福田正博フォーメーション進化論 日本代表はベネズエラに1-1、キルギスには4-0で年内最後の国際親善試合を終えた。これで森保一監督のもとでの日本代表の戦績は4勝1分け。結果もさることながら、15得点4失点と試合内容も評価に値する。 W杯…

福田正博フォーメーション進化論

 日本代表はベネズエラに1-1、キルギスには4-0で年内最後の国際親善試合を終えた。これで森保一監督のもとでの日本代表の戦績は4勝1分け。結果もさることながら、15得点4失点と試合内容も評価に値する。

 W杯ロシア大会後、それまでの日本代表の中心だった長谷部誠や本田圭佑がチームから離れ、森保監督は世代間融合や世代交代に取り組んで多くの選手をテストしてきた。そのなかで、事がこれほどうまく運んだのは、森保監督が、日本サッカーをとりまく文化や歴史のほか、選手たちのメンタリティも理解しているからこそ。森保ジャパンはチームとしてまとまりがあり、選手たちが主体性を持ってプレーしていると言える。



世代交代を進め、無敗のままアジアカップに向かう森保ジャパン

 もちろん、課題がまったくないわけではない。攻撃的なポジションの選手間の力量差が思っていたよりもある。とりわけ1トップに入る大迫勇也(ブレーメン)の存在の大きさが浮き彫りになった。

 新たな日本代表の象徴的な存在となっているトップ下の南野拓実(ザルツブルク)、左MF中島翔哉(ポルティモネンセ)、右MF堂安律(フローニンゲン)という2列目の若い選手たちが、相手ゴールに向かってパワーを持って仕掛けられるのも、最前線で大迫がポストプレーでボールを収めてくれることが大きい。

 ただし、この重要な役割を高いレベルで果たせるのが、現状では大迫しかいないのが問題なのだ。彼が故障をした場合に代わりとなる選手を見つけることが、森保監督にとってのベネズエラ戦とキルギス戦での主目的のひとつだったと言える。

 そこで起用されたのが杉本健勇(セレッソ大阪)だったが、彼は途中出場したベネズエラ戦、先発したキルギス戦ともに、物足りない出来だったと言わざるをえない。森保監督のみならず、多くのサッカー関係者が杉本に期待を寄せるのは、身長187cmという高さがあって、足下の技術も高く、大きな可能性を感じさせるからだ。彼の能力を考えれば、大迫と同様のレベルでプレーできるポテンシャルがあるだけに、一段も二段もレベルアップしていってほしい。

 その森保ジャパンにとって最初の真剣勝負が、来年1月にUAEであるアジアカップになる。メンバー入りできるのは23選手で、フィールドプレイヤーは各ポジションで2名ずつが選ばれるはず。そこで大迫のバックアップに期待したいもうひとりのFWが、鈴木優磨(鹿島アントラーズ)だ。

 今季、鹿島で大きく成長した22歳のFWは、11月の親善試合に招集されていたがケガで代表を辞退。まだ一度も森保体制下でのプレー経験はなく、また、生粋のポストプレイヤーではないものの、彼には他の日本人FWにはない魅力がある。ゴールに対して貪欲で、ギラギラした野心あふれる彼のプレースタイルは、タイトルのかかった真剣勝負の場で森保ジャパンに新たな化学反応をもたらすのではないかと考えている。

 また、ベネズエラ戦、キルギス戦で、堂安も替えの利かない選手になりつつあることがよくわかった。森保監督が敷く4-2-3-1の特徴は、両ワイドMFが中央に絞ってプレーし、空いたサイドのスペースをSBがオーバーラップして使うことにある。そのなかで左利きの堂安は中央に向かって細かいドリブルやパス交換からゴール前に入ってきてシュートを狙う。その意味で、左利きで同じような特徴の選手が見当たらないのが現状だ。

 右MFには、堂安のほかに伊東純也(柏レイソル)がいる。右利きの伊東は中央に絞ってプレーするよりも、縦への突破が武器の選手で、スペースが必要なタイプ。特長が明確な選手だけに、国際大会では欠かせない戦力であるのは間違いない。伊東は持ち味のスピードを活かしたサイド攻撃からのチャンスメイクが貴重な武器であり、試合展開に応じて流れを変えるジョーカーになりうる。

 また、右利きの中島が入る左MFにはW杯ロシア代表組の原口元気(ハノーファー)や、森保体制下では未招集ながら乾貴士(ベティス)もいる。彼らはスタメン起用されても力を発揮できるだけの経験もあるし、ドリブルという武器もある。そのほか、トップ下の南野の代わりは実績十分の香川真司(ドルトムント)、2トップにすれば武藤嘉紀(ニューカッスル)をFWに起用する手もある。

 アジアカップはグループリーグでトルクメニスタン、オマーン、ウズベキスタンと対戦し、優勝するためには決勝まで7試合を戦う必要がある。開催地のUAEは暑く、連戦に備えてターンオーバーを敷いて戦えるチームをつくっておきたい狙いもあって、キルギス戦ではベネズエラ戦からメンバーを入れ替えて臨んだのだろう。

 キルギス戦は狙いどおりの結果になったとは言えなかったものの、収穫もあった。ボランチで初先発した守田英正(川崎フロンターレ)は攻守で存在感があった。彼は今シーズンのJリーグでもっとも成長した選手のひとりで、その勢いを日本代表でも発揮してくれた。

 キルギス戦の後半、森保監督が柴崎岳(ヘタフェ)を投入して守田とコンビを組ませたのは、所属クラブで出番に恵まれない柴崎に試合勘を取り戻させたい思いのほかに、アジアカップに向けて連係を見ておきたいという狙いもあったのではないだろうか。

 アジアカップでのボランチは、遠藤航(シント・トロイデン)が軸になって、青山敏弘(サンフレッチェ広島)、柴崎、三竿建斗(鹿島)、守田と回していく可能性が高いのではないか。ただ、現状では所属クラブで出番のない柴崎は、1月の移籍期間に新たなクラブへ移ったら招集されない可能性もある。森保監督は選手のことを考えて、クラブでしっかりプレー機会を手にすることを優先するはずだ。クラブでコンスタントなプレー機会を得て、そこでパフォーマンスを高めてから、日本代表に合流してくれればいいと考えているはずだ。

 森保体制発足当初、ボランチの序列の一番手は青山だったが、いまはそのポジションには遠藤航がいると言ってもいい。ベルギーで経験を重ねている遠藤は、キャプテンシーがあって、パフォーマンスが安定していて計算の立つ選手になってきた。

 そのほか、ベネズエラ戦では、日本がビルドアップをする局面で、ベネズエラがボランチにプレッシャーをかけてきた。だが、吉田麻也(サウサンプトン)がリーダーシップを発揮し、ボランチがセンターバックの間に下がって3人でボールを回して、プレスを回避するシーンがあった。こうした「選手が自分で考えて状況に対応できること」こそが、森保監督のマネジメントの最大の武器である。

 これまでの日本代表は、外国人監督のもとで細かく指示を受けて、それを忠実に実行することで相手に対応してきた。その結果、選手から主体性がなくなるケースが多かった。しかし、森保監督は選手たちの自主性を尊重しており、信頼もしている。そして、選手たちもそれを意気に感じているのではないか。

 アジアカップでは森保ジャパンが苦境に立たされる可能性もある。だが、選手の主体性を伸ばしながらチーム力を高めている森保監督にとっては、それさえもレベルアップのための経験であり、想定の範囲内だろう。アジアカップで日本代表はどんな課題を見つけ、それを乗り越えていくのか。いまから楽しみだ。