2009年から東京で開催されていたグランドスラム大会が、今年は関西に場所を移して”グランドスラム大阪2018”として開幕した。 今年9月の世界選手権を連覇した阿部一二三(66kg級/日体大)と、妹である阿部詩(…

 2009年から東京で開催されていたグランドスラム大会が、今年は関西に場所を移して”グランドスラム大阪2018”として開幕した。

 今年9月の世界選手権を連覇した阿部一二三(66kg級/日体大)と、妹である阿部詩(52kg級/夙川学院高)は、世界選手権で初出場ながら18歳で初優勝を果たしており、兄の一二三はこの大会の3連覇を、妹の詩は連覇を狙っていた。



グランドスラム決勝で準決勝までとは違うスタイルを見せた阿部詩

 大会初日の11月23日、ふたりともに圧倒的な強さを見せつけて、オール一本勝ちで決勝に進出した。だが、兄の一二三は決勝で日本勢2番手のアジア大会銀メダリストの丸山城志郎(ミキハウス)に巴投げで技ありを取られて2位。3連覇はならなかった。世界選手権後はスケジュールもタイトだったうえ、手首を痛めて練習ができない時期もあった。井上康生男子監督は「世界選手権と比べれば、しっかり準備できない環境もあったと思う」と言う。

 16年講道館杯以来の対日本人選手の敗戦に、一二三は「決勝は決められそうな場面が何回かありましたが、そこで決め切れなかったのがダメですね。1回巴投げで負けている相手なので、巴投げが来るのはわかっていました。ただ、それを意識しすぎると、自分らしさが出なくなるのであまり意識はしなかった。でも同じ形で負けたてしまったので、そこは改善しなくてはいけないと思う」と反省を口にした。

 一方、妹の詩は進化した姿で危なげなく大会連覇を果たし、”世界選手権とグランドスラム大阪で優勝すれば翌年の世界選手権代表に内定”という条件をクリアして、世界選手権出場を決めた。

 強さを見せつける優勝だった。初戦となった2回戦では、マダガスカルの選手を開始10秒に袖つり込み腰で一本勝ち。3回戦はアジア大会2位のパク・ダソル(韓国)を相手に、開始1分38秒で指導3と追い込んで反則勝ち。準決勝の相手は、9月の世界選手権の決勝でも対戦し、延長のゴールデンスコアまでもつれ込んで内股で下した志々目愛(了徳寺学園職員)だったが、今回は開始23秒に内股すかしであっさり一本勝ち。鮮やかに優勝を決めた。

 しかし決勝では、準決勝までとは詩の柔道のスタイルが一変した。対戦相手は過去3戦全敗していて、巴投げを得意とするアジア大会優勝の角田夏実(了徳寺学園職員)。組手がけんか四つで互いになかなか組めない展開になった。

 そんな中でも詩は「しっかり襟を持って柔道をしようと思っていたけれど、相手もすごくうまいので襟を持てなかったです。でも、そこで止まってしまったら巴投げで投げられるので、絶対に止まらないようにしようと思ってがむしゃらに仕掛けました」と、激しく動き続ける柔道を展開した。そのままゴールデンスコアに入ると、開始57秒で両者指導を受け、これで角田の指導が3になり、詩が反則勝ちを決めた。

「投げるのは厳しいかなと思っていたので、ゴールデンスコアに入ってからは両者指導ということも頭の中にありました。でも、相手が前に出てきてくれるのもあったので、ワンチャンスがあれば思い切り入っていこうと思っていました。

 がむしゃらに、何も考えずに前に出る柔道が自分の取り柄だと思いますが、角田さんとの試合はそれで負けているので……。だから、今回はしっかり相手がやってくるところを見て、『攻めるところはしっかり攻めて、守るところは守る』と考えてやりました」

 こう話す詩を、増地克之女子監督は次のように評価する。

「世界選手権の内容も含めて、力をつけていると感じました。とくに今回は大人の柔道というか、世界選手権で優勝しているから負けられないということで、決勝はああいう柔道になったと思います。これからは競った場面で、そういう戦い方も必要になってくる。いろんな戦いをしていけたらいいとプラスに考えています」

 詩はその監督の言葉を受けて、「周りが見たら、たぶん考えた柔道だなという風に思うだろうけど、そのとおり、勝つための柔道を徹底しました」と笑顔で話す。

「角田さんにはもう3回負けているので、4回も負けたらもう話にならないなと思った。これまでは勝った試合の映像しか見なくて、負けた試合を見るのは嫌でしたが、絶対に勝つためにはそういうこともしなければいけないと思い、4月の全日本選抜体重別で負けた映像を10月くらいからずっと見てきました。『こうやったらいけない』とか考えて、次の日にそれを練習していたので、試合でもしっかり落ち着いてできたかなと思います」

 兄の一二三は、昨年のグランドスラム優勝で世界選手権代表を内定させた後、ヨーロッパへ単身修行に出ていたが、詩は「私はひとりで海外というのはないですけどね」と笑う。それでも強くなるための努力は惜しまない。

「もっと勝ち方を考えていかなければいけないと思うし、まだ対戦していない海外の強い選手もいる。世界選手権に内定したことで時間もあると思うので、いろんなことに挑戦して、自分の苦手な部分や得意な部分というのを、しっかり見つめ直していきたい」

 国際デビューとなった16年のチューリンゲン国際大会以来、詩は、外国人選手には負けなし。さらに、シニアのグランプリも17年2月のデュッセルドルフで優勝して以来、世界ジュニアや世界選手権、グランドスラムを含めて国際大会で優勝し続けて負けなし。その強さをどこまで進化させるのか、まだまだ底知れないものを感じる。