新型空力パーツ、スペック3パワーユニット、進化したセットアップ――。 2018年最高の状態にあるマシンで臨んだはずの第20戦・ブラジルGPで、トロロッソ・ホンダは惨敗に終わった。11位と13位という得点圏外に沈んだ理由は、いったい何だ…

 新型空力パーツ、スペック3パワーユニット、進化したセットアップ――。

 2018年最高の状態にあるマシンで臨んだはずの第20戦・ブラジルGPで、トロロッソ・ホンダは惨敗に終わった。11位と13位という得点圏外に沈んだ理由は、いったい何だったのか。



トロロッソ・ホンダは起伏の激しいインテルラゴスのコースに苦しんだ

 決勝直後、トロロッソ・ホンダの面々には狐につままれたような表情が浮かんでいた。ザウバーやハースと比べて戦闘力で劣ることはわかっていたが、まさか入賞圏から50秒も離されてしまうとは思っていなかったからだ。

 問題は、レースペースの遅さだった。予選ではQ3に進出する速さがあったものの、レースペースが遅かった。

 チーフレースエンジニアのジョナサン・エドルスは、どうしてこんなにレースペースが遅かったのか、原因はまったくわからないと語った。

「今日の我々にはトップ10にとどまるだけの速さがなかった、ということに尽きるだろうね。戦略的にはうまく機能したものの、単純に我々より速いマシンに抜かれてしまった。ショートランとロングランのデルタ(タイム差)が他のチームに比べて大きかったんだ。なぜ遅かったのか、現時点では我々にもわからないので、答えることができない。言えるのは、とにかく遅かった、ということだけだ」

 ロングランの遅さは、金曜フリー走行から明らかだった。

 アップダウンが多く、コーナーの入口と中と出口で傾斜が異なるようなアンジュレーション(地表の起伏)の複雑なインテルラゴスに、STR13は順応し切れていなかった。

「マシンバランスに苦しんだ。FP1ではフロントロッキングに苦しめられ、ブレーキングからコーナーのエントリー、さらにそこからミッドコーナーへのマシンバランスに問題を抱えていた。

 ここはコーナーによってキャンバー角が違ったり、ところどころバンピーなところがあったりと、トリッキーなサーキットだから、それに苦しんだのは僕だけではなかったと思う。FP2に向けて大幅にセッティングを変えて、デフやエンジンブレーキング、ブレーキバランスのマッピングをかなり調整してよくなったけど、まだ完璧なところまで仕上がってはいない」(ブレンドン・ハートレイ)

 チームは土曜に向けてさらにセッティングを見直し、ロングランペースを向上させる手立てを打った。

 ホンダは残り2戦でスペック3の性能をリスクなくフルに使うために、金曜はスペック2を使っており、土曜にスペック3に載せ換えれば、そのぶんだけタイムが向上するという見込みもあった。だが、それでもまだ十分ではなかったということだ。

 予選では、ピエール・ガスリーがなんとかQ3に進み10位。一方、ブレンドン・ハートレイはQ1敗退となったが、雨がいつ降り始めてもおかしくない状況でチームがコースインを遅らせたのが影響し、わずか0.016秒差での敗退。もし普通に走ってQ2に進んでいれば、ガスリーと同様にQ3進出を争う速さはあったはずだ。

 しかし、一発の速さでザウバーに大きく差をつけられたことに変わりはない。

「(ザウバーが)2台揃ってQ3に進出したことからもわかるように、今の彼らは明らかにコンペティティブだよ。彼らはフェラーリと提携し、開発を進めて毎週のようにアップデートを投入してきているし、シーズン開幕当初とは比べものにならないレベルまで進歩している。もっとポイントを取っていないのが驚きなくらいで、ランキング8位という今の結果が表すレベルではない。

 GPSのデータを見ても、彼らはストレートが速い。コーナーではだいたい、どこでも僕らのほうが速いのに、ストレートでは僕らよりも格段に速い。彼らを逆転するのは簡単ではないよ」

 ザウバーの速さをそう説明するガスリーは、ストレート重視のザウバーとコーナー重視のトロロッソ・ホンダでは戦い方が異なり、それがタイヤマネジメントとレースペースに影響を及ぼしたのかもしれないと推測する。

「エンジンパワーでアドバンテージがあれば、ストレートでタイムを稼いでコーナーを少し抑えて走ることができるし、そうすればタイヤに入るエネルギーを小さくすることができ、タイヤの発熱を抑えることもできる。ザウバーはその好例だよ。

