トロロッソ・ホンダは最終戦アブダビGPで惨敗に打ちのめされて、2018年シーズンを終えた。 ヤス・マリーナ・サーキットへの適応はまずまずで、けっして悪くはなかった。とくに低速コーナーの連続するセクター3では、中団グループ最速だった。今…

 トロロッソ・ホンダは最終戦アブダビGPで惨敗に打ちのめされて、2018年シーズンを終えた。

 ヤス・マリーナ・サーキットへの適応はまずまずで、けっして悪くはなかった。とくに低速コーナーの連続するセクター3では、中団グループ最速だった。



今季初めてブローアップを経験してしまったホンダのV6エンジン

「今日の結果では、対他的にセクター3で戦闘力があるのが見えています。ただ、セクター3は結構トリッキーでマシンのセッティング次第では(パフォーマンスが)変わってしまいますので、いかにこのパフォーマンスをキープするかが大事だと思っています。

 そのバランスが課題。2本の長いストレートとセクター3の低速区間でもう少しバランスを取って、安定してタイムを出せるようにし、予選パフォーマンスのよさをロングランでも実現できるようにしたいですね」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 しかし、予選・決勝に向けてセクター1とセクター2を伸ばそうとセッティングを変えたところ、セクター3のよさは目減りしてしまった。

 それでも、予選Q3進出はなんとか争えそうなところにいた。Q1最後のアタックでピエール・ガスリーは自己ベストを0.6秒縮めて最終セクターに入る。だが、最終コーナーでマシンのリアから白煙が上がった。

「パワーを失った! パワーがない! 後ろから煙が出ている!」

 ガスリーの悲痛な叫びが無線で届き、エンジニアからはマシンを止めるよう指示が出された。

 第16戦・ロシアGPの投入以来、ホンダは耐久性が盤石でないスペック3を「金曜は使わない」と決めて”やりくり”して、最終戦アブダビGPで3日間通して使用できるように準備を整えてきた。だが、ここで初めてブローアップを経験してしまった。V6エンジンのうち1気筒が壊れ、パワーが低下してしまったのだ。

「マシンのフィーリングはよかったし、最終コーナーまではとてもいいアタックラップだったんだ。そこまでに0.6秒速かったから、11位か12位でQ1を突破できたはずだった。

 だけど、最終コーナーで1気筒が死んでしまった。ターン20の出口からターン21までの短いストレートでも、スロットルを踏んでからブレーキングの前にパワーの低下を感じ始めて、最終コーナーを曲がって立ち上がりでもう一度スロットルを踏んだけど、まったくパワーがなかった」(ガスリー)

 壊れたのは、以前から懸念箇所ではあったものの、現在のスペック3改良型にはその対策がまだ間に合っていない箇所だったようだ。想定外の問題が露呈したわけではない――という意味では、まだ救いがある。

「ICE(内燃機関エンジン)そのものに問題が発生し、(データ上でも)1気筒から出力が出ていない状態でした。兆候はなく、突然パワーを失いました。壊れている箇所はわかっていますが、ここでは中を開けず、詳細はHRD Sakuraに送り返してからしっかりと解析します」(田辺テクニカルディレクター)

 決勝では16番・17番グリッドからの戦いになった。ブレンドン・ハートレイは1周目の事故の影響でフロントウイングにダメージを負ってピットインを余儀なくされ、スーパーソフトタイヤで最後まで走り切る戦略に切り替えたものの、苦しい展開のまま12位でフィニッシュ。

 ガスリーはスーパーソフトでスタートし、序盤はウルトラソフトを履く前方のカルロス・サインツ(ルノー)についていったが、29周目にピットインするまでに16秒もの差をつけられてしまった。

 ピットストップを終えると、サインツが中団グループ最上位の6位に浮上していたのに対し、ガスリーはハース勢との9~11位争い。後方からはフレッシュなタイヤに履き替えたばかりのケビン・マグヌッセン(ハース)に15周も追い立てられ、10位でフィニッシュできたかどうかはわからない。

