南米のクラブチャンピオンを決めるコパ・リベルタドーレス。決勝戦に進出したのは、ともにアルゼンチンのボカ・ジュニオルスとリーベル・プレートだった。 その第1戦は2-2。雌雄を決する第2戦は、24日にリーベルのホームであるモヌメンタルスタ…
南米のクラブチャンピオンを決めるコパ・リベルタドーレス。決勝戦に進出したのは、ともにアルゼンチンのボカ・ジュニオルスとリーベル・プレートだった。
その第1戦は2-2。雌雄を決する第2戦は、24日にリーベルのホームであるモヌメンタルスタジアムで行なわれるはずだった。しかしこれが、とんでもないスキャンダルによって順延となった。
キックオフ(午後5時)の1時間半前に、ボカの選手を乗せたバスがスタジアムへ差し掛かると、リーベルのバラス(フーリガン)がいっせいに投石。バス左側面のガラスはほとんど割れ、催涙スプレーの噴射まで受けた。これにより6名の選手が負傷し、角膜を傷つけたキャプテンのパブロ・ペレスは救急車で搬送される事態となった。
ボカ・ジュニオルスのチームバスに投石するリーベル・プレートのサポーター
一度は翌日への試合順延が決まったが、ボカサイドは、リーベルのサポーターによって負傷させられたキャプテン不在での試合を強いられるのは不公平だと訴え、代替開催日未定のまま再び順延の決定が下された。
ボカとリーベルの対戦は、クラシコ(ダービーマッチ・伝統の一戦)の中のクラシコ、あるいは普通のクラシコを超越したカードということで「スーペルクラシコ」と呼ばれる。その注目度はアルゼンチン国内だけにとどまらず、レアル・マドリード対バルセロナ、インテル対ミランなどとともに、「世界三大クラシコ」や「世界五大クラシコ」のひとつに数えられることもある。また、イギリスのミラー紙では、「世界でもっとも激しいクラシコ・ランキング」の1位に選ばれている。
それだけに、この決勝戦には世界25カ国のメディアが取材に訪れていた。その前で、この大不祥事である。アルゼンチンサッカーは、その醜態を全世界にさらすこととなってしまった。
両者は1913年以来、公式戦で247回対戦し、結果はボカの88勝78分け81敗と拮抗。これがファンを熱狂させる要因にもなっている。歴史あるクラシコでも、クラブ間に経済力などの差が生じ、それがそのまま試合結果に反映されて色あせてしまうことも多い。しかしボカとリーベルは常に輝きを失わず、毎回トップクラブのプライドをかけて死闘を繰り広げる。これが、海外のサッカーファンの心までも魅了する。
クラブチームの大会として南米でもっとも価値のあるコパ・リベルタドーレスでも、両者は24回対戦し、ボカの10勝7分け7敗となっている。ただ、今年が59回目となるこの大会で、決勝戦がスーペルクラシコになったことはない。つまり、「史上初」の「歴史的な一戦」ということになったのだ。
さらに来年から、決勝戦は欧州チャンピオンズリーグと同じように定められた開催地での一発勝負になる。今回は最後のホーム&アウェー戦ということもあり、マスコミは「スーペル」を上回る「メガクラシコ」や「メガフィナル(メガファイナル)」と名づけて、連日トップニュースで両クラブの模様を報じていた。
準決勝のカードがボカ対パルメイラス、リーベル対グレミオとなった段階で、決勝戦がスーペルクラシコになる可能性が生まれた。誰もがそれを観たいと思うはずだが、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領は、「決勝はスーペルクラシコにならないほうがいい」と不可解なコメントを出した。
マクリはボカの元会長だ。その経験から、「スーペルクラシコは、国内リーグの対戦であっても、選手とクラブに異常なプレッシャーを与える。それがコパ・リベルタドーレスの決勝となれば、プレッシャーは何倍にもなる。負けたクラブは立ち直るのに30年かかるだろう」と語った。敗者のダメージがあまりにも大きいので、夢の対戦は実現しないほうがいいというのだ。
準決勝の第1戦はともにブエノスアイレスで行なわれ、ボカは2-0で勝ち、リーベルは0-1で敗れた。ボカはアウェーの第2戦でも先制し、2-2の引き分けで決勝進出を決めた。
一方、ホームで取りこぼしたリーベルは、第2戦での勝利は絶対条件。だが、この試合は、マルセロ・ガジャルド監督が出場停止処分という不利な状況にあった。グレミオに先制を許し前半を0-1で終えると、ガジャルド監督は禁止されていたにもかかわらずロッカールームを訪れて選手を鼓舞。それが功を奏したか、後半2ゴールを挙げ2-1で逆転勝ち。2試合トータル2-2となり、アウェーゴールの数により勝ち上がった。
しかし、これに納得できないのはグレミオだ。選手との接触が禁止されていたのにそれを破ったのだから、後半の2得点は無効で「勝者は我々だ」と南米サッカー連盟に提訴した。結局これは認められなかったが、ガジャルド監督には4試合の出場停止処分が新たに科せられ、決勝戦の指揮を執ることはできなくなった。
決勝第1戦は合計4ゴールに加え、数多くのシュートチャンス、GKのファインセーブがある、メガクラシコにふさわしい見ごたえのある一戦だった。
アルゼンチンはメガクラシコにより、分裂したような状況になっている。なにしろ国民のほとんどが多かれ少なかれサッカーに興味を持っており、その約7割がボカ派とリーベル派で占められるのだ。大会スポンサーのサンタンデール銀行は、過度の熱狂や敵対心を鎮めるため、ひとりがボカファンで、もうひとりがリーベルファンという双子の少年をテレビCMに起用。彼らがそれぞれのユニホームを着て仲良く遊んでいるシーンを流し、沈静化を呼び掛けていた。
しかしその甲斐もなく、最悪の事態が起こってしまった。
11月27日には、パラグアイのアスンシオンにある南米サッカー連盟の本部で、今後の日程を決める会議が開かれる。パブロ・ペレスは全治10日ほどかかる模様だ。それを待って12月8日開催が有力という説もあるが、勝者が出場するクラブW杯は12月12日に開幕する。南米代表は準決勝からの参戦なので、日程的な問題はないが、大会プログラムなどを制作する業者は頭を抱えることだろう。