満を持して代表初キャップを刻んだレフティが、最高の滑り出しを遂げた。豊田スタジアムで行なわれたキルギス戦の2分、山中亮輔(横浜F・マリノス)が得意の左足でネットを揺らし、大勝の口火を切った。杉本健勇(セレッソ大阪)からの「かなり良いタ…
満を持して代表初キャップを刻んだレフティが、最高の滑り出しを遂げた。豊田スタジアムで行なわれたキルギス戦の2分、山中亮輔(横浜F・マリノス)が得意の左足でネットを揺らし、大勝の口火を切った。杉本健勇(セレッソ大阪)からの「かなり良いタイミングのパス」をボックス内で「思い切って振り抜き」、ボールがファーポストの内側に転がると、歓喜が爆発。「本当にうれしかったです。素直に」と、日本代表史上最速となるデビュー戦の初ゴールを喜んだ。
代表初出場で初ゴールを決めた山中亮輔
横浜F・マリノスに所属する25歳のレフトバックは、今シーズンのJリーグでもっとも成長した選手のひとりと言っても過言ではない。今季から横浜を率いるアンジェ・ポステコグルー監督が目指す先鋭的な攻撃サッカーで、サイドバックはカギを握る。マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督の手法にも通じるその戦術では、マイボールの際に中央に入ってポゼッションを高める役割を担う。
左足のキックや推進力といった攻撃面を持ち味とする山中は、この新しいチャレンジに意欲的に取り組んだ。そして2月のJ1開幕戦でも、先制のミドルを決めた。ボックス外の中央の位置からゴールを奪ったわけだが、通常のフルバックなら、そこにはいなかったはずだ。
ただし中央でプレーする怖さもあったと、彼は打ち明ける。タッチラインを背にしてプレーするサイドとは異なり、周囲360度から相手のプレッシャーに晒されるため、ボールを失うシーンも散見。奪われたあとは、高い守備ラインの後ろにある広大なスペースを容赦なく突かれた。
「正直に言って、サイドに張っている方が楽です。プレッシャーの受け方も全然違うので」と、代表に初選出された翌日のマリノスの練習後に彼は言った。「でも(ポステコグルー監督のサッカーのおかげで)かなり注目してもらったと思う。このサッカーで結果を残してきたからこその代表(選出)。監督にはすごく感謝しています。チームメイト、スタッフ、サポーターのみんなに感謝を伝えるためにも、(代表の)試合でいいところを見せたい」
数字も雄弁に語る。昨季までJ1では通算5シーズンで計2得点だったが、今季はすでに4ゴール。威力と精度を誇る左足のキックは、CKやFKでも相手に脅威を与えた。オーストラリア人指揮官のもと、宿していた潜在能力が殻を破った。ポステコグルー監督も「ヤマは代表にふさわしい選手。成長を続けており、次のレベルに達しようとしている」と山中の代表入りを喜んでいる。
日本が待望した攻撃的な左利きのレフトバックは、「思ったよりも緊張せずに」代表に初先発。マリノスでプレーする時とは異なり、中央のエリアに入ることはほとんどなかったものの、自身の持ち味を存分に披露した。チームメイトもそれを認めている。冒頭の先制ゴールのあと、前半の途中にGK権田修一(サガン鳥栖)からアドバイスを受けるシーンがあった。
「昨日の練習では主に(自陣に)戻ることを要求したんですけど、今日の相手を見て、彼の特徴を生かすには、もう少し高めの内側の位置を取った方がいいのでは、と言いました。そこでセカンドボールを狙った方がいいかな、と」(権田)
山中の全体的なパフォーマンスについては、権田はこんな風に答えてくれた。
「2タッチ目ぐらいであれを決めてしまうのは、さすがです。ここ(代表)に来るだけのポテンシャルがある選手。練習でもそれは感じましたし、頼もしいですね。一般的には、長友(佑都/ガラタサライ)選手の代わりと思われているかもしれないけど、こんなパフォーマンスを見せてくれれば、(監督は)次はどっちを使おうかと(頭を悩ませるはず)。チーム全体の成長のためには、そういう競争が大事。新しく入った選手がこうやって活躍して、良い循環になっていると思います」
日本代表のレフトバックは長きにわたって、長友佑都の独壇場だった。だが10月下旬にチャンピオンズリーグのシャルケ戦で肺気胸を患い、そのポジションが空いた。そこで山中に白羽の矢が立ち、本人も「(長友の)代役と見られていると思う」と自認。けれど、「僕には僕のよさがあると思うので、代わりではなく、僕というプレーヤー(の色)をしっかり出していきたい」と選出直後に語った。
キルギス戦の後、選手たちが「今日は相手が相手だった」と異口同音に話したように、マッチメイクの意図を疑ってしまいたくなるほど、キルギス代表がソフトな相手だったことは確かだ。それでも、デビュー戦でインパクトを残せる選手はそんなにいない。山中本人は「出来すぎかな」と認めたうえで、「試合全体を通してみれば、細かいミスがあったので、反省したい。代表の練習では自分の力不足をすごく感じる」と地に足をつける。
前半の終盤には、往年のロベルト・カルロスのような細かく長い助走から遠目のFKを放った(この時は大きく外れてしまった)。我々としては、ついロベカルの影響を見出したくなるが、「インパクトしやすいので、やっているだけです」と素っ気ない。マンチェスター・シティの左サイドバックとの比較についても、「参考にしているくらい。自分は自分なので」と返答する。
オリジナリティを追求する左利きのレフトバック。じきに復帰するはずの長友とのポジション争いも楽しみだ。森保一監督のうれしい頭痛のタネがまたひとつ増えた。