最終戦アブダビGPでトロロッソ・ホンダは、到底不可能と思えるような任務に挑む。ザウバーからコンストラクターズランキング8位を奪還するという「ミッション・インポッシブル」だ。 ザウバーとのポイント差は9点。これをひっくり返すためには、最…

 最終戦アブダビGPでトロロッソ・ホンダは、到底不可能と思えるような任務に挑む。ザウバーからコンストラクターズランキング8位を奪還するという「ミッション・インポッシブル」だ。

 ザウバーとのポイント差は9点。これをひっくり返すためには、最低でも7位(6点)と8位(4点)が必要だ。3強チーム(メルセデスAMG、フェラーリ、レッドブル)がずば抜けた速さを持っている今、その6台に何事も起きなかったとすれば、7位・8位というのはすなわち、中団グループのトップに立たなければならないということだ。



トロロッソ・ホンダは最終戦でザウバーを逆転できるか

 今年トロロッソ・ホンダは、バーレーンGPとハンガリーGPで中団トップに立っている。しかし必要なのは、中団トップでなおかつダブル入賞。実は、トロロッソ・ホンダはこれまでに一度もダブル入賞がない。それをここ最終戦で果たさなければならないのだ。

 それでいて、なおかつザウバーが9位にならないこと。10位1点のみなら同点で並び、最高位が4位のトロロッソ・ホンダがランキング上位となる。

 3強6台に何かが起きて、中団トップが上位に繰り上がったとしても、4位まではポジションひとつで2点差というのは同じであるため、トロロッソ・ホンダが中団トップでダブル入賞を果たし、ザウバーがその背後に来ないことが条件になる。

 つまり、コンストラクターズ8位奪還は、極めて厳しい任務だ。

 そもそも、純粋なパフォーマンスでザウバーを上回ること自体が容易ではない。ピエール・ガスリーはザウバー勢の速さをこう説明する。

「ここのところのザウバーは常に2台揃ってQ3に進んでいて、ものすごくコンペティティブだ。ここ数戦だけ見れば、実質的に4番目のチームと言っても過言ではない。彼らを打ち負かすのはかなりタフだろう。

 だから僕らとしては勝ち負けよりも、自分たちのマシンパッケージが持っているパフォーマンスを最大限に引き出すことに集中して、その結果として日曜のレースがどうなるかだ。もちろん、ものすごく難しいということはわかっているよ。だけど計算上、逆転の可能性がなくなるまではあきらめることなく戦い続ける」

 前戦ブラジルGPでは好走を期待していたが、レースペースが遅くてノーポイントに終わってしまった。

 レース直後は予選でQ3に進んだにもかかわらず、「決勝がどうしてこんなに遅いのかわからない」と、チーム関係者たちは首をひねっていた。結果的に問題は、空力性能でもなければパワーユニットでもなく、タイヤの使い方にあったというのがチームの分析による答えだ。

 ブレンドン・ハートレイはこう語る。

「一部で報道されたような、ホンダのパワーユニット性能が原因というのはまったくの間違いだよ。メキシコでは古いスペックを使っていたにもかかわらず、あれだけ良好なパフォーマンスを発揮していたんだからね。

 ブラジルでパフォーマンスが劣っていたのは、タイヤをいかに使うかということに起因していた。とくにリアタイヤだ。1周アタックではうまく使うことができたけど、ブラジルはタイヤへの入力が大きいサーキットだから、タイヤ温度を正しいウインドウ内にキープすることに苦労したんだ」

 リアが滑り、タイヤ表面がオーバーヒート。それによってグリップが低下し、さらに滑ってタイヤ表面の温度ばかりが上がる。まさに負のスパイラルだった。

「それはドライビングの仕方だけでなくて、タイヤをいかにクールダウンするか、マシンのセットアップや(デフやエンジンブレーキ、BBW〔ブレーキ・バイ・ワイヤ〕など)さまざまなツールの使い方にも関連していて、とても複雑なんだ。それは同じくタイヤへの入力が大きい鈴鹿で直面したのと同じ問題だ。予選ではとても速かったのに、決勝では大きく後退してしまった。そういう問題を解決するためにツールをどう使うか、チームにとって学んで理解しなければならないことがたくさんある」

 コーナーの入口、中、出口で、それぞれデフをどのくらいロックさせてリアを安定させるのか、それともデフをオープンにして左右輪を自由に回転させてマシンを旋回させやすくするのか。ブレーキング時にエンジンブレーキをどのくらい効かせるのか、ブレーキペダルを最初に強く踏み込んだ状態から徐々に離していく過程でブレーキバランスをどのように変化させるのか……。それもタイヤ状況と路面状況、燃料の重さに応じて常に変化させ続けなければならない。

 それをうまく使いこなすことで、リアタイヤへの負荷を減らしてうまいタイヤマネジメントで速いレースペースを刻むことができるのだ。

 リアタイヤに負荷のかかるブラジルでは、それがうまくいかなかった。そしてアブダビは、最終セクターが低速のストップ&ゴーであり、リアタイヤに負荷がかかるだけに、その問題が再発するようでは中団グループのトップなど望みようがない。

 ブラジルGP後のデータ解析により、チームはその問題をしっかりと究明してきたという。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。

「チームとしても、予選ペースと決勝ペースの差を気にして、空力面・メカニカル面のセッティングをどのあたりに合わせ込むべきか、見直してきました。前回は、予選はよかったけど決勝はイマイチでしたから、それを解析していろいろと学べた。ですから、ストレート2本にもうまく対処しつつ、ロングランでも最終セクターの低速区間でタイヤを壊さず、うまくいけるんじゃないかと期待しています」

 コンストラクターズランキング8位を奪還するために、中団グループのトップに立つことができるかどうか。そして、ザウバーとの間に他の1台が入ってくれるかどうか。

 それらは「ライバルの実力がどの程度のものか」という相対的な指標によって決まることであって、ある意味でトロロッソ・ホンダの力ではどうすることもできない側面もある。

 トロロッソ・ホンダにここで求められるのは、新型空力パッケージとスペック3パワーユニットのポテンシャルをフルに引き出すことだ。自分たちが実力を出し切りさえすれば、あとは運を天に任せるより他はない。ミッション・インポッシブルは果たされるか――。