 彼らはストレートがすごく速く、コーナーは遅くてラップタイムが同じでも、タイヤにかかる負荷は小さい。長いスティントになれば、その差はとても大きくなる。ストレートが速ければ、セットアップ面でどっちに振るかの自由度も大きくなるしね。実際に僕らもダウンフォースを削ってはみたけど、コーナーでマシンがスライドして、デグラデーション(性能低下)が大きくなってしまったんだ」

 しかし、非力なルノー製パワーユニットを搭載するレッドブルが予選ではメルセデスAMG勢やフェラーリ勢に敵わなくても、タイヤマネージメントとレースペースで彼らを逆転する速さを見せたことを考えれば、ガスリーの推測は必ずしも正しいとは言えないかもしれない。

 もうひとつ、ストレートエンドの車速差がルノーのカルロス・サインツと「25km/hもあった」とガスリーは語ったが、常にその差があったわけではない。

 では、いつ、どういう状況でその差が生じたのかというと、リフト&コースト(※)をしている時だ。

※リフト&コースト=ドライバーがアクセルをオフにして惰性でクルマを走らせること。

 実は、トロロッソ・ホンダ勢はレースのかなり早い段階から、各ストレートエンドで「1秒のリフトオフ」を余儀なくされていた。その後、レース中盤には「さらにあと1秒」、最終的には「2.5秒」のリフトオフ指示が出された。「想定以上に燃費が厳しかったからだ」と、ガスリーは言う。

 そうなってしまったのは、ホンダ製パワーユニットの燃費がメルセデスAMGやフェラーリに劣っているというだけではなく、チームがレース途中の雨を見越して規定最大量の105kgよりも少ない燃料しか搭載していなかったことが大きく影響したようだ。

 もちろん、それは戦略として多くのチームが採っている手法でもある。

 トラフィックのなかで走ったり、タイヤを労るためにペースを抑えて走ったりすれば、そのぶんだけ燃料消費量を抑えることができて105kgも必要としない。それは雨の場合も同様だ。燃料搭載量が10kg軽い状態で走ればラップタイムは0.3秒ほど速くなるうえ、レース序盤のタイヤへの負荷も減るのだから、リフト&コーストで燃費をセーブしてでも、結果的にそのほうが速く走り切ることができる。たとえば、昨年のブラジルGP完走車で最少燃料消費量は96.3kgだった。

 しかし、今回のトロロッソ・ホンダの場合は雨を期待していたことと、レース前半は集団のなかで走ると想定していたガスリーが前についていけなかったため、燃費はさらに厳しくなってしまった。

「想定がちょっと外れたんです。朝の段階では雨が降ると言っていたので(燃料搭載量を減らしたものの)、それが外れてしまいました。レース全体の流れが若干外れた結果、ロングランペースがよくないから後ろから突っつかれて戦わざるを得なかったり、想定以上にフリーエアで走ることになったり。まぁ、それも含めて戦略ですが……」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 そのままでは勝負にならないことがわかっていたからこそのリスクテイクであり、そのギャンブルに敗れたというのが実際のところだった。

 ただし、今季最高の状態で臨んだはずのブラジルGPで純粋なパフォーマンスを欠いたことは、しっかりと究明しなければならない。ガスリーは言う。

「正直言って、現段階では明確な答えは持ち合わせていないよ。これからデータを分析しなければならない。最終コーナーからの立ち上がりが上り坂になっていたり、パワーセンシティビティが高いサーキットであったことは確かだけど、予選パフォーマンスはすごくよかったんだから、そう単純な話ではないと思う。決勝パフォーマンスがこんなにプアだったのがなぜなのか……」



ブラジルGPで思わぬ苦戦を強いられたピエール・ガスリー

 これでコンストラクターズランキング8位を争うザウバーとのポイント差は「9」にまで開いた。それでもなおトロロッソ・ホンダはあきらめず、2週間後の最終戦アブダビGPに向けてブラジルGP不振の原因を徹底的に見直して臨むつもりだと、ホンダの田辺テクニカルディレクターは語った。

「最後はきっちりした形で、1年を締めくくりたいと思っています。今回の結果もチームとして解析しますし、トップスピードが遅いという話もありますから、そのへんも含めてパワーユニットのパフォーマンスをもう一回見直し、持てるパフォーマンスを最大限に発揮できるように準備をして臨みたいと思います。アブダビGPを中団上位でフィニッシュできれば(ランキング8位逆転の)可能性はまだありますから、最後まであきらめずに戦います」