風が少し冷たくなりつつ秋の陽気が感じられる9月下旬。東京ビックサイトで開催されたツーリズムEXPOジャパン2018内で、パラスポーツ体験イベント『i enjoy! パラスポーツパーク』が行われた。日本財団パラリンピックサポートセンター(通…

 風が少し冷たくなりつつ秋の陽気が感じられる9月下旬。東京ビックサイトで開催されたツーリズムEXPOジャパン2018内で、パラスポーツ体験イベント『i enjoy! パラスポーツパーク』が行われた。日本財団パラリンピックサポートセンター(通称パラサポ)として3度目の出展となる今回のイベントは、大人から子供までの幅広い世代が分け隔てなくパラスポーツを体験でき、楽しめる内容となっている。今まで人気だった競技体験に加えて、今年はウィルチェアーラグビーの選手、スタッフによるレッスン及びタックル体験も実施された。

 実際に車いすバスケットボールやボッチャ、パラ・パワーリフティングを体験してみると、「パラスポーツ」に対して感じていたハードルがすぐになくなっていき、競技自体を楽しむことができた。車いすバスケットボール体験では、パラサポの伊吹祐輔さんに車いすの動かし方を教えてもらい、応用としてフリースロー体験やミニゲームに参加。車いすをまるで手足のように自由自在に動かす伊吹さんを参考に、見よう見まねで車いすを精一杯動かしてみても、思うようには操作できない。車いすバスケットボールならではの面白さやむずかしさ、車いすバスケットボールで活躍する選手への尊敬の念を身をもって感じた体験であった。障がいなどによって身体の動きが制限されている選手たちが、最大限のパフォーマンスを繰り広げるパラスポーツのすごさを実感し、パラスポーツへの興味が引き出された。


車いすバスケットボールの体験コーナーも開かれた

 また、ボッチャについても取り上げたい。「ボッチャ」と聞いてピンと来る人は少ないかもしれないが、ボッチャ日本代表は2016年のリオデジャネイロパラリンピックで銀メダルを獲得している。ボッチャは白いジャックボールと呼ばれる目標球を投げた後、野球ボールより一回り大きいサイズの赤・青ボールそれぞれ6個を投げていき、よりジャックボールに近づけたチームの勝利となる競技である。重度障がい者向けに考案されたスポーツなので、障がいによりボールが投げられない場合でもランプ(勾配具)という道具を使用し、介助者に意思を伝える形で参加することができる。

 実際にボールを投げてみると、初めてということもあり力加減が難しく、なかなか思い通りに投げられない。今回は体験ブースということでコートの長さは約5メートル程度だったが、実際のコートは2倍の10メートル。そうなると、さらにボールを正確にコントロールすることは難しくなるだろう。そんなことを考えているとスタッフの方から驚きの言葉が飛び出した。「世界レベルになっていくと、ボールの上にさらにボールを乗せてくる技もあるのですよ」。初めはボールコントロールのみを意識するものだと思っていたが、話を伺うとコントロール以外の高度なテクニックや高い集中力を要すると共に、6個のボールをどう使うかということや相手の出方を予測するといった頭脳面も実は重要になってくることがわかった。そのためボッチャは『地上のカーリング』とも呼ばれているそうだ。実際に体験することでその難しさを感じると同時に、上手くいった時の楽しさも味わうことができた。難しいからこそさらなる高みを目指し、そこで成功したときのうれしさも倍になるのだ。


ボッチャ体験コーナーにて巧みにボールを操る早スポ記者

 「この体験イベントによって世間とパラスポーツとの接点を作っていきたい。少しでもパラスポーツについて知ってもらいたいし、パラスポーツの魅力も多くの人に知ってもらいたい」。こう語るのはパラサポの今林優一郎さんだ。パラスポーツに触れるきっかけともなるこのイベントには、様々な工夫が凝らしてある。他のブースに来ている人たちが、パラスポーツ体験コーナーに足を運んでもらうために入りやすいブースにすると共に、福祉のイメージを払しょくするために床を黒くしスポーツの格好良さを前面に表した。パラスポーツの普及活動の一環としての今回の体験イベント。パラサポが掲げるキーメッセージ『i enjoy!』を我々が実感でき、そしてパラスポーツに近づく第一歩となる貴重な体験であったことは間違いない。

