フローニンゲンが2-0で勝利した「オランダ北部ダービー」から一夜明け、月曜早朝の新聞には「堂安のダービー」(全国紙『デ・テレフラーフ』)、「ロッベンを想起させるゴール」(地方紙『ダッハブラット・ファン・ヘット・ノールデン』)といった見…

 フローニンゲンが2-0で勝利した「オランダ北部ダービー」から一夜明け、月曜早朝の新聞には「堂安のダービー」(全国紙『デ・テレフラーフ』)、「ロッベンを想起させるゴール」(地方紙『ダッハブラット・ファン・ヘット・ノールデン』)といった見出しが並んだ。



「オランダ北部ダービー」でスーパーゴールを決めた堂安律

 11月11日に行なわれたエールディビジ第12節「フローニンゲンvsヘーレンフェーン」は、堂安律のためのダービーマッチとなった。

 ハイライトは38分に訪れる。左サイドからの低いクロスをセンターFWのミムン・マヒは中央でさばき、右サイドの堂安にパスを出した。ヘーレンフェーンは堂安のカットインを警戒して、中の守備を固める。しかし、堂安はわずかにゴールから遠ざかってシュートスペースを作り、腰のひねりを効かせながら強烈なミドルシュートを打った。

 スピード、コースは完璧。少しばかりカーブを描いたシュートは、GKワーナー・ハーンの伸ばした手を越し、ゴールネットに突き刺さった。

 堂安はフローニンゲンのベンチに向かって疾走して、コーチングスタッフ、控えの選手たちと抱き合ってスーパーゴールを喜ぶ。場内のオーロラビジョンには堂安のゴールシーンが2度リプレーで映され、2万人を超す観客はそのたびに「ほーっ」と声を出して唸った。

「あのコースは毎回、練習しています。練習後にチームメイトが手伝ってくれるんです。サブのキーパーやキーパーコーチに感謝したいゴール。試合が終わってから、全員に『ありがとう』と言いました」

 居残りでシュート練習をする堂安と、彼を助けるチームメイトやコーチ。そんな日々を共有しているからこそ、ゴール後に堂安とチームメイトたちがベンチ前でひとつになったのかもしれない。

 最初にビッグチャンスを作ったのは、ヘーレンフェーンのほうだった。だが、フローニンゲンの繰り出すジャブに、ヘーレンフェーンは徐々に受け身になってしまった。そのジャブのひとつがサミール・メミセビッチから堂安に出続けた、ビルドアップのフィードだった。

 ポゼッション時、メミセビッチはフローニンゲンの起点となる。ルックアップして堂安の姿を確認すると、ためわらずに縦パスを入れた。やがてヘーレンフェーンはふたりの間のコースを消しにかかるのだが、今度は堂安が囮(おとり)となって、メミセビッチから他のチームメイトにパスが出た。

「作り込まれたビルドアップだな」と、私は感じた。すると、堂安は「そんなことはないんです」と言って続けた。

「彼とはすごく仲がいいので(笑)、それが間違いなくピッチに表れています。センターバックからボランチにポジションを移して、俺をすごく生き生きとさせてくれている。感謝したいですね」

 たしかに以前、「メミセビッチと仲がいい」と聞いたことはあった。だが、両者のプライベートな間柄がチーム全体に好影響を及ぼし、ビルドアップのオートマティズムを生んでいたとは思いもしなかった。

 後半のフローニンゲンは試合のコントロールに務め、ヘーレンフェーンにシュート1本しか許さなかった。堂安はミドルシュートやフェイントを繰り返し、相手のマークを無力にするプレーもあったが、前半と比べれば無難にプレーをまとめていた。

 後半アディショナルタイムになると、デニー・バイス監督は観客にスタンディングオベーションを促し、堂安をベンチに下げる。「今日のマン・オブ・ザ・マッチは堂安です!」という場内アナウンスが叫ぶなか、堂安は割れんばかりの拍手を浴びながら退いた。

 前節のエクセルシオール戦(4-2でフローニンゲンの勝利)でも堂安は、相手のマークを背中でブロックしながら浮き玉を巧みにトラップし、反転しながらのボレーシュートでスーパーゴールを決めている。あの日、彼は現在のプレーの感触をこう語っていた。

「相手がどう動くか、先の先まで読めるので、余裕を持つことができている。0.01秒ぐらいの感覚だと思うんですが、言葉で表せない感じです」

 もしかしたら、堂安は小さな壁を越したのかもしれない。今季は開幕戦でゴールを決める幸先のいいスタートを切りながら、リーグ戦で9試合もゴールから遠ざかっていた(その間、日本代表ではすばらしいプレーを披露してゴールを決めていたのだが)。

 今季のフローニンゲンは、なかなかチームが固まらず、最下位に沈んでいた。堂安も前線で孤立し、フラストレーションを抱えながらのプレーしていた。しかし、10月27日のPSV戦で1-2と敗れはしたものの、好パフォーマンスを披露してからは負のスパイラルが止まり、続くエクセルシオール戦、ヘーレンフェーン戦と連勝して最下位を脱出。堂安もスーパーゴールを決め続けた。

 ヘーレンフェーン戦後、堂安はしみじみと語る。

「ボールを失う気があまりしないです。最近すごくキレが出てきていて、身体の使い方も試合ごとにうまくなっているなと。正直、(夏の移籍市場でCSKAモスクワ移籍が破談となり)フローニンゲンでプレーすると決まった時、成長できるのか不安もありました。でも今、自分自身が成長できているなと感じています。

 それは、見ている人もホンマにわかると思う。チームのせいではなく、自分自身の問題なんだなと。あらためて、サッカーにおいて気づかされました。これからもし、チームが変わったとしても、それは大事なことだなと、ホンマにここ2、3週間で感じさせられました」

 ヘーレンフェーン戦が終わった堂安はすぐに飛行場へ向かい、日本代表に合流しなければいけない。スーパーゴールの余韻を楽しみながら、堂安は機内で過ごすのだろうか。

「はい。Wi-Fiがつながるので、飛行機のなかで映像をずっと見ています」

「0.01秒の世界」を会得した堂安律――。そのゾーンに入った感覚を、日本代表の11月シリーズでも発揮してほしい。