後半なかばから、柴崎岳(ヘタフェ)、大迫勇也(ブレーメン)、堂安律(フローニンゲン)、吉田麻也(サウサンプトン)、中島翔哉(ポルティモネンセ)、南野拓実(ザルツブルク)が次々に交代選手としてピッチに現れると、スタジアムは1軍選手の登場…
後半なかばから、柴崎岳(ヘタフェ)、大迫勇也(ブレーメン)、堂安律(フローニンゲン)、吉田麻也(サウサンプトン)、中島翔哉(ポルティモネンセ)、南野拓実(ザルツブルク)が次々に交代選手としてピッチに現れると、スタジアムは1軍選手の登場を喜ぶかのような華やいだムードに包まれた。
そして後半27分、28分、大迫と中島が立て続けにゴールを奪いスコアを4-0とすると、その”1軍色”はより鮮やかに輝くことになった。
1軍選手の活躍で勝利に華を添えることになったこの展開を、無条件で歓迎している人が多いとすれば、それは違うのではないかと言いたくなる。筆者は歓迎できない勝ち方だったと思っている。
ベネズエラ戦から先発11人全員が代わったキルギス戦
このキルギス戦は壮行試合と言っていい。来年1月上旬から始まるアジアカップ(UAE)に向けた最後の試合。そこで1軍選手が輝き、2軍選手との差が鮮明になった。
アジアカップは準決勝に進めば最大7試合を戦うトーナメント。参加チームは24ながら、試合数はW杯と同じだ。使える選手が11人しかいなければ、可能性はたかが知れている。問われているのは1軍の力ではない。当たり前の話だが、日本代表23人の総合力だ。そうした視点で眺めると、森保采配には首を傾げたくなる。
16日に大分で行なわれたベネズエラ戦のスタメンは、GKシュミット・ダニエル(ベガルタ仙台)とDF冨安健洋(シント・トロイデン)、佐々木翔(サンフレッチェ広島)以外、10月に行なわれたウルグアイ戦と同じだった。
さらに言えば、そのウルグアイ戦で実行された選手交代は2人のみ。南米の強豪に4-3で勝利したことにより、交代枠6人の中で2人しか代えられなかったその采配に目がいく。この試合で鮮明になった”1軍色”を森保監督は崩そうとしなかった。その状態を維持したまま次のベネズエラ戦に臨んだ。
森保監督はここでも交代枠6人の中で4人しか代えなかった。結果的に1軍と2軍を隔てる采配に及んだ。
そして4日後に行なわれたこのキルギス戦。先発したのはベネズエラ戦で先発から外れた集団だった。森保監督はこの試合に、1軍と2軍を全取っ替えして臨んだ。
後半の途中から1軍選手が登場すると2ゴールが生まれ、停滞していた試合内容は回復したが、メリット、デメリット、どちらが大きいかと言えば後者になる。1軍色、2軍色を鮮明にし、両者を隔てる演出をしたのは他ならぬ森保監督だ。
アジアカップに臨むにあたり、理想とする姿はその逆。誰がスタメンかわからない状態を保つことだ。チーム内に力の差があったとしても、それを競った状態であるように見せる演出力が代表監督には求められる。そうでないとチーム内に競争は生まれてこない。
思い出すのはロシアW杯を戦った西野ジャパンだ。グループリーグの第1戦(コロンビア戦)、第2戦(セネガル戦)をまったく同じスタメンで戦ったが、第3戦(ポーランド戦)では、スタメンを一気に6人入れ替えた。1戦、2戦を1軍で戦い、第3戦を1.5軍で戦ったという感じだ。
西野監督が3戦目で選手を大幅に入れ替えた理由は、それをしないと4戦目(ベルギー戦)を戦う目処が立たなかったからだ。
この時点でフィールドプレーヤー20人中17人を使っていた。チームとしての疲労感を17人で分かち合っていたが、一方で、チームはAとBに大きく2分された状態にあった。
そしてベルギー戦のスタメンを飾ったのもA。スタメンは4戦でA→A→B→Aと推移した。ベルギーにもし勝っていたら、5戦目の準々決勝のスタメンはAしかなかったと思われる。選択肢は思い切り狭まっていた。
チームは2分された状態にあったのだ。西野監督は1戦1戦、少しずつ代えるという芸当ができなかった。Bで臨んだポーランド戦は一世一代の大博打を敢行。試合には0-1で敗れたが、グループリーグはなんとか通過。結果オーライと言うべき産物を得た。
AかBか。1軍か2軍か。チームがこうなってしまうと、3試合目で青息吐息になる。博打に成功した西野ジャパンは4試合目まではもったが、それ以上はおそらく無理だったろう。Aの先発メンバーは疲労で余力のない状態にあった。
アジアカップで日本が目指すのはベスト16入りではない。ベスト8でもない。ベスト4以上。7試合を戦うことが最低のノルマになる。そこから逆算すれば、ウルグアイ戦、ベネズエラ戦、キルギス戦の戦い方は不合格になる。なぜ少しずつ代えなかったのか。答えが見えたら、なぜ、それにばかり固執するのか。功を焦っている気がしてならない。たとえウルグアイに4-3で勝利しても、監督の姿勢が垣間見えると喜ぶ気は失せるのだ。
キルギス戦の後半、1軍のメンバーが登場して2-0だった試合を4-0にしても喜ぶ気は湧かない。むしろ心配になる。中島、南野、堂安を「攻撃の3銃士」と呼んで勝手に盛り上がろうとする世論と森保監督とが同レベルに見えてしまうのだ。
しかしその「3銃士」にも、問題は見え隠れしている。中でも右を務める堂安だ。彼は左利きなので、気がつけば内に入り込もうとする。伊東純也(柏レイソル)が出場している時のほうが、縦への意識は強かった。サッカーを俯瞰したとき、どちらの方がデザイン的に整ったものに見えるかといえば、伊東の方だ。右SBとのコンビネーションプレーでも伊東のほうがいい。
左サイドで先発出場した右利きの原口元気(ハノーファー)の症状は、堂安に似ていた。ポジションはどうしても内寄りになる。左SBとして代表初出場を飾った山中亮輔(横浜F・マリノス)と絡むシーンはほとんどなし。コンビとして成立していなかった。中島に先を越された焦りも手伝ってか、単独プレーばかりが目立った。
中島は、原口と同じ右利きながら、サイドで深く構える余裕がある。それがプレーの選択肢を広げている。左SBとの連携も上々だ。
南野に代わって先発を飾った北川航也(清水エスパルス)は、まだまだステディーではないが、底が割れていない魅力がある。南野より高い位置で構える選手だが、変化技も持ち合わせている。点がほしいときに、南野に代えて投入すると、面白そうな存在だ。
アジアカップ。そのグループリーグで、トルクメニスタン、オマーン、ウズベキスタンと戦う日本だが、注目は初戦のスタメンだ。ガチガチの1軍メンバーで臨んでしまうと危ない。繰り返すが、メンバーを初戦から固定化すると最後まで続かない。
はたしてグループリーグの3戦で、フィールドプレーヤー20人中、何人の選手を使うことができるか。森保ジャパンへの期待値は、その人数に比例するといっても過言ではない。