スコアのうえでは、最少得点による際どい勝利。だが、試合内容に照らして見れば、勝つべくして勝った妥当な勝利と言っていいだろう。 来季J1へ昇格できる最後の1枠を争うJ1参入プレーオフ。その1回戦で、東京ヴェルディが大宮アルディージャを1…
スコアのうえでは、最少得点による際どい勝利。だが、試合内容に照らして見れば、勝つべくして勝った妥当な勝利と言っていいだろう。
来季J1へ昇格できる最後の1枠を争うJ1参入プレーオフ。その1回戦で、東京ヴェルディが大宮アルディージャを1-0で下した。
J1参入プレーオフ1回戦を勝ち上がった東京ヴェルディ
リーグ戦5位の大宮に対し、同6位のヴェルディ。引き分けなら大宮が2回戦へ進出することになる試合は、主にヴェルディがボールを保持する展開で進んだ。
大宮側から見れば、得点できなくても、失点しなければいい試合である。一見ヴェルディが攻勢に見える展開も予想の範囲内であり、守備を固めてカウンターを狙えばいい大宮にとっては、ある意味、おあつらえ向きであるようにも見えた。
しかしながら、すでに試合が終わった今となっては、結果論であることを承知で言えば、試合は間違いなくヴェルディのペースで進んでいた。そう言い切って構わないだろう。
理由は主にふたつ。まずは、大宮がボールの奪いどころを定められなかったことだ。
3-4-2-1のヴェルディに対し、4-4-2の大宮が高い位置からプレスをかけようとすれば、2トップが相手3バックのビルドアップをいかに制限できるかが、最初のカギとなる。
ところが、これがまったくと言っていいほど機能していなかった。ヴェルディのボランチ、MF井上潮音が語る。
「3バックが(大宮の)2トップを外せていたので、ボランチ2枚が前を向いてボールを受けることができた」
前向きにボールを持てたヴェルディの2ボランチに対し、大宮の2ボランチが慌ててボールに食いつけば、今度はその背後に潜り込んだ2シャドーへとパスを通されてしまう。結果、大宮のディフェンスはボールの奪いどころが定まらず、ただただ後退を余儀なくされ、ゴール前ではね返すことしかできなくなった。
そして理由のふたつ目は、大宮にまったく攻め手がなかったことである。
大宮が高い位置でボールを奪えなくとも、低い位置でブロックを作ってヴェルディの攻撃を食い止め、個人能力の高い2トップ(FW大前元紀、マテウス)にボールをつなぐ展開が作れれば、大きな問題はなかった。
だが、実際は常に守備で後手に回ることとなり、前半は効果的なカウンターはおろか、ヴェルディ陣内にボールを持ちこむことすらままならなかった。ヴェルディのFW林陵平が語る。
「前半からボールが持てたし、やりたいサッカーができていた。ハーフタイムには、監督やコーチも『いいサッカーをしている』と話していた」
ただ、ヴェルディにとって唯一の誤算だったのは、ボランチのMF内田達也が59分に2枚のイエローカードを受け、退場となったことである。
「2トップにするアイデアを持っていた」
そう語るヴェルディのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が、FWレアンドロの投入を指示し、すでに背番号10がタッチライン脇に出てきていた矢先のアクシデントだった。
しかし、不測の事態にもかかわらず、その後のロティーナ采配は的確だった。
レアンドロ投入を一旦取りやめ、まずはMF李栄直をピッチへ。身長187cmで運動量豊富なMFが、攻撃時には2トップに近い役割を担いつつも、守備時には中盤に下がってスペースを埋め、ひとまず試合を落ち着かせる。
すると、引き分けでもいい大宮が思ったほどかさにかかって攻めに出てこないことを見て取り、満を持してレアンドロを投入。その直後に、FKからDF平智弘のヘディングシュートが決まった。
最後は「ひとり少なかったので、フォーメショーンを変える必要があった」(ロティーナ監督)と、DF若狭大志を投入。「この1点を守り切ろうという気持ちをチームとして統一できた」(井上)というヴェルディは、実質5バック+3ボランチで守備を固めて逃げ切った。林が胸を張って語る。
「みんなが同じ方向を向いてプレーしている。誰が出てもやるべきことをやれる。そこが、ヴェルディの強みだと思う」
ロティーナ体制2年目のヴェルディは、時間をかけて積み重ねてきた戦術を選手が忠実にこなす一方で、不測の事態に対しては、指揮官が的確に穴埋めする。すべてで後手に回った大宮とは、あまりに対照的だった。
とはいえ、ヴェルディはまだ1回戦を突破しただけだ。J1昇格を果たすまでには、まだ2試合を、ともにアウェーで勝たなければならない。ひとつの引き分けも許されないアウェー3連勝は、決して簡単なことではないだろう。
しかし、今のヴェルディ――監督、コーチ、選手が一体となり、それぞれの役割を果たしているチームなら、リーグ戦6位からの大逆転昇格も十分に可能なのではないか。中身の濃い、充実した勝利は、そんなことを思わせる。61歳のスペイン人指揮官が語る。
「プレーオフでは、アウェーで3試合勝たなければいけない。難しいのはわかっているが、自信を持って戦っている。相手によってやり方を変えることはしない。同じ仕事を継続してやっていくことが大事だ」
次の2回戦で対戦するのは、リーグ戦3位の横浜FC。ロティーナ監督は「横浜FCには、引き分けでもいいというアドバンテージがある」と話すが、今季の対戦成績は、ヴェルディが1勝1分けと勝ち越している。そのうえ、1回戦がなかった横浜FCは1週間待たされた一方で、ヴェルディはこの勝利で勢いづいて2回戦に乗り込んでくる。
嫌な相手が勝ち上がってきた――。そう思っているのは、むしろ横浜FCのほうかもしれない。