 パラサポのキーメッセージである『i enjoy!~楽しむ人は強い~』。スポーツの醍醐味は、やはり「楽しい」と思えることだろう。2020年の東京パラリンピックを迎えるにあたり、パラスポーツに着目したイベントというのはますます増えてくるはずだ。このようなイベントを通してより多くの人がパラスポーツの魅力に気づき、パラスポーツを楽しむ人々が増えていくことを願うばかりだ。

(記事 飯塚茜、栗林真子、写真 涌井統矢)

その他の連載記事はこちら


コメント

今林優一郎さん(日本財団パラリンピックサポートセンター パラスポーツ企画担当)

――どういった意図を持ってイベントに出展されていますか

我々の団体はパラスポーツの魅力を多くの人に知ってもらいたいという思いで活動しています。この事業ではパラスポーツの普及や啓発と、競技団体への支援という大きな2つの柱があって、僕がメインでやっているのは普及と啓発の方です。パラスポーツ、パラリンピックに関してどのような競技があるのかを知らない人が多いと思うので、少しでも多くの人に魅力を知ってもらいたいと思っています。ですので、今回のように出展をすることで実際に体験をしてもらったり、広報でも色々なツールを使って発信したりしています。例えば、スポーツと音楽の夢イベント『ParaFes』や障がいのあるランナーと健常者ランナーとでチームを作り参加する『パラ駅伝』の開催です。芸能人などの有名な方に来ていただいたりもして世間と色々な接点を作ることで、少しでもパラスポーツについて知ってもらえるように努めています。その一環として今回のツーリズムEXPOにも出展させていただきました。このイベントに出展するのは今回で3回目です。

―さまざまな体験コーナーがありますが、特に工夫されている点などありますか

小さい子どもからお年寄りの方まで幅広い年齢層の方に楽しんでいただけるように心がけています。外から見て入りやすいブースにしたり、床を黒色にすることでパラスポーツの福祉的なイメージを払しょくして、よりかっこよく見てもらえるような工夫をしています。ありがたいことに大学や企業からボランティアの方が結構来てくださるのですが、その方々もパラスポーツについて知らないことが多かったりするので、スタッフも含めてここのブースに来てくださった人全員に魅力が伝わるように工夫しています。

――出展されて、実際にその効果を感じられる場面などはありますか

来場者にアンケートを取ると、「こういったイベントをもっともっと色々なところでやってほしい」というご希望や、「今まで全然知らなかったけどこれからは応援していきたい」などの声をいただいているので、パラスポーツの魅力が伝わっているのかなと感じています。

――今後、どのような事業の展開を考えていますか

例えば『あすチャレ!運動会』というパラスポーツの運動会をやっています。今度は全国横断パラスポーツ運動会というのを行う計画をしています。やはり色々な声を聞くと、実際に体験していただくことが一番効果が大きいのかなと思うので、一人でも多くの方に体験していただける機会を提供していきたいなと思っています。

――実際に体験してみた子供たちはどのような反応をしていますか

子供たちは一回体験するとずっとこのブースにいますね(笑)。エンドレスに回ってくれます。家族連れの方が多く来てくださって、その子どもたちはずっと体験していました。子どもたちにとっては車いすに乗れる機会なんてなかなか無いので、興味を惹くのかなと思います。ボッチャとかは子供でも簡単にできる競技なので人気ですね。うちにも小学生の子供がいるんですけど、「ボッチャはやりたい」と言っています(笑)。

――2020年東京パラリンピックへ向け、どのような広がりを見せてほしいですか

パラスポーツに関わる人全員の共通の思いだと思うのですが、パラリンピックの競技会場を満席にしたいなと思っています。僕たちは実際に体験してもらうなどさまざまな活動を通して宣伝しているので、それがきっかけでパラリンピックを知ってもらって実際にパラリンピックを見に来てもらうところまでつなげられたらいいなと思っています。なかなか数値で測るのは難しいと思うんですけど、少しでもパラスポーツの魅力が広まってくれたらうれしいです。