから4試合続けてフル出場を果たした。しかしながら、現在のチーム内ステータスはセミレギュラーといったところか。時には戦術的な理由から、時には自身の不調から、先発メンバー落ちしてしまうのである。
だが、困った時には、やはり遠藤だ。第10節のロイヤル・エクセル・ムスクロン戦の65分、スコアは1-1。アレクシス・デ・サートに代わって遠藤がピッチに入ると、試合の流れは完全にシント・トロイデンへと傾き、最終的にはチームを3-1の勝利に導いた。
地元紙『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ」』は遠藤に採点7をつけたうえで、「この試合で遠藤は『ゲームチェンジャー』だった。ブライス監督がより攻撃的なサッカーに舵を切った時、遠藤が(サミュエル・)アサモアとともにチームを引っ張った」と讃えた。
以前、ブレイス監督が遠藤について、こう言ったことがある。
「私は遠藤のようなインテリジェンスある選手が大好きなんだ」
10月23日付けの『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』紙も、このように遠藤を絶賛している。
「遠藤は先発とベンチを行ったり来たりしているが、すでに彼はチームに貢献している。デビューマッチとなったゲンクとのダービーでも、すばらしいゴールを決めた。だが、なんと言っても彼のよさは、STVVのDNAとマッチすることだ。彼は『血と汗と涙』をもたらしている」
シント・トロインデンのモットーでもある「血と汗と涙」というのは、アムステルダムの歌手アンドレ・ハーゼスの有名なナンバーで、「一生懸命ハードワークして、うれしいことも、悲しいことも、選手とサポーターがともに分かち合う」という含意を持つ。遠藤のプレーやチームへの献身性に、地元記者も「血と汗と涙」を連想したのだろう。
時計の針を、アントワープ戦に戻す。試合を終えた遠藤に、「チーム内の競争が激しいですね」と聞いた。すると、遠藤は「激しくなってきたと感じます」と。
「だから、僕がこうやって久しぶりに試合に出て、結果が出たというのはチームにとって大きいと思いますし、個人にとっても大きいと思います。また、監督も(次戦以降のメンバー選考で)いい意味で悩んでくれればいいと思う。与えられた時間でしっかりと自分らしいプレーをして、いい結果を残したい。仮に出られなくても、チームのために何ができるか考えてやっていけばいいと思います」
そして最後に、「この半年は、すごく充実していた。試合に出られた時期もあれば、出られない時期もあった。しっかり、サッカーと向き合えたと思います」と語るのだった。