ミケル・エチャリのベネズエラ戦レポートを読む>>「ふだん代表でプレーしていない選手たちを起用し、経験を積ませる試合になった。相手のキルギスはテクニック、タクティクス、フィジカルなど、あらゆる面で日本に劣っていたが、完全に引いた相手をどう…
ミケル・エチャリのベネズエラ戦レポートを読む>>
「ふだん代表でプレーしていない選手たちを起用し、経験を積ませる試合になった。相手のキルギスはテクニック、タクティクス、フィジカルなど、あらゆる面で日本に劣っていたが、完全に引いた相手をどう崩すか、というトレーニングになっている。それは決して簡単な作業ではない」
スペインの目利き、ミケル・エチャリ(72歳)は11月20日のキルギス戦での日本代表を肯定的に評価している。ポジティブな側面に目を向けられるのは、ひとりのプロフェッショナルとして生き抜いてきた証だろう。エチャリはファン・マヌエル・リージョ(ヴィッセル神戸監督)、ウナイ・エメリ(アーセナル監督)という優れた指揮官たちに強い影響を与えてきた。
「キルギス戦は2018年という1年を総括し、日本サッカーが確実に成長していることの証となった」
エチャリはそう言って、お墨付きを与えた。
キルギス戦でクオリティの高いゴールを決めた大迫勇也
「キルギスはレベルが高い相手とは言えない。力の差を考えたのか、5-4-1という守備的な布陣で完全にリトリートしてきた。
これによって日本には、『露骨に引いて守りに入った相手を崩せるか』という課題ができた。
テストの意味が多分にあったのか、ベネズエラ戦から先発11人全員を変更。これまでの控え選手中心で、布陣は4-4-2だった。
集中的に守る相手を崩すのは、かなりの力の差があっても苦しむことがあるのだが、日本はすぐに門をこじ開けている。前半2分に北川航也(清水エスパルス)、杉本健勇(セレッソ大阪)の連携から、左サイドを抜け出した山中亮輔(横浜F・マリノス)がフリーになって、左足でファーサイドにボールを流し込む。あっさりと先制し、攻撃はストレスを感じることはなくなった。攻め続けながら、失ったボールを奪い返すという、攻守の練習のような様相を呈した。
19分には左FKを原口元気(ハノーファー)が直接シュート。相手GKが手からこぼすという失態を犯し、追加点を奪った。序盤で、力量差が浮き彫りになっている」
エチャリはそう言って、冷静に戦いの流れを説明した。
「日本の基本攻撃は、伊東純也(柏レイソル)、原口の2人がサイドからディフェンダーを中に引き連れ、SBの室屋成(FC東京)、山中が空いたスペースを駆け上がる形か。その動きに対し、2トップの北川、杉本が連動。お互いがサポートに入り、パスコースを多く作り出し、コンビネーションを生み出した。
また、三竿健斗(鹿島アントラーズ)、守田英正(川崎フロンターレ)のボランチは判断が速く、相手を寄せ付けなかった。常に敵陣でプレー。それぞれの距離感はコンパクトで、敵を押し込んでいることもあって、ボールを失ってもすぐに奪い返し、攻め続けた。いつもよりもショートパスを多用した印象はあったが、前線、サイドと連携し、イニシアチブをとった。
ただ、攻めながらも3点目は生まれていない。とりわけ、伊東はエリア内で2度の決定機を得たが、どちらもシュートが枠を捉え切れなかった。原口が左サイドを奥深くまで侵入し、折り返したクロスは効果的だったが……」
エチャリは、丹念に試合を分析している。
「後半が始まって15分近く、キルギスは自陣から出て積極的にプレーしている。システムは変えなかったものの、意識を高め、確実に強度を上げた。プレスをかけるようになって、コンビネーションを使い、ゴールに近づくようになった。
日本が劣勢に立ったわけではない。ただ、膠着状態になったことで、森保監督は吉田麻也(サウサンプトン)、柴崎岳(ヘタフェ)、堂安律(フローニンゲン)、大迫勇也(ブレーメン)など主力組を次々に送り出している。この交代で再び盛り返し、インサイドでボールを持つ機会が増えた。
そして後半27分だった。守田が強めに出した縦パスを、前線の北川がフリックで大迫に通す。大迫はGKと1対1になって、確実に決めた。守田のラインを破るパス、北川の判断、大迫の落ち着きは特筆すべきだろう。これで、相手は憔悴した。
その直後だった。南野拓実(ザルツブルク)がボールを前に持ち運び、堂安にパスを流す。そして堂安はダイレクトで左へダイアゴナルのスルーパス。中島翔哉(ポルティモネンセ)が4点目を流し込んだ。いずれも途中出場の3人による、質の高い攻撃だった。
率直に言って、この2つのゴールのクオリティはとても高かったと言える。事実上、試合はこれで決した」
そして最後に、エチャリは2018年の日本代表をこう総括している。
「2018年、日本はロシアW杯を戦い、ベルギーと熱戦を繰り広げた。その後も、技術、体力、そして戦う姿勢など確実に成長したことを証明している。なにより戦術面の充実によって、大きな飛躍を遂げつつある。森保一監督は、世代交代を適切に進めている。新しい選手たちが野心的にプレーしている点は、これからの可能性と言える。そういう状況を作り出すために日夜働いている、Jリーグのクラブの方やサッカー協会の人たちを、心から祝福したい」
(つづく)