「チームの中で、すべての選手が同じレベル、というのはありません。経験が浅く、まだ足りないところがあっても、可能性や伸びしろを見て招集している選手もいます。代表を経験することによって、さらに成長できることもあるので。その経験を所属クラブに…

「チームの中で、すべての選手が同じレベル、というのはありません。経験が浅く、まだ足りないところがあっても、可能性や伸びしろを見て招集している選手もいます。代表を経験することによって、さらに成長できることもあるので。その経験を所属クラブに持ち帰って、それを伝え、さらなる代表のレベルアップにつなげていければ、と思っています」

 11月20日、豊田スタジアムでのキルギス戦後の記者会見。登壇した森保一監督は、訥々(とつとつ)とした調子で語っている。

「たとえ今は力の差があっても、トレーニングの中で選択肢を持たせていくというのも、自分の仕事」

 森保監督はそう断って、強化のプロセスにあることを強調した。

 この夜のキルギス戦は、16日のベネズエラ戦からスタメン11人が全員変更。代表デビューを飾った山中亮輔(横浜F・マリノス)を筆頭に、9人が代表キャップ二桁に届かない”新参者”の舞台となった。



キルギス戦で代表初先発を果たした北川航也

 ロシアW杯後、代表を率いることになった森保監督だが、たった数カ月で主力の顔ぶれは定着しつつある。3試合連続得点と売り出し中の南野拓実(ザルツブルク)など、強豪ウルグアイを4-3と派手に破った試合の先発メンバーは、今後もひとつの土台になるはずだ。

 もっとも、チーム強化にそれでは足りない。新参者たちがポジション争いに食い込めるか?

 それは日本サッカーの今後を占うポイントになる。

 キルギス戦の新参者は、”Jリーグ代表”とも置き換えられるかもしれない。原口元気(ハノーファー)を除いて、全員がJリーガー。まさに、日本サッカーの底上げを担っている存在と言えるだろう。

 現時点で、代表引退を表明した長谷部誠(フランクフルト)や本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)を含めて、これまで代表を担ってきた岡崎慎司(レスター)、香川真司(ドルトムント)、乾貴士(ベティス)といった面々の実力は、新参者たちよりも上だろう。

 しかしいずれも30歳前後で、今後を考えると世代交代は急務になっている。南野、中島翔哉(ポルティモネンセ)、遠藤航(シント・トロイデン)、堂安律(フローニンゲン)の台頭は喜ばしいが、まだまだ足りない。

「これで満足したくはないです。ようやく代表の雰囲気に馴染んできたので。自分のプレーを出す、(自分のよさを)知ってもらうようにしないと」

 キルギス戦で初先発し、代表3試合目を戦った22歳のFW北川航也(清水エスパルス)は、ミックスゾーンで記者たちに囲まれながら言った。今シーズンは日本人3位の13得点を記録中。得点を取るためのポジショニング、タイミングに優れ、かつて清水にいた岡崎を思わせる。

「前回、呼ばれたときよりも、リラックスしてプレーできるようになりました。代表に来ることで、もっとうまくなりたい、という欲が出てきたというか。その欲がどんどん大きくなって、パワーが生まれている気がします」

 代表という環境がカタルシスを与える。事実、そうやってスターダムを駆け上がった選手も少なくない。もっとも、北川は冷静だった。

「でも、(主力となっている選手たちと比較して)すべての面でまだ違うと思います。とくにスピード。(堂安)律、サコ(大迫勇也)さん、(中島)翔哉くん……一緒にやってみてクオリティが高かったし、それは試合を外から見ていても思いました。そういう選手たちと、遜色なくできるようになる必要があると思います。

 その意識を継続して過ごせれば、やれるようになるはず。前回よりは今回(は手応えはあるという)というか。ひとつひとつの経験をエスパルスに帰って伝えて、プレーで示せるように。それでJリーグの価値を上げたい」

 72分だった。北川は中盤からの強めの縦パスを左足フリックで落とし、大迫の得点を完璧にアシストしている。得点はなかったものの、プレーインテリジェンスの高さを示した。ただ、立ち止まることとはできない。

「個人的には満足していません。ゴールがなかったし、チャンスに決められなかった。(本田、香川らが作った)時代を超えていきたい」

 そう語ったのは、北川と同じポジションの南野だった。新たな時代を切り開こうと野心的で、少しも現状に甘んじていない。今後も欧州で日本人としてタフな戦いを続け、そこで得られるカタルシスは桁外れだ。

 率直に言って、欧州でプレーする”主力”が投入された終盤、日本の勢いは確実に増した。攻守両面で、ひとつの形ができつつあるのだろう。あまりの優勢からか、コンビネーションを使わず、単独でつっかけ、失うシーンも見られたが、欧州でプレーする分厚い自信を見せた。

 しかし、やはりJリーグ勢の押し上げがないと、チーム強化は鈍化する。「新ビッグ3」という表現もあるようだが、彼らにしてもビッグクラブに所属しているわけでなく、言葉のみが先走っている印象だ。熾烈な競争こそ、代表に求められるはずだ。

 来年1月のアジアカップが、森保ジャパンの試金石になる。