ターニングポイントとなったのは、59分の退場劇だった。東京ヴェルディの内田達也が2枚目の警告を受けてピッチを去ると、押し込まれ続けていた大宮アルディージャに、わずかに弛緩した空気が漂ったように感じた。 おそらく、この時点で大宮の勝ち上…

 ターニングポイントとなったのは、59分の退場劇だった。東京ヴェルディの内田達也が2枚目の警告を受けてピッチを去ると、押し込まれ続けていた大宮アルディージャに、わずかに弛緩した空気が漂ったように感じた。

 おそらく、この時点で大宮の勝ち上がりを予想した人も多かったはずだ。J1参入プレーオフのレギュレーションは、リーグ戦の上位チームが引き分けでも次のラウンドに進めるというもの。



数的有利な状況を生かし切れずプレーオフ敗退を喫した大宮アルディージャ

 この時点で0-0。リーグ戦の順位で勝る大宮が、数的優位を手にしたのだ。そのまま試合を終わらせる可能性は、ずいぶんと高いように思われた。

 しかし、勝つしかない東京Vは、その隙を見逃さなかった。数的不利に陥りながらも、そのハンデを感じさせないアグレッシブなプレーを展開。たしかにボール支配率はそれ以前と比べれば低下したものの、ひとりひとりの運動量は増し、パスだけでなく仕掛ける意識も向上した。

 そして71分、左サイドに抜け出した香川勇気がエリア近くで倒されて、フリーキックを獲得。このチャンスで平智広が執念のヘディングシュートを決め、東京Vが喉から手が出るほどほしかった先制点を奪い取ったのだ。

「相手がひとり少なくなったことで、余裕ができた部分もあるかもしれない」

 大宮の三門雄大は、心に隙が生まれたことを認めている。

 立ち上がりから大宮は、東京Vの猛攻にさらされた。正確なパス回しに翻弄され、プレスをあっさりとかわされると、ボランチに自由を与えてサイドに余裕をもって展開されてしまう。次第に重心が低くなり、早い段階から守りを固める意識が高まった。

 レギュレーションを踏まえれば、そうした選択もけっして間違いではない。ただし、「自分たちがボールを保持する時間が少なくなるのはわかっていましたが、前半から相手にボールを握られ過ぎたし、自分たちのボールを持つ時間が少なかった」と大前元紀が振り返ったように、想定以上にボールを持たれたことで、苦しい戦いを余儀なくされてしまった。

 それでも人数をかけて守ることで、相手に決定的な場面を与えない。ギリギリのところで踏ん張って、時を刻んでいった。

 そんななかで訪れた相手の退場劇――。苦しい時間を過ごしていた大宮の選手が、この状況に安堵したとしても不思議はないだろう。

 もっとも、一発勝負の戦いで隙を見せていけないのは鉄則だ。たとえ優位な状況になったとしても、である。なにより、東京Vは追い込まれていたのだ。開き直った彼らに、怖いものはなかっただろう。逃げ切る意識が働いた大宮と、なりふり構わず向かっていく東京V。この両者の意識の違いが、結果的に勝敗を分けたように思う。

 大宮にスイッチが入ったのは、結局、追いかける展開となってから。長身FWシモヴィッチを投入した残り10分は、シンプルに前にボールを送り込み、相手を自陣に釘づけにした。しかし、一度失った流れは二度と戻ってこなかった。シモヴィッチのボレーシュートがポストを叩いた時、大宮の敗退は決定した。

 振り返れば、今季の大宮は常に苦しい戦いを強いられてきた。1年でのJ1復帰を目指しながら、開幕8試合で早くも5敗を喫するなど低迷。第10節から3連勝と復調の気配を見せたかと思えば、第13節からは3戦未勝利と勢いに乗り切れなかった。

 浮き沈みの激しい戦いを繰り返し、終盤に粘り強く勝点を積み重ねたことでプレーオフ進出の権利を手にしたものの、優勝争いにはついに絡めぬまま。自動昇格を決めた松本山雅FCや大分トリニータと比べて、チームとしての完成度が劣っていたと言わざるを得ない。

「最初の何試合かは、J2の戦いに戸惑った部分はありました。波に乗ることができなかったことが、最大のミスだったと思います」

 石井正忠監督は、力なく今季を振り返った。

 昨季、J1で最下位となり今季からJ2での戦いを強いられた大宮は、江坂任(現・柏レイソル)や瀬川祐輔(現・柏レイソル)といった主力を失いながらも、三門やシモヴィッチを迎え入れ、1年でのJ1復帰に向けて十分な戦力を整えていた。しかし、2015年以来となるJ2の戦いはけっして甘くなかった。理想とするスタイルが、割り切って守備を固める相手に通用せず、結果を求めて方向転換を余儀なくされた。

「シーズン途中に理想とする形から修正することで、本来狙っていた自分たちの形を求めていけなくなった。そのなかで、うまくいかないゲームが続いたのは、正直あります。最初の戦い方がうまくいかなかったことが、最後に響いてしまったと思います」

 狂った歯車は、簡単に戻ることはなかった。大前やマテウスの個人技頼みで、なんとかプレーオフに進んだものの、昇格のかかった重要な戦いで、今季ここまでごまかしてきた不具合が浮き彫りとなった印象だ。やはり勝者に値したのは、突出した個性はないものの、スペイン人指揮官のもとで緻密な戦術と組織を備えた東京Vのほうだったのだ。

 三門は、戦術的な部分はもとより、メンタル面の甘さを指摘した。

「シーズンの残り2試合はハードワークをしながら、タフな試合ができたと思います。今日も負けましたけど、身体を張って戦うというところはしっかりできた。ただ、年間を通してそれができたかというとクエスチョンがつくし、甘さもあった。そういうところが上がれなかった原因かなと思う」

 それにしても、今季のJ2リーグは史上稀にみる大混戦となった。1年でのJ1復帰を目指したのは、大宮だけではない。アルビレックス新潟も、ヴァンフォーレ甲府も、再びトップの舞台への返り咲きを目指しながら、プレーオフにさえ進めなかった。一度落ちたら、這い上がることが難しい。J2という舞台は、ますますそんな印象を強くした。

 三門はさらに言葉を続ける。

「意識は周りの選手が言って変えられることもあるけど、自分のなかから湧き出てくるものだと思う。球際や闘う意識が欠けていると感じたし、そういう部分は自分も含めもう一回、見つめ直さないといけない。J2は簡単に上がれるリーグではない。そういう意識の部分を変えないと、同じことを繰り返してしまうと思う」

 来季のJ2はさらに熾烈を極めるだろう。柏レイソルが降格し、場合によっては名古屋グランパス、ジュビロ磐田、横浜F・マリノスといったJ1で優勝経験のある名門にも、現時点では降格の可能性が残されている。

 一度落ちたら、なかなか這い上がれない。そんなアリ地獄のようなリーグに求められるのは、クオリティや戦術だけではない。闘う意識であり、這い上がりたいというメンタリティこそが、このタフなリーグに必要なものなのかもしれない。

 再び這い上がれるのか。あるいは、J2が定住の地となってしまうのか――。今季の経験を生かすことができるかどうかが、大宮の将来を左右するだろう。