明治杯全日本選抜選手権(明治杯)の激闘から3週間。全日本社会人オープンの熱気も覚めやらぬ埼玉・和光市総合体育館にて、世界選手権代表決定プレーオフ(プレーオフ)が行われた。世界選手権の選考規定は昨年の天皇杯全日本選手権(天皇杯)と明治杯の優…

 明治杯全日本選抜選手権(明治杯)の激闘から3週間。全日本社会人オープンの熱気も覚めやらぬ埼玉・和光市総合体育館にて、世界選手権代表決定プレーオフ(プレーオフ)が行われた。世界選手権の選考規定は昨年の天皇杯全日本選手権(天皇杯)と明治杯の優勝者が同一の場合は当該選手が、異なる場合は天皇杯と明治杯の優勝者同士でプレーオフを行い、勝者が世界選手権の代表となる。早大からは女子50キロ級に明治杯女王の須﨑優衣(スポ1=東京・安部学院)が出場。天皇杯女王の入江ゆき(自衛隊体育学校)と再び激突した。

 昨年の天皇杯ではテクニカルフォールで入江が、先日の明治杯ではフォールで須﨑が勝利を収めており、まさしく好敵手と言える両者。この日のプレーオフでも意地と意地のぶつかり合いとなった。試合序盤は互いに相手の出方をうかがう拮抗(きっこう)した試合展開となるが、組手からの崩しに苦戦する須﨑の隙を突いた入江が、1分43秒に右足ホールドからバックポイントを決め、先制に成功。その後も須﨑は反撃の糸口を見出せず、第1ピリオド(P)終了30秒前にも入江が片足タックルから追加点を挙げ4−0に。天皇杯での敗戦が脳裏によぎる、苦しい展開で前半を折り返した。

 「自分の強さはここからだ。世界選手権には絶対私が行くんだ」。そう気持ちを切り替えて臨んだ第2P、須﨑の逆襲が始まる。組手での攻防で徐々に須﨑がペースを握り迎えた第2P中盤。入江の片足タックルを凌ぐと、カウンターから逆に入江の右足をとらえバックポイントで2点を追い上げる。その後、入江のパッシブによるペナルティで加点し、その差は1点に。ビハインドのまま試合終盤を迎えたが、「落ち着いて最後、勝負をかけよう」。須﨑に焦りはなかった。試合時間残り20秒を切ったところで渾身の片足タックルを仕掛け、グラウンドでの競り合いからデンジャーポジションに持ち込み、遂に逆転に成功すると、そのまま入江を押さえつけ6−4で試合終了。因縁の好敵手との死闘を大逆転で制し、再び世界への切符を手にした須﨑は満面の笑みで幾度となくその拳を突き上げた。


入江との死闘を制し、拳を突き上げる須﨑


★苦節の果てにつかんだ世界への切符


昨年の天皇杯、屈辱の敗戦を喫し涙を浮かべる須﨑

 プレーオフを制し世界選手権の出場権を獲得した須﨑だが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。昨年、高校3年生にして世界女王の座を手にした直後の天皇杯で入江に対し1点も奪うことができず屈辱のテクニカルフォール負けを喫する。天皇杯での敗戦後はアジア選手権やW杯といった国際試合にも声が掛からず、自分ではない選手がその舞台で戦っている姿を見て悔しい思いをしてきたという。「自分の中で過信もあった」(須﨑)。太田拓弥監督も「優衣らしい積極的なレスリングが鳴りを潜めていた」とその当時を振り返った。

 入江に敗れた2度の試合、連勝記録を止められた3年前の天皇杯と、昨年の天皇杯の表賞状を自室の天井に貼り付け、片時もその悔しさを忘れず、もう一度基本に立ち返り自身の課題である『組手からのタックル』を徹底的に鍛え直した。また、試合終盤での攻防を見据え、接戦を想定したシチュエーションでの練習も重ねた。そんな中で迎えた2月のクリッパン女子選手権ではリオ五輪銀メダリストとの接戦を制し優勝。確かな手応えを感じる、最高のかたちで再スタートを切った。4月には早大に進学し、新たな環境に身を置くと、これまでと同様ナショナルトレーニングセンターで鍛錬を積むとともに、早大での男子との練習の中で新たな技術を身につけ、確実に力を伸ばしてきた。

 そして迎えた6月。「ここで優勝して絶対に世界選手権に行くしか、自分には道がない」。その強い思いで臨んだ明治杯で入江に対しフォール勝ちでリベンジを果たし優勝を決めると、プレーオフでは天皇杯と同じような劣勢の中から逆転勝利を収め、その確かな成長を感じさせた。悔しさを糧に、2年連続で世界への切符をその手中に収めてみせた須﨑。世界選手権2連覇が目下の目標ではあるが、その後にはいよいよ東京オリンピックをかけた戦いが幕を開ける。女子50キロ級には入江以外にも実力者が揃う激戦区だが、目標である『東京五輪で金メダル』へ向け、須﨑の歩みは続く。

