「日曜日(11月25日)のブルックリン・ネッツ戦で、ジミー・バトラーは、フィラデルフィア・76ersがなぜ彼をトレードで獲得したかを示した」『スポーツ・イラストレイテッド』誌電子版(SI.com)がそう記したとおり、それはまさに”スーパース…

「日曜日(11月25日)のブルックリン・ネッツ戦で、ジミー・バトラーは、フィラデルフィア・76ersがなぜ彼をトレードで獲得したかを示した」

『スポーツ・イラストレイテッド』誌電子版(SI.com)がそう記したとおり、それはまさに”スーパースター”のパフォーマンスだった。




今年11月に76ersに移籍し、早くもチームに欠かせない存在となったバトラー

 ニューヨークのブルックリンで行なわれたこの日のゲームで、76ersに加わって間もないバトラーは34得点、12リバウンド、4スティールと大活躍。第2クォーター終盤に、一時は46-66 と20点のリードを許したチームを、127-125の逆転勝利に導く立役者になった。

 中でも圧巻だったのは、残り0.4秒でアイソレーション(得点能力に優れた選手が1on1をしやすくするための戦術)から沈めた決勝3ポイントショット。難易度の高い一発が見事に決まった瞬間、バークレイズセンターに陣取ったネッツファンも呆気にとられたように沈黙するしかなかった。

「(最後のショットを打つのが)誰になっていても不思議はなかった。みんなは僕のことを信頼してくれるけど、僕も彼らのことを信じているんだ」

 試合後、騒然としたロッカールームでバトラーは謙虚にそう述べた。しかし実際には、76ersのブレット・ブラウンHC(ヘッドコーチ)の頭の中に、ラストショットを新加入のエースに託す以外の選択肢はなかったのだろう。

 2015-16シーズン以降、試合時間残り10秒以内にバトラーが決めたウィニングショットはこれが5本目。ラッセル・ウェストブルック(オクラホマシティ・サンダー)の7本に次ぐリーグ2位の記録であり、バトラーは「現役最高級のクラッチプレイヤー(勝敗を分ける大事な局面に強い選手)」と称えられるようになった。

 多くのタレントを擁する76ersにも、いわゆる”クローザー”は不在だった。スポーツ専門チャンネル『ESPN』の「Stats & Information data」によると、過去2シーズン、試合時間残り10秒以内で76ersの選手が放ったFG(フィールドゴール)13本のうち、成功したのは1本のみだったという。こんな状況を打開できる切り札がほしかったチームにとって、29歳のスーパースターはうってつけの人材。逆に言えば、『SI.com』が指摘しているとおり、このような場面で仕事をするためにバトラーはフィラデルフィアにやってきたのである。

 長年の再建政策が実り、現在の76ersは数多くの若手有望株を抱え、リーグ屈指の注目チームになった。中心になるのはジョエル・エンビード、ベン・シモンズという突出した才能を持つ”2大ヤングスター”。身体能力、クイックネス、スキルをすべて備えた万能派センターのエンビードは、24歳にしてNBA最高級のビッグマンと呼ばれるようになった。

 一方、昨季新人王に輝いた22歳のシモンズは、「レブロン・ジェームズの後継者」という声も挙がるほどの大型オールラウンダー。「常にスーパースターを中心に動く」といわれるNBAでも、これほど魅力的なデュオを抱えているチームはほとんどない。この2人を軸に、76ersは新たな黄金期を切り開いていくかと思われた。

 しかし、発展途上のタレント集団は様々な形で脆さも露呈している。昨季プレーオフ第2ラウンドでは、戦前は有利と予想されながらボストン・セルティックスに1勝4敗で完敗。オフに有効な補強ができなかった今季も、最初の14戦で8勝6敗と開幕ダッシュに失敗した。リーダーシップ、プレーメーカー不足が取りざたされ、チーム内の雰囲気も停滞気味。一部の主力を放出し、ミネソタ・ティンバーウルブズからバトラーを獲得するという大鉈を振るったのは、そんなタイミングだった。

「私たちが手にしたのはギフト(=バトラー)だ。目の前で見ると、彼がさまざまな意味でエリートレベルの選手だとわかる。リーグを代表するディフェンシブ・プレイヤーで、クランチタイム(正念場)に守備で最高級のプレーを見せてくれる。それに加えて、オフェンス面でもウィニングプレーを決めてくれるんだ」

 ブレット・ブラウンHCがそう述べるとおり、バトラーは76ersに足りなかったものを埋めてくれる存在。オールスター4度選出のスウィングマン(ひとりで複数の役割をこなす選手)のよさはオフェンスだけではなく、ペリミター(アウトサイド)の守備力でもリーグ屈指。前述どおり勝負強さも備えており、エンビード、シモンズを支える第3のスターとして興味深い選手だ。

 もちろん懸念材料がないわけではない。歯に衣を着せない物言いで知られるバトラーは、所属チームにとっても危険な存在になり得る。ウルブズ時代にはカール・アンソニー・タウンズ、アンドリュー・ウィギンスという若手スターたちとの確執が喧伝され、それが今回のトレード成立の一因となった。よりメディアが騒がしいフィラデルフィアでも、”暴発”する可能性は否定できない。

「彼は辛抱強く状況を理解しようとしている。正直少し驚いているよ。このチームのプログラムとカルチャーに謙虚に馴染み、チームメイトたちをリスペクトし、すべてをゆっくりと見極めようとしてくれている」

 ブレット・ブラウンHCはそう感心していたが、実際に上位進出のチャンスがある76ersはバトラーにとってもやりがいがあり、馴染んでおきたい職場なのだろう。それでも、新天地に慣れてくるにつれてさまざまなアップダウンがあるはずだ。いずれ訪れる苦境にどう対応するか、そこで原型の76ersの真価が問われることになる。 

 ともあれ、エンビード、シモンズ、バトラーという新たな”ビッグ3”を完成させて以降、76ersは5勝2敗。まだまだスモールサンプルだが、ライバルチームにとって危険なチームになったことは間違いない。同時に、地元ファンにとってもよりエキサイティングなチームになったはずだ。

 今季の76ersのホームゲームは開幕から11戦連続ソールドアウトで、成績も地元では10勝1敗。バトラーのホームデビュー戦には76ersの”レジェンド”アレン・アイバーソンも姿を見せ、ここにきてチームの雰囲気も大きく向上した。このまま76ersが勝ち続ければ、1990年代後半から2000年代前半にアイバーソンを中心にしたチームのように、フィラデルフィアの街を熱狂させるに違いない。

 そんなシナリオが現実のものとなるか。カギを握るのはやはりバトラーだろう。新たな切り札がエンビード、シモンズとかみ合い、クラッチショットを決め続ければ、今季中のファイナル進出も夢物語ではない。NBAファンは、しばらく76ersの動向から目を離すことができなそうだ。