今シーズン、町田ゼルビアは、報いの少ない戦いにその身を投じてきた。J2開幕時点で、クラブはJ1昇格に必要な条件(スタジアム収容人数や練習場の天然芝化)を満たせていない。J1昇格プレーオフを戦う「6位以内」を目標に掲げるも、その対価はな…
今シーズン、町田ゼルビアは、報いの少ない戦いにその身を投じてきた。J2開幕時点で、クラブはJ1昇格に必要な条件(スタジアム収容人数や練習場の天然芝化)を満たせていない。J1昇格プレーオフを戦う「6位以内」を目標に掲げるも、その対価はないに等しかった。
にもかかわらず、ピッチに立った町田の選手たちは、シーズンを通して死力を尽くした。42試合目となる最終節のアディショナルタイムまで、J2優勝の可能性を残していたのだ。
「選手を褒めてあげたいです」
最終節後の記者会見、相馬直樹監督は屈託のない表情で語っている。
「J1関係者からは(町田が自動昇格の2位以内に入ればJ1昇格チームは1つ減り、J1からの降格チームもひとつ減るので)『頑張ってくれよ』と連絡がきたりしていました。応援してもらって、ありがたいけど、もやっとするというか、やるせないところは選手たちもあったはずです。一方で対戦相手からは、そんなに頑張るなよ、と言われて……。気力が落ちかけることもあったはずですが、選手たちは毎試合、気持ちを奮い立たせてピッチに立ってくれました」
昇格プレーオフ圏内入りがかかっていた東京ヴェルディとの最終節、町田はどのように戦ったのか。
J2最終節を終えた町田ゼルビアの相馬直樹監督と選手たち
11月17日、小田急線の鶴川駅近くでは、町田の案内スタッフが大きな声で注意喚起を促していた。
「今日のチケットは完売です! 当日チケットはございません!」
スタジアム直行のバス乗り場には、大勢のファンが列を作っていた。最終節を前に、3位で優勝を争うチームへの愛情と敬意か。昇格への道は閉ざされた中での戦いは、高潔かつ健気だ。
満員のスタジアムでは、1万13人の人々が熱を放った。
その町田の熱気に気圧されたのか、アウェーの東京Vは前半、消極的だった。前にボールを運べず、引っかけられる。前半はシュート0本に終わった。
もっとも、町田も十八番とするボールに食らいつくプレッシングはかわされていた。スペイン人指揮官、ミゲル・アンヘル・ロティーナが率いる東京Vは、CB2人がペナルティエリア横の外側にそれぞれ広がって、町田の2トップは行き場を失う。スペイン人監督ではウナイ・エメリ(現アーセナル監督)なども使うプレス回避方法だ。これにより町田は、優勢ながらもリズムをつかみきれなかった。
そして後半は、プレーオフ進出に向けて意を決した東京Vが巻き返す。サイドアタッカーを起点に後方から援護。サイドで優位を保ち、得点機を多く作った。
「お互いが特色を出し、拮抗した戦いになった。後半は、我々が左サイドからたくさんチャンスを作っている。ゴールは右サイドからだったが」(ロティーナ監督)
76分だった。東京Vは左サイドから右サイドに大きくボールを展開。奈良輪雄太がダイアゴナルにクロスを入れる。それを中央からサイドに流れながら走った林陵平が、線と線を点で結びつけるように、飛び出したGKの鼻先で合わせ、先制に成功した。
リードされた町田だったが、ここから底力を証明する。
82分、敵陣でのセットプレーのセカンドボールをしつこく拾う。左サイドバックの奥山政幸が、プレスを受けながらも球際の競り合いで上回る。これで右サイドに展開したボールを、ロメロ・フランクがエリア内に走り込んで受け、マイナスに折り返す。最後は右サイドバックの大谷尚輝がゴールに蹴り込んだ。
「ひとつひとつのプレーを頑張ってきたから、あそこにボールがこぼれてきた。みんなで獲ったゴール。自分たちらしい」(町田・大谷)
特筆すべきは、町田のひとりひとりの球際での強さとチームとしての攻撃意欲だろう。
試合を通し、多くの選手が球際で負けていない。1対1の決闘とでも言うべきか。その鍛錬がチーム力につながっていた。また、同点にした瞬間、エリア内には7人もの町田の選手が入っている。決めたのもサイドバックの選手だ。戦術的に攻守のバランスがいいとは言えないが、ゴールに対する果敢さが奇跡を呼び込んだ。
「狙いどころを絞りきれずに失点しましたが、相手は点を獲った後は下がるだろうな、と。粘り強く戦い、同点にすることができました」
相馬監督はそう言って胸を張った。アディショナルタイムに、町田がもう1点を奪って勝っていたら優勝していた。
「他会場の結果は知りませんでした。最後のコーナーキックは、優勝への1点かもしれなかったと思うと、(あえて聞かず)知らずにやっていた自分はどうなのか、と思いますが……。ただ、1年間を通じ、選手、スタッフが示してくれた戦いは、すばらしいものでした」
結局、町田は1-1で引き分け、4位に終わった。6位でプレーオフに進む東京Vの花道を作った形になり、目に見える勲章はない。しかし、その清冽(せいれつ)な戦いは称賛されるべきだ。
来シーズンはサイバーエージェントが筆頭株主となって、J1昇格条件をクリアする方向で動くという。
「来季に向けては、(クラブと)前向きに話をさせてもらっています。現状維持ではいけない。何らかの変化が必要だと思っています」
そう言って記者会見場を去る相馬監督の背中に、記者たちから、その健闘を称える拍手が浴びせられていた。