 しかし、その結末を見る前にガスリーのマシンからはまたもや白煙が上がり、マシンを止めなければならなくなってしまった。今度はオイル漏れだった。



決勝でもオイル漏れによってリタイアを余儀なくされたガスリー

「パワーユニット側からのオイル漏れで、オイル圧が下がったので止めました。パワーユニット自体が壊れたわけではありませんし、問題箇所を締め直せば、また走れるような状態でした。トラブル自体は深刻なものではないのですが、0か100かで言えば(レースを失って)0ですから、結果としては同じことだと思っています。止まってしまえば、レースは終わってしまいますから」(田辺テクニカルディレクター)

 トロロッソ・ホンダは合計33ポイントで、コンストラクターズランキング9位。

 STR13のマシンパッケージが持っていたポテンシャルを考えれば、これは期待外れの結果だったと言うべきだろう。セッティング、戦略、ドライビング、信頼性……。さまざまなミスが重なり、実力どおりの結果を手にすることができない場面が多々あった。それが、この結果につながった。

「シーズン当初に目指していた結果とは、かなり違うよね。ホンダとのタッグがスタートして、簡単なシーズンにはならないと覚悟はしていたよ。でも、今シーズンはずっと中団グループがものすごい接戦だったんだ。

 レースによって中団最速のチームが入れ替わって、開幕戦はハースが圧勝だったけど、最終的にはルノーがランキング4位に。そんななかで僕らは、何度か自分たちのパッケージのポテンシャルをフルに引き出すこともできたけど、それができないこともあった。

 結果としては、他チームより50点も少ないポイントになってしまったけど、持っている実力としては中団グループのなかでかなりの接戦だった。この結果は本当の実力を反映したものだとも思わない。だからこそ、ガッカリしているけどね」

 そうシーズンを振り返ったガスリーは、今年初めてのエンジンブローに見舞われた予選後の技術ブリーフィングで、「このトラブルからきちんと学んで、来年に向けていいものを用意してくれ」と、ホンダの面々に語ったという。

 たしかに2018年のホンダは、過去3年間の苦闘に比べれば格段に進歩した。性能面ではルノーを追い越し、信頼性の面でもレースを失うようなトラブルは少なかった。

 しかし、最終戦で相次いだトラブルは、ある意味で来季に向けたいい引き締めになったのかもしれないと、田辺テクニカルディレクターは語る。

「何も問題が出ないまま終わって、『まだやるべきことはたくさんある』と口で言っているよりも、最後に痛い目に遭ってよかったのかもしれません。予選でも決勝もいいところを走っていたガスリーにトラブル。フリー走行3回目でもセンサートラブルを出しましたけど、それぞれひとつひとつに見切れていなかったことがあったんです。

 もっと大きく捉えると、『こういう観点でちゃんと見ていなかったよね』『こういう観点で見なければいけないのはどこだ?』という課題が、最後の戦いであらためて見えた。オフの間、きちんと時間をかけてそれらを見直して整理していけるのは、ある意味でよかったと思います。

 今回は浅木(泰昭・開発責任者)も現場にいましたから、『こことここは、こういうふうにしなきゃダメだ』『ここは全部、見直さなきゃダメだ』という話もしました。そういう意味で、いいムチが入ったと思います」

 スペック3自体は、来季を見据えてまだ不完全なまま投入されたものであり、そもそも盤石の状態で7戦保つような耐久性を担保しているものではない。ここで壊れたからといって失望するべきではないし、「やっぱりホンダはダメだ」と来季を見限る必要もない。

 壊れたのならば、その壊れっぷりが来年に向けた勉強になる。2018年の終盤戦は、ホンダにとって2019年に向けた試金石だった。

 これまでは、失敗の連続だった。しかし、今のホンダならば、失敗を成功につなげられる。そんな強さの土台を作り上げた1年間だった。

 それを終えた今、ホンダに課せられるのは、2019年に向けて最高の性能と盤石の信頼性を持つパワーユニットを作り上げることに他ならない。