イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の第11日。 男子シングルスは注目の2試合。1試合目はロジャー・フェデラー(スイス)、2試合目にはアンディ・マレー(イギリス)と、ウィンブルドンの2大人気者を…
イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の第11日。
男子シングルスは注目の2試合。1試合目はロジャー・フェデラー(スイス)、2試合目にはアンディ・マレー(イギリス)と、ウィンブルドンの2大人気者を準決勝に迎え、その2人を決勝へ押し出そうという観客の熱気がセンターコートに充満していた。しかしフェデラーはミロシュ・ラオニッチ(カナダ)に3-6 7-6(3) 6-4 5-7 3-6で敗れ、ウィンブルドン8回目の優勝に望みをつなぐことができず。一方のマレーはトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)を6-3 6-3 6-3で退けた。
なお、ジュニアの男子ダブルスで綿貫陽介(フリー)/ルーカス・クライン(スロバキア)は第4シードのベンジャミン・シグイン(カナダ)/ルイス・ベッセルス(ドイツ)に6-7(6) 6-4 3-6で敗れた。第1セットのタイブレークでセットポイントがありながら失い、最終セットは3-4の30-30からミスが続いてブレークを許した。昨年の全豪オープンに並ぶ4強入りはならず。
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ついにラオニッチがグランドスラム・ファイナルへの扉を叩き壊した。最速で時速231km、ファーストサービスの平均速度が時速207kmというキャノン(大砲)サービスを軸に、精度の高いストロークと腕を磨いたネットプレーでフェデラーに食らいつく。勝負を分けたのは、フェデラーがセットカウント2-1でリードしていた第4セットだった。第12ゲーム、このままタイブレークに突入と誰もが信じたフェデラーの40-0。しかし40-15からまさかの連続ダブルフォールトでデュースになり、結局4度のデュースの末にラオニッチがブレーク、タイブレークに持ち込ませず7-5でセットをひったくった。
そして最終セット、第4ゲームがビッグゲームとなった。3度目のデュースのあと、フェデラーがダブルフォールトをおかし、このゲーム2度目のブレークポイントを握った。ファーストサービスから1本アプローチショットを打ってネットについたフェデラーと、そこを抜こうとするラオニッチとのスリリングな攻防。最後はラオニッチのフォアハンドのパッシングショットがクロスに鮮やかに決まった。かつてサービスだけと言われた若者の成長を象徴するプレーだった。
3度目のグランドスラム準決勝でついにその壁を突破。2年前のウィンブルドン準決勝でラオニッチを粉砕したのはフェデラーだった。 「ミロシュは以前、もっとずっと後ろのほうでプレーしていた。今はネットに出るのが得意になって、プレーヤーとして進化している」
年初のブリスベンでラオニッチに敗れたフェデラーはそのときも今のラオニッチと同じ印象を抱いたという。ネットにもっと出るべきだと薦めたのは今年からコーチにつけたカルロス・モヤ(スペイン)だった。モヤはネットプレーヤーではないが、レジェンドコーチの言葉で自分の武器を信じ、迷いがなくなったラオニッチは、芝にかける強い思いからチームに自ら提案したという。
「もう一人、芝のシーズンのコーチをつけるのはどうか」
モヤをはじめ皆賛成し、タッチボレーの天才で〈コートの芸術家〉と呼ばれたジョン・マッケンロー(アメリカ)に白羽の矢が立つ。よりテクニカルな面でのお手本となり、チャンピオンの精神を学んだ。
彼らが与えるインスピレーションは大きいが、そもそも元王者を2人も引き寄せたのはラオニッチの飽くなき〈向上心〉だ。決して天才タイプではなく、ジュニア時代ウィンブルドンでは2回戦までしか進んでいない選手だった。
「食べるものから、試合の前の準備、オフシーズンには何をすべきか、メンタル面、フィジカル面、あらゆる側面での向上に努めた」
生まれ変わった25歳は、ウィンブルドンの決勝という舞台でもこれまでと同じ、フェデラー戦と同じ戦いができるだろうか。マレーという地元の英雄を相手に、自分を信じ、大胆不敵に。〈錦織世代〉の偉大な挑戦である。
(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)