「勝負への執着」「強い意志」「高い意識」……日本代表の現場は、そういった精神性を表す言葉で溢れるのが常だ。日本代表ではなくても、スポーツもある程度のレベル以上になるとそうなるだろう。そんな言葉を口にすることで自分…

「勝負への執着」「強い意志」「高い意識」……日本代表の現場は、そういった精神性を表す言葉で溢れるのが常だ。日本代表ではなくても、スポーツもある程度のレベル以上になるとそうなるだろう。そんな言葉を口にすることで自分自身を鼓舞するという側面もあるのだろうが、たいていの選手たちは本気であり、我々の予想を超えるピュアでストレートな言葉を残してくれる。

 しかし、中島翔哉(ポルティモネンセ)の場合、少し違うのである。数年前は、「僕は将来バルセロナに……」などと、失礼な言い方をすれば大言壮語に聞こえる台詞を吐くこともあった。だが、リオ五輪を目指していたあたりから、その表現がずいぶんと変わってきた。今では話すテンポもおっとりとし、気張ったところがない。いわゆる自然体そのものに見える。



ベネズエラ戦に先発、後半23分に退いた中島翔哉

 ベネズエラ戦の前日、中島に「欧州との往復は大変だと思うが、疲労のケアなどはどうしているのか」という質問が飛んだ。こういう場合、よくある答えは「諸先輩や仲間も経験しており、代表選手としては乗り越える壁だと思う」というものだ。最近になって始めた心身両面のトレーニングやケアに話題が及ぶことも多い。

 だが、この日の中島はこう答えた。

「基本は、好きなことをやっていると疲れないものじゃないですか。それが一番かなと思います」

 これまで何度も耳にしてきた質問に対して、これは初めて聞く返答だった。もちろん、代表に呼ばれ出して間もない現在はフレッシュな状態を保っており、勝負のかかった公式戦でもないから、プレッシャーはあまりない状態だろう。1年後にまた同じことを言えるとは限らない。それにしても、この気負いのなさは稀有なものだと思う。

 森保ジャパンにおいては、10番イコール中島という図式が早くも定着したように見える。この点について聞かれた中島は、首を傾げながらフワッと話した。

「10番に関してはサッカー界では重要な番号だということは知っています。でも、自分は20とか23とか8とか、それによってパフォーマンスが左右されることはよくないと思う。だれでもつけられる番号でないというのはわかっているので、そこはうれしいし、喜びをもってプレーすることは大事だと思いますけど」

 ベネズエラ戦では、とくに試合序盤、プレーにもその自然体ぶりが遺憾なく発揮されていた。

 スタジアム入りするバスが渋滞に巻き込まれるというハプニングが起きたことで、選手たちはウォーミングアップを十分に行なえずに試合に入ることになった。直前までダッシュを繰り返す選手も見られたし、どう見ても動きが重い選手もいた。そんななか中島は、とても自然にギアを上げていくように見えた。

 実際、たいしたストレスにはならなかったようで、「あんまりそういうのを気にしないタイプなので、試合に全力で臨めるように、短い時間でしっかりアップしようと思いました」と話している。

 前半3分には堂安律のドリブルから左サイドへのパスを受けると右足でシュート。枠をとらえられなかったが、相手に先んじて攻撃の姿勢を見せた。34分には大迫勇也のスルーパスに抜け出して右足でシュート。これは相手GKに防がれた。その5分後、右サイドの低い位置からのFKを中島が右足で蹴ると、壁の奥から飛び出した酒井宏樹が自身代表初ゴールとなる先制点を決めた。

 中島は1-1で終わった試合をこう振り返った。

「どの試合も勝つ可能性、負ける可能性、もちろん引き分ける可能性がある。結果はこうなって、次にすぐ試合があるので、そこに向けてまた頑張っていきたいです」

 何も語ってないとも言えるが、記者たちを煙に巻いてやろうという感じではない。気合十分な日本代表選手たちのなかで、ひとり、そんなことを感じさせない中島なのであった。