 

(記事、写真 林大貴)

※フリースタイルは10点差がつくとテクニカルフォールで試合終了となる

結果

▽女子50キロ級
◯須﨑 6−4 入江

コメント

須﨑優衣(スポ1=東京・安部学院)※囲み取材より抜粋

――おめでとうございます

ありがとうございます。

――今のお気持ちからお聞かせください

世界選手権の出場権を取れてよかったという気持ちと、今年も世界選手権で優勝して2連覇するっていう気持ちです。

――試合を振り返っていただきたいんですが、追う展開となってかなり苦しい戦いだったのではないかと思いますが、いかがですか

始めに4点取られて、天皇杯のときと同じやられ方で。始め2点取られたときに一瞬焦ってしまったんですが、自分の強さはここからだと思って気持ちを切り替えて、世界選手権には絶対私が行くんだっていう強い気持ちに切り替えられたので、しっかり追いつけて、勝ち切ることができました。

――ラスト30秒の時点でも負けていたわけですが、そのときのお気持ちというのはいかがでしたでしょうか

本当にもう数秒しかない中で、自分の中ではあまり焦っていなくて、自分の強さはここからだと思っていたので。そういうシチュエーションの練習もしてきたので、結構落ち着いて最後勝負かけようと思っていけたので、そこが勝因かなと思います。

――吉村コーチがご不在の中で、吉村コーチが見ていない中での試合というのは初めてだったかと思われますが、いかがでしたか

アジア選手権のときもあったんですけど、本当に1年ぶりぐらいで、安心してもらえるようにしっかりと勝って良い報告をすると決めていたので、勝つことができてよかったです。

――今年の2月にリオ五輪銀メダリストの選手を破るなど世界では敵なし、国内で勝つ方が大変だったかもしれませんが、世界選手権に向けてはいかがですか

世界選手権で連覇して五輪につなげたいので、この世界選手権では何が何でも出場したいと思っていたので、せっかく自分でつかみ取ったチャンスなので、絶対に自分のものにして、女子の世界チャンピオンになれるようにがんばりたいと思います。

――先制を許した原因というのはどこにあると思いますか

始め取られたときに、自分がやらなければいけないことが、手が止まっていたりしてやりきれなくて。取られた後にやらなきゃって気付けたのでよかったんですけど、始めから、どんな相手にも自分のレスリングで戦えるようにしないといけないな、というのは痛感しました

――天皇杯のときのようにずるずるといきませんでしたが、精神的に成長を感じる部分はありますか

天皇杯のときは取らなきゃ取らなきゃと焦ってしまったんですけど、今回は気持ちをすぐに切り替えて、世界選手権には絶対に私が行くって決めて。まず2点取り返そうって落ち着いて戦えたことがこの前の天皇杯と比べて成長できた部分だと思います。

――リードされていたときの練習というのは具体的にはどういったものですか

ラスト30秒の展開で4−0、自分が負けている状況であったり、2−0で勝っている状況とか、そういった練習をたくさんしてきたので、そこは自信になりました。

――この勝ち方は相当自信になるのではないですか

そうですね、はい。

――入江選手とたくさん試合をやられていると思いますが、須﨑選手にとって入江選手はどういった存在ですか

本当に入江選手は自分にとって絶対に勝たなければならない相手でありますし、もちろん見習うべき点はたくさんあるんですが、東京オリンピックに出場するためには勝たなければならない相手なので、絶対に勝ちたい相手です。

――入江選手の属性をわかっている中で、試合中に変えたかもしれませんが、試合において狙いみたいなものはありましたか

今回は天皇杯で負けたときに得た課題を克服するために半年間やってきて、それを勝つために思いっきりやりきろうと思って挑みました。

――課題というのは具体的に

組手からのタックルですね。

――きょうの試合に関してはいかがでしたか

始めの方はできなかったんですけど、やっぱり第2Pからはできてきたので、始めからできるようにもっともっと練習していかないといけないなと思いました。

――組手からのタックルで具体的に取り組んだ点というのは

自分は正面に入ってしまう場面が結構あるんですけど、左右の動きを使って相手を揺さぶってタックルに入るかたちをしていきたかったんですけど、今日はなかなかできなかったので、もっと練習して、世界選手権ではそれを決められるように頑張りたいと思います。第2Pでは崩しからのタックルの連携はできなかったんですけど、崩しは効いていたので。最後タックルは入れたので、連携をできるように練習していきたいと思います。

――世界選手権連覇がかかっていますが、今後に向けていかがですか

今年の12月の天皇杯から東京五輪の選考が始まるので、世界選手権で絶対に連覇して。次は天皇杯で勝って、明治杯でも勝って、一発で東京五輪出場を決められるようにがんばりたいと思います。