J1では川崎フロンターレが連覇を達成し、ACLでは鹿島アントラーズが頂点に立った。J3ではFC琉球が悲願の初優勝と、各コンペティションでタイトル獲得チームが決定し、2018年の日本のサッカーシーンもいよいよフィナーレの時を迎えている。…

 J1では川崎フロンターレが連覇を達成し、ACLでは鹿島アントラーズが頂点に立った。J3ではFC琉球が悲願の初優勝と、各コンペティションでタイトル獲得チームが決定し、2018年の日本のサッカーシーンもいよいよフィナーレの時を迎えている。



松本山雅で5年目を迎えた36歳の田中隼磨

 しかし、J2リーグだけはいまだ、決着の気配を見せていない。残り1試合となったのに、優勝チームはおろか、自動昇格も、プレーオフ進出チームも確定していない状況だ。今季のJ2はまさに、最後まで予想のつかない大混戦が続いている。

 第40節を終えて首位に立つのは、松本山雅FCだった。栃木SCの本拠地で行なわれる第41節で勝利を収めれば、優勝、あるいは自動昇格を決められる可能性があった。

 その歓喜の瞬間を目撃しようと栃木行きを決めたのだが、前日にその目論見はあっさりと破綻した。勝ち点1差で松本を追う2位の大分トリニータと、3ポイント差に迫る4位の横浜FCが揃って勝利を収めたことで、翌日に試合を控えていた松本の今節の優勝・昇格は最終節に持ち越しとなることが、この時点で決まってしまったのだ。

 取材者としては肩透かしを食らった格好だが、当事者の松本にとっては一気に追い込まれる状況となった。試合前の時点では大分にかわされて暫定2位に転落。横浜FCには勝ち点で並ばれ、同日に試合があったFC町田ゼルビアの結果次第では、自動昇格圏内(2位以内)から滑り落ちる可能性もあったからだ。

 思い起こされるのは2年前、松本は第40節まで2位につけながら、第41節に町田に敗れて3位に転落。最終節で勝利したものの、得失点差で清水エスパルスに及ばず、自動昇格の権利を手にできなかった。そして、プレーオフではファジアーノ岡山に苦杯をなめ、昇格を逃している。

 置かれた状況は違えども、同様の結末に陥る可能性は少なからずあった。しかし、松本は同じ轍(てつ)を踏むことなく、敵地での一戦を1-0でモノにして、首位の座を維持したまま最終節を迎えることとなった。

 立ち上がりは、プレッシャーを感じていたのかもしれない。シンプルに前に蹴ってくる栃木の圧力に押され、後方での対応を余儀なくされると、コーナーキックやフリーキックを次々に与えてしまう。栃木は今季、このセットプレーを武器としているだけに、狙いどおりの戦いと言えただろう。つまり、松本とすれば、相手の術中にハマってしまいかねない状況にあったのだ。

 しかし、集中した対応でゴールを許さず、徐々に落ち着きを取り戻すと、後半は疲れの見えた相手に対し、落ち着いてボールを回す時間帯が増加。そして72分、石原崇兆が左サイドをえぐりクロスを入れると、逆サイドに待ち受けていた田中隼磨が落ち着いて押し込んで先制に成功。その後は栃木のパワープレーにてこずったが、FWの高崎寛之を最終ラインまで下げ、まさに11人全員で虎の子の1点を守り抜いた。

 スコアは1点差ながら、松本にとっては薄氷を踏む戦いだったわけではない。なぜなら、今季の松本は1-0で逃げ切る試合が多く、21勝のうち実に11勝を、このスコアでモノにしているからだ。

「もちろん、追加点が獲れれば楽な展開になるけど、僕たちはまだまだ、そんなに強いチームではない。1-0で勝つことが、山雅らしいサッカーだと思う」

 殊勲の田中は、現状の松本の戦いをこう説明する。

「点を獲った後も危ない場面はたくさんありました。でも、追加点を取れなくても、身体を張ってしのぎ切れるところが自分たちらしいなと試合中にも感じましたし、実際に結果につなげられていることは、成長している証だと思います」

 ディフェンスリーダーの橋内優也は、「相手のストロングポイントを消すことが、自分たちのストロングポイント」と主張する。そのスタイルを実践するには、入念なスカウティングが求められるが、そこは反町康治監督の確かな手腕の賜物だろう。アルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、そして松本と3つのクラブをJ1に導いた知将は、この栃木戦でも万全な対策を敷いて、目論見どおりに勝ち点3を手にしている。

 栃木のストロングポイントであるロングボールやセットプレー対策には入念な準備を施し、危ない場面はほとんど作らせなかった。一方で攻撃がうまくいかなければ、高崎のポジショニングを修正させ、縦パスが通りやすい状況も生み出している。

「心臓に悪いようなシーンもたくさんありましたけども、しっかりと準備してきたことを表現してくれて、本当に感謝している」

 反町監督はそう選手たちを称えたが、指揮官の考えを実際にピッチ上で表現できる選手たちの献身こそが、今の松本の強みとなっているのだろう。

 振り返れば今季序盤の松本は、開幕から6戦未勝利と、苦しい戦いを強いられていた。しかし第7節の大宮アルディージャ戦で初勝利を挙げると、第20節からは5連勝を含む9戦負けなしと、勢いを加速。昇格のプレッシャーがかかる終盤にきて勝ち切れない試合も増えたが、粘り強く勝ち点を積み重ね、順位表の一番上に立って最終節を迎えることとなった。

 4位の横浜FCまでに優勝と、J1ライセンスのない町田を除く3チームに自動昇格の可能性が残る、運命の最終節。松本とすれば、勝ちさえすれば他チームの結果にかかわらず、優勝と昇格を実現できる。

「周りを気にせず、自分たちのサッカーをすること。山雅らしいサッカーで、しっかりと優勝して、J1に上がりたいと思います」

 田中は力強く宣言した。36歳のベテランの言葉は、果たして現実のものとなるのか。

 4年ぶりのJ1昇格へ――。最終節、大観衆が訪れるであろうホームでの徳島ヴォルティス戦で、その運命は決する。