「日本はプレーコンセプトに従い、規律正しく、攻守のバランスを崩さなかった。各ラインが縦にも横にも協調し、特長であるスキルとスピードを随所に出していた。攻撃に関しては、ウルグアイ戦と比べていくらかプレーが遅く、相手の帰陣を許していたが…
「日本はプレーコンセプトに従い、規律正しく、攻守のバランスを崩さなかった。各ラインが縦にも横にも協調し、特長であるスキルとスピードを随所に出していた。攻撃に関しては、ウルグアイ戦と比べていくらかプレーが遅く、相手の帰陣を許していたが……」
ミケル・エチャリはベネズエラ戦の日本代表について、核心をつくような指摘をしている。
スペインの慧眼であるエチャリは先月、バスク代表(FIFA非公認)を監督として率い、ベネズエラ代表と戦い、4-2と華々しい勝利を収めていた。11月16日、同じベネズエラと戦って1-1で引き分けた日本代表の戦いを、彼はどのように捉えたのか?
ベネズエラにとって大きな脅威となっていた中島翔哉の突破力
「確実に戦いを積み上げている」
エチャリはそのディテールまで、深く考察した。
「ウルグアイ戦と比べ、森保一監督は3人の選手を変えている。GKシュミット・ダニエル(ベガルタ仙台)、CB冨安健洋(シント・トロインデン)、左SB佐々木翔(サンフレッチェ広島)が、それぞれ東口順昭(ガンバ大阪)、三浦弦太(ガンバ大阪)、長友佑都(ガラタサライ)に代わって出場。新戦力のテストも兼ねているのだろう。
日本は4-2-3-1でスタートした。序盤は、ベネズエラの強度の高い攻守に遭い、不利に立たされている。相手の帰陣が早く、攻撃が遅れ、攻めきれない時間が続いた。慎重にビルドアップする意識が強すぎたのか、攻撃のテンポが上がらなかった。むしろ、相手のカウンター攻撃に、押し込まれた。
もっとも、日本の守備に混乱は起きていない。ロングボールに対しても動揺はなかった。力強く、堅牢な守りを見せていた」
エチャリは、チームとしての守備の堅さを高く評価している。
「日本はベネズエラのインテンシティに少々苦しみながらも、GKのロングキックを大迫勇也(ブレーメン)が前線で収め、起点を作る。バックラインからの長いボールを有効に使い、攻撃の糸口を見つけている。必然的に、前線でのプレーが増えた。
そして25分、このゲームで最高のプレーが生まれる。吉田麻也(サウサンプトン)のインターセプトから左サイドで中島翔哉(ポルティモネンセ)がボールをキープし、前線に入った遠藤航(シント・トロインデン)に縦パスを入れる。遠藤はそれをすぐにさらに前の南野拓実(ザルツブルク)へ。南野も前の大迫に入れ、自身は駆け抜けながらスペースを作り出している。すると大迫は外側でフリーになった堂安律(フローニンゲン)へパス。堂安はGKと1対1のチャンスを外してしまったが、理想的な攻撃コンビネーションだった。
日本は攻撃のリズムを作り出せるようになると、39分に先制している。敵を押し込み、ファウルで得た右FKを、中島が精度の高いボールをファーサイドに蹴り込み、これを酒井宏樹(マルセイユ)がボレーで合わせた。酒井の体の使い方はすばらしかった。ただし、ベネズエラのGKは一瞬、ブロックかパンチングかで迷ってしまい、判断が遅れたミスだったとも言える」
エチャリは、簡潔に試合の流れを読み解いている。
「リードした後半は、日本がベネズエラを前線から追い込み、中盤のラインを容易に越えさせていない。 大迫、南野の2人は攻撃も守備も連携に優れ、それぞれが補完関係を作り、チームに方向性を示した。とくに大迫のポストワークは秀逸だった。そして中島の突破力は、相手にとって大きな脅威になっていた。南野の背後のスペースを常にカバーしているのも出色。また、先制点で見せたようにキックの質も高い。攻撃は過去3戦よりもトーンダウンしたが、存在感は見せている。
その後、日本は選手交代で選手を試しながらも、チームとしてのコンセプトは崩れていない。途中交代で入った原口元気(ハノーファー)はプレーインテンシティの高さで、チームにパワーを与えていた。同時に、彼がボールを失った後は、チームとしてのリアクション、ポジション的優位性を失っていない。
それだけに、後半36分の失点はやらずもがな、だった。せっかく奪ったボールを杉本健勇(セレッソ大阪)が自陣内で受けるが、迷いが出たのか。これを引っ掛けられて奪われ、エリア付近に入れられたボールをCBが2度クリアしきれず、拾われた後にフリーでエリア内に入れられる。混乱があったのか、酒井が不用意なファウルを仕掛けてPKを与えてしまい、トマス・リンコンに決められた」
エチャリは勝てるはずの試合を追いつかれる結果に苦言を呈した。ただ、戦い方全般には及第点を与えている。
「過去3試合と比べると、攻撃のスピードにいくらか問題はあった。喜びにあふれるような攻撃は少なく、仕掛けのプレーは封じられていた。とはいえ、守備の面では抜群のクオリティを見せた。あるいはチームとして、守備に重心を置きながら戦っていたのかもしれない。それぞれがポジションを守って、しっかりブロックを作りながらも、前線のプレスは鋭く、献身的だった。守りでリズムを作りながら、攻撃を好転させている。戦いを積み上げ、基本路線は間違っていない」
(